テラーノベル
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―――翌日
朝教室に着くと、既に一人の男子生徒が席についていた。
私が昨日、頭を悩まされた男だ。
―――霞迅。
彼は耳にヘッドホンを当て、音楽を聴いていた。
体が自然とリズムを刻んでいる。
夢中になっているのか、私の存在にはまだ気づいていないようだ。
やっとヘッドホンを外したかと思うと、彼は私の方をちらっと見てから 視線をずらした。
まるで何事もなかったかのように。
昨日の出来事を忘れたのだろうか?
無性に腹が立っていた私は、真っ直ぐ彼の席に歩み寄る。
それをただ見つめる迅。
微動だにしない。
私は席の前まで来ると、わざと大きな音を出して 机に手を置き、彼の瞳を睨んだ。
「霞くん」
「なんだ?」
「ちょっと話したいことがあるんだけど」
「んだよ?俺は今暇じゃねえんだよ」
「なによ!音楽聴いてるだけじゃない!それのどこが暇じゃないっての!」
私は気づけば大声を荒げていた。
「……ふーん」
迅は一切表情を崩さず、興味なさげに反応する。
顔を真っ赤にして怒りを露わにする私と、ただひたすらに冷徹な目つきで話を聞く彼。
その間の温度差は、傍から見ても明らかだった。
だが迅は続けた。
「そんなに怒ってんなら……」
「ほらよ。これ聴いてみろ」
すると彼は、手元に置いていたヘッドホンを持ち上げ、私の耳に当てた。
――途端、耳に飛び込んできたのは、明るいロックミュージック。
軽快なビートに、心を震わす歌声。
思わず踊りだしたくなるような、そんな曲だった。
「………急に、なに?」
音楽が止まった所で、私は尋ねる。
「俺の一番好きな曲」
「どう?かっけーだろ?」
「は?そのこと、聞いてないんだけど」
「なんで急に私に聞かせたの?」
鋭い口調で続ける。
まだ怒りは鎮まっていなかった。
「んだよ、せっかく聞かせてやったのに」
「ちょっとは気分安らぐかと思ったけど、逆効果だったみたいだな」
「………」
「俺はこの曲が一番好きなんだよ」
「さっきも聞いた」
「だから、お前にも聞いてほしくて」
「……なんで私?」
「別に。理由はないけど」
「―――なによ、それ」
迅は嫌らしい笑みを浮かべる。
しばらくの沈黙の後、迅の表情は打って変わって 真面目な顔つきになっていた。
彼の見つめる先には、私の瞳。
視線は外れない。
―――その時、まるで時間が止まったかのような感覚に陥った。
目を離したいのに、離せない。
いや、離してくれないのだ。
__鼓動が速くなる。
ただ時間だけが過ぎてゆく。
秒針の刻む音が、いつもより大きく聞こえる。
「……っ(ど、どうすればいいの?)」
「(霞くんはずっと目を離してくれないし……)」
「(もう、なんなのよ……っ)」
すると、迅がやっと視線を逸らした。
「!?」
なんと彼の顔は、少しばかり桃色に染まっていた。
「…………」
「照れてる?」
小声で呟いてみる。
「は?いや、別に、そういうんじゃ……」
「あはは!私に見とれてたの?」
「………自意識過剰すぎるだろ」
「あっ、ちょっと!引いた目しない!」
迅は分かりやすく体を後ろに引いていた。
「………でも」
彼はふと、我に返ったように話し出す。
「ん?」
「でも………」
「お前が、笑ってくれてよかった」
「え?」
「………っ、やっぱ、なんでもない」
「??」
迅はそう言うと、椅子から立ち上がり、早足で教室を立ち去ってしまった。
私はただ一人、呆然と立ち尽くす。
「(霞くん、何言ってたんだろ?)」
“お前が、笑ってくれてよかった”
さっきの言葉が何度も脳内で繰り返される。
「…………」
「えっ」
「もしかして………」
私はあることを想像する。
「いっ、いやいや、そ、そんなわけ……」
「―――ない、よね?」
気づけば私の顔は、真っ赤に火照っていた。
コメント
1件
読んで頂きありがとうございます✨️ 新連載です! 既に完結させてあるので、安心してください笑 続きをお楽しみに♪