テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
137
3話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
レトルトはゆっくりと目を開ける。
ぼやけた視界の先に、二人の顔があった。
優しく自分を見下ろしている、一人の男性と女性。
嬉しそうに愛おしそうに笑っていた。
その表情を見て、レトルトはなんとなく理解した。
――あぁ。
どうやら、自分はこの二人の子供として生まれたらしい。
優しい夫婦だった。
たくさん笑って、たくさん抱きしめてくれて
何不自由なく育ててくれた。
レトルトという名前ではない、新しい素敵な名前もくれた。
愛情をたくさん貰い、大切に育ててくれた。
本当に幸せだった。
けれど、レトルトの中には前世の記憶が残っていた。
法医学者のレトルト。
白い世界。
大きな門の門番。
キヨとの約束。
愛おしいあの笑顔。
忘れた日は、一日もなかった。
だから今世でも レトルトはずっと探し続けていた。
幼い頃は、人混みの中で記憶を頼りに道ゆく人を目で追った。
小学生になって
中学生になって
高校生になって
そして、大学生になった今も 変わらない。
常に周囲へ目を配りキヨの存在を探し続けていた。
歩いている人に目を向けて、 すれ違う声に耳を傾けて。
どこかにいるんじゃないか。
約束した人が。
愛おしい人が。
そう信じて、 レトルトは今日もキヨを探し続けていた。
今日もレトルトは大学の図書館の窓際の席に座り、分厚い本を開いていた。
机の上には何冊もの本。
神話、宗教、死後の世界、魂――
誰にも言えない目的のために、ずっと情報を集め続けてきた。
1つの記事にページをめくる指が止まる。
開かれていたページの見出しには、こう書かれていた。
『輪廻転生』
命は一度終われば終わりではなく、魂は何度も生まれ変わりを繰り返すという考え方。
人は死を迎えたあと、魂となり その生き方や行いによって、次に生まれる場所や姿が決まる。
そして再び新たな命として生まれ、また人生を歩み始める。
終わりと始まりを何度も繰り返していく。
レトルトは静かにその文字を見つめた。
「……生まれ変わる、か。」
ぽつりと呟く。
もし、 もしもキヨも生まれ変わっているなら
今もどこかで生きているんだろうか。
同じ空の下で 自分を探してくれているんだろうか。
本棚の間をレトルトは今日も歩き回っていた。
宗教
神話
死後の世界
魂
少しでもキヨの手がかりになりそうなものを探して 本棚を見上げては、また別の棚へ向かう。
もう何年も続けていることだった。
正直、成果なんてほとんどない。
それでもやめられなかった。
ふと 視界の端に何かが引っかかる。
本と本の隙間。
他の綺麗な本とは違う、ひどく古びたファイル。
端は擦り切れボロボロで表紙も色褪せている。
普段ならきっと目にも留めなかっただろう。
でも――その時だけは違った。
呼ばれているような、不思議な感覚に レトルトはゆっくりと手を伸ばし、 その古びたファイルをそっと手に取った。
そのファイルの中身は、 一枚一枚丁寧にファイリングされた新聞の切り抜きだった。
古いものから 比較的新しいものまで 年代もバラバラ。
けれど、あることに気付いてレトルトの指が止まった。
殺人事件
一家殺害
行方不明
通り魔
どの ページをめくっても 全部人が誰かを殺した記事だけだった。
「……なにこれ」
思わず小さく呟く。
背中がぞわりとした。
気味が悪い。
誰が何の目的で こんなものを集めたんだろう。
考えたくなくてレトルトはファイルを閉じようとした。
けれど、 ぴたりと手が止まる。
最後のページ。
なぜかそこだけが、妙に気になった。
さっきファイルを見つけた時と同じ不思議な感覚に胸の奥がざわつく。
見たくない。 でも、見なきゃいけない気がする。
レトルトは息を飲み込み、恐る恐る最後のページを開いた。
最後のページに貼られていたのは、 一枚の新聞記事だった。
他のページよりも古く、黄ばんでいる。
日付。
19××年12月26日
随分昔の事件だ。
レトルトは眉をひそめながら、その記事へ視線を落とした。
【都内アパートにて男性二名死亡 事件・心中の両面で捜査】
二十六日未明、都内〇〇区のアパートの一室で、二人の男性が死亡しているのが発見された。
室内では二十代男性Aが胸部を鋭利な刃物で刺され死亡。近くでは別の二十代男性Bも同様に腹部付近から大量出血した状態で倒れており、その後死亡が確認された。
現場には凶器とみられる包丁が落ちていた。
室内に争った形跡はなく、第三者の侵入を示す痕跡も確認されていない。
警察は男性Bが男性Aを刺した後、自ら命を絶った可能性も視野に入れ、事件と心中の両面から捜査を進めている。
なお二人の関係性については現在調査中。
レトルトの視線はゆっくりと記事の下へ落ちていく。
事件概要のさらに下。
小さく載せられた、被害者の写真。
何気なく目を向けた、その瞬間――
ドクン。
心臓が、大きく跳ねた。
「……え」
指先が震え 視界がぐらりと揺れた。
まるで雷に打たれたような衝撃にレトルトは
一歩後ろへふらついた。
「……俺……?」
掠れた声が漏れる。
「……と、キヨくん?」
ありえない。
そんなはずない。
だってこれは何十年も前の自分が生まれる、ずっと前の新聞だ。
記事に書かれた名前は、知らない名前だった。
でも――顔は。
顔だけは 紛れもなく レトルトと、キヨだった。
「どうして……なんで….」
掠れた声が漏れた。
胸が苦しい。呼吸がうまくできない。
心臓が嫌な音を立てて暴れている。
レトルトは震える手で机に手をついた。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
キヨくんが…. 俺を… 殺した――?
「……いや……違う」
すぐに首を振る。
違う、 違う、違う。
前世の自分は法医学者だった。
その時の自分は殺されてなんかいない。
じゃあ、この記事は何だ? 写真の二人は誰なんだ?
偶然?
他人の空似?
そんなわけがない。
見間違えるはずがない。
レトルトは震える指で、もう一度新聞へ視線を落とした。
そして、 日付を見た瞬間 思考が止まる。
――50年前。
「……!?」
自分が法医学者として生きていた人生より、さらに前。
つまり――。
「……輪廻転生」
ぽつりと呟く。
読んでいた本に載っていた 言葉。
頭の中に本の中の説明文が浮かぶ。
命は終わりではない。
魂は何度も生まれ変わりを繰り返す。
生きて
死んで
また生まれて。
終わりと始まりを、何度も 繰り返す。
「……そんな」
レトルトは小さく首を振った。
そんな話、ありえない。
普通なら笑って終わるだろう。
でも―― 自分は知っている。
人が生まれ変わることを。
だとしたら、この新聞に載っている 写真の人物は….。
「……俺は、 この人の……生まれ変わりなのか……?」
「……じゃあ」
レトルトは震える声で呟いた。
「キヨくんも……生まれ変わってるはず……」
自分が生まれ変わったなら 同じようにキヨも どこかで、 誰かとして生きているかもしれない。
そう思った瞬間――
違和感が胸に引っかかる。
「……いや」
レトルトの表情が固まった。
自分は前世、人間だった。
でもキヨは違う。
キヨは――死神。
「なんで……? なんで人間じゃなくて、死神……?」
ぽつり、と言葉が落ちる。
その瞬間、 脳裏にある本のページが浮かんだ。
以前、図書館で読んだ古い資料。
題名も曖昧で、何気なく手に取っただけの本。
でも、そのページだけはなぜか覚えていた。
そこには書かれていた。
【魂の巡りと罪の記録 第四章】
命を故意に奪いし者。
その魂は死後、直ちに輪廻へ入ることを許されず。
現世にも天にも属さぬ狭間へ落ちる。
罪深き魂は死神となり、終わる命を見届け続ける。
死を与えた者は、死を見届ける役目を負う。
幾つもの命の終わりを見届け、その罪と向き合う時が来るまで。
役目を終えし後、その魂は裁かれ、地獄へ導かれる。
決して許されぬ罪。
命を奪うということは、それほど重い。
レトルトの指先が止まった。
――死神になる。
「まさか……キヨくん」
嫌な予感がした。
背筋を、冷たいものがゆっくりと落ちていった。
続く
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!