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「おはよう」
「……………おはよ」
私と迅は朝、廊下でたまたま鉢合わせた。
奇遇にも、私と同じで教室に向かう最中だったらしい。
そのついでに 互いに挨拶を交わした。
私はまだ昨日のことを引きずっていたが、迅はそうではなかった。
まるで何事もなかったかのように。
「………音楽、聞く?」
彼は長い前髪の下からちらっと瞳を覗かせると、そう言った。
「音楽って?」
私は尋ねる。
「んー、ロック」
「ロックばっかりじゃん」
「俺の好みだから」
「そう」
「………なんか、冷たい」
「霞くんがそうさせたんでしょ。原因は自分じゃん」
「それに霞くんだって相当冷たいよ」
「ふーん」
いかにも興味なさげな反応を見せる。
すると霞くんは、私との体の距離を詰めた。
肩が触れ合うギリギリぐらいに。
「じゃあ俺が優しくすれば、お前も優しくなんの?」
「!?」
霞くんの顔が、みるみる私の顔に近づいていく。
逆らえない圧。
「どっ、どういう……こと……っ」
「そのままの意味」
「て、ていうか霞くん、優しくすることなんてできないでしょっ?」
「はぁ?それ、どういう意味だよ」
「ほらっ、それ!それだよそれ!反応が冷たいのっ」
「………」
すると、霞くんは一歩足を引いた。
「ん、もういい」
そう言ってまた立ち去ろうとする霞くんの腕を、私は強く握った。
「っ」
思いの外彼も動揺している様子。
私は意を決して話し始めた。
「霞くんは、そうやってすぐ逃げるよね」
「言いたいことあるなら早く言ってよ」
「………」
霞くんは私の言葉を聞くと、立ち止まった。
そのまま動かない。
そして口を開いた。
「………わかんねーの?」
「え?」
「だから、わかんねーのかって聞いてんの」
「いや何が―――」
彼は私の言葉を遮って、強い口調で言う。
反論する隙も与えず、彼は続けた。
「俺はなんでお前に話しかけると思う?」
「………あの時、俺は正直見て見ぬふりをしてもよかった」
「―――でも」
「でも、お前と俺は同類だから、そんなことできなかった」
「!」
「俺はお前を助けたくてやってんのに……」
「なんでこうなるんだろうな」
霞くんの声は、次第に頼りなく霞んでいく。
いつも威圧的な彼が、まるで鎧が剥がれ落ちたかのように小さく見えた。
そんな彼を見ても、私は何も言えない。動けない。
―――そうだ。
あの時霞くんは、不器用ながらにも私を助けてくれたんだ。
確かに言葉は強くて、最初は喧嘩を売っているようにしか思えなかった。
でも、そうじゃない。
霞くんは弱り切った私を 慰めてくれてたんだ。
霞くんなりに――……
(…………それなら)
(それなら今度は、私が霞くんを助けなきゃ)
真っ先にそう思った。
でも、私が行動するより前に、霞くんは走り去ってしまった。
「っ………」
心の奥底が痛む。
………そりゃそうだよね。
いくら霞くんでも、人間なのだから感情はある。
そんな彼のことを何も考えずに 私は行動していた。
「………謝らなきゃ」
私は、もう見えない彼の背中を追いかけて走り始めた。