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学年主任の先生は、
全員の顔を一度ゆっくり見渡した。
泣いている赫。
唇を噛みしめる黄。
瑞は黙ったまま、
でも目だけは必死に先生を見ている。
桃と茈は、もう覚悟を決めた顔だった。
そして──。
先生は、声のトーンを落とし、はっきりと言った。
「……ここから先は、
学校としての正式対応になる」
その一言で、保健室の空気が変わった。
優しさだけの場所じゃなくなった、と全員が感じる。
「今回の件は、
いじめ行為、集団での加害、
さらに動画による記録で確認できる」
机の上に置かれたタブレットを、
先生はそっと押さえた。
「これは“見過ごせる問題”じゃない。
指導で終わらせる案件でもない」
赫が、息を詰めたまま聞いている。
翠は、目を伏せたまま動かない。
「今日中に管理職へ報告。
関係生徒への事情聴取を行い、
事実確認が取れ次第、
もう一度処分の決定を行う」
言葉は淡々としているのに、重かった。
「必要であれば警察・外部機関とも連携する。
これは“守るため”の対応にあたる。」
その“守る”という言葉に、
翠の指先が小さく震えた。
桃が低い声で尋ねる。
「……本人の意思は」
先生は、翠を見る。
「もちろん尊重する。
ただ──」
一拍、間を置いてから。
「すでに確認された事実と証拠は、
本人が耐えなくていいことだ」
翠は、ゆっくりと顔を上げた。
「……俺が我慢しなくても、いいってことですか」
その問いに、先生は迷わず頷いた。
「いや。もう、するな」
きっぱりとした否定だった。
「お前が壊れて集めた証拠を、
翠自身が背負い続ける必要はない」
赫が、かすれた声で言う。
「……ほんとに、終わるのか…?」
先生は、赫の目を見て答えた。
「終わらせる。
そして二度と、同じことが起きないようにする」
その瞬間、赫の肩から力が抜けた。
黄が、そっと翠の手を握る。
瑞も反対側から、ぎゅっと掴んだ。
先生は最後に、全員に向けて告げる。
「今日は、ここまでよく耐えたな。
これ以上、
誰かが一人で苦しむ時間は作らせない」
保健室に、長い沈黙が落ちる。
それはもう、
“地獄の沈黙”じゃなかった。
終わりに向かう静けさだった。
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