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――エルドアーク宮殿――
※王の間 立体映像中継前
「こいつは驚いたね」
二人の闘いをさながらライブ中継、その立体映像を眺めながら、ノクティスは感嘆の声を紡ぎ出す。
「あのルヅキと互角とは……」
たがその表情には常に余裕の色が伺え、黄金の玉座に頬杖付いたままのスタンスは崩さない。
「でも……ルヅキの方が有利ですよね? 特異点の方がダメージ大きいし……」
ユーリは恐る恐る、そうノクティスに尋ねた。
未だに優勢をはっきりさせない。それ処が特異点よりで評価している様にさえ見えるノクティスに、それは業を煮やしたかの様に。
「確かに……今の処はね」
“今の処?”
ノクティスの特異点よりさは、更に不安を加速させる。
「こと破壊すると云う一点に於いて、ルヅキの右に出る者は存在しない。だがその力を以てしても仕留めきれない、あの子の奥深さ……」
ルヅキを持ち上げといて、実は特異点を更に持ち上げている風に見えるノクティスに、ユーリは震える拳を硬く握り締めていた。
“いったいどっちの味方なんだよ!”
「心配要らないよユーリ。私はルヅキの味方さ」
“ーーっ!?”
「……はっ!」
ユーリはまたも心を読まれていた事に、はっと我に還る。そしてその驚愕の表情は、ゆっくりと蒼白に青ざめていくのだった。
「あっ……ああ……」
あの時、殺気だけで抑えられた事を思い返し、言葉にならない震えた声と共に後退りするユーリ。
「申し訳ありませんノクティス様!」
庇い立てだてする様に、ハルがユーリの前に立ちはだかり、ノクティスへの許しを請う。
相変わらずノクティスは、頬杖を付いたままその表情を変える事は無い。
それは怒りという感情が欠落したかの様に、終始穏やかなまま。その真意の程を伺い知る事は、何人にも出来ないだろう。
「ユーリを責めている訳では無いよ。彼女のルヅキを慕う気持ちは、痛い程よく分かるからね……」
ノクティスのその言葉に裏は感じられない。
二人は一先ず、ほっと息をつく。
「私は勿論ルヅキの勝利を信じている。だが、この勝負の行方がどうなるかは分からない」
それは特異点の持つ、計り知れない底力に依るものなのか。
「とはいえ特異点のあの子も、これからルヅキの恐ろしさを思い知る事になるだろう……。彼女の真の強さは、圧倒的な戦闘能力だけでは無い」
映像に目を向けるノクティスに続く様に、ハルとユーリも二人の闘う姿を見詰めた。
“――ルヅキの真の強さ……て?”
「ルヅキの真の強さと恐ろしさの源。それを支えているのは、何人にも決して折る事は出来ぬ鋼の精神(こころ)」
ユーリの疑問に答える様に、映像のみを見詰めているノクティスが、眼下の二人に目を向ける事無く、そう呟くのであった。
――エルドアーク宮殿――
※入口扉前荒野
「なっーー何よこの風!?」
己の身体に纏わりつく様な突風に、ミオが声を上げる。だがそれすらも、吹き荒ぶ突風に掻き消される程の。
「ミ……ミオ!」
アミは妹の小さな身体を、しっかりと固定する様に抱き締めていた。
気を緩めると、一気に吹き飛ばされる程の風圧だ。
その突風の発生源。アミは其処に目を向ける。
「ユキ……」
激しくぶつかり合うルヅキとユキの二人。
突風はこの凄まじい迄の剣劇から、そのぶつかり合う余波として発生されていた。
特にルヅキの圧倒的な、その剣圧。
“――ユキが……押されている?”
「ね……姉様! い……今どうなってるの?」
突風に目を開けていられないミオが、アミに現状を問い掛けた。
「…………」
勿論アミも吹き荒ぶ突風に目も開けられない位の状況だが、その問いに返せないのは何もそれだけでは無い。
現状は誰の目にも明らか。
ルヅキの長巻に依るとてつもない速度の波状攻撃に、ユキは受け止めるのが精一杯処か、何度も弾かれる様に押されっぱなしだ。
ユキの圧倒的不利によって、戦闘は無常に進行していく。
勿論ユキの脇腹の傷の影響も大きいだろう。
だがそれ以上に、技のみならず精神(こころ)までも、ルヅキのそれは彼を凌駕している様に見えた。
*
「どうした? お前も負けられないんじゃないのか?」
ユキのその防戦一方ぶりに、ルヅキが業を煮やすかの様に切り結ぶ最中に口を開く。
「ぐぅっ!」
ルヅキの斬撃に弾かれる度に、ユキの氷で凍結してある脇腹から、血飛沫が断続的に漏れていた。
ユキの反撃は無い。
「ならばーーこのまま死ぬがいい!!」
ルヅキの長巻による振り降ろしを、ユキは刀と鞘を交差し受け止めようとするが。
“受け止めきれない!”
甲高い金属音に比例するその衝撃を、受け止めきれないユキが砂煙と共に激しく後方に弾かれる。
もはやユキに、余力を感じられない。
「貰った!!」
即座にルヅキは追撃へ。
ユキは刀を地面へと突き刺し、それをブレーキ代わりに弾かれる勢いを止めた。
“星霜剣ーー”
だがその瞳に絶望の色は無い。寧ろこの時を待っていたかの様に。
「――氷仙花!!」
その刹那、ユキの刀を軸に地表から、一瞬で氷の柱が競り上がった。
「何ぃ!?」
そして“それ”は幾重もの氷の剣山となり、美しくも荒々しい氷花の彫刻の様に、迫り来るルヅキへ牙を向く。
ある意味、交叉法(カウンター)の一撃。
前に出る勢いが残り、ルヅキに今更避ける術は無い。あとは彼女の身体を、その氷の剣山が貫くのみ。
「フン……小賢しい!」
ルヅキは動きを止め、長巻を振り上げ停止する。
天高く掲げられたその巨大な刀身からは、蒼白い光が輝きを帯びていく。
“絶鬼ーー”
そしてその青白く輝く長巻の刃を、叩きつける様に一気に振り降ろした。
「――蒼天覇断!!」
刹那、長巻の振り降ろす軌道に呼応するかの様に、その蒼白い光は巨大な刃の形の衝撃波となり、迫りくる氷の剣山と激突。
“ーーっ!!”
物質が正面衝突した時に生じる凄まじい衝撃音と共に、氷の剣山は一瞬で氷解し崩れ散った。
「氷が!?」
それでも蒼白い衝撃波の勢いは止まる事を知らず、ユキへと向けて一直線に走る。
「くっ!!」
瞬時に横へ飛ぶ事で衝撃波を回避したが、その勢いは遥か彼方まで突き抜けていった。
「なんて威力……」
その衝撃波の傷痕か、地面は抉られた様な亀裂が、何処までも途切れる事無く続いていた。しかも氷の剣山とぶつかり合う事で、幾分か威力が分散されたにも拘わらずだ。
ユキはその威力と事実に、心底驚愕を隠せなかった。
“――冗談じゃない! こんなの喰らったらひとたまりも……”
「――はっ!?」
その威力に心奪われていた一瞬の間に、既にユキの間合いへ侵入していたルヅキが、その巨大な刃を頭上に振り降ろす最中であった。