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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

63 - 第63話 破 似て非なる者③ 氷の剣士 水の剣士

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2025年07月12日

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**********



「いいぞユキヤよ。また一段と強くなったな」



氷と水が混じり合う、極寒の戦闘空間。



二人の特異点は傷だらけになりながらも、お互いを喰らい合うかの様に闘い続ける。二人共、無機質な瞳とは不釣り合いな位の笑みを浮かべながら。



「これ程までに楽しいのは久し振りだ。やはり俺達は、闘う運命にあったと言う事だな」



「ええ、楽しいですね」



彼もそれに呼応する様に、口許に笑みを浮かべながら呟く。



二人はもう二時間以上、闘い続けていた。



だが二人に有るのは、疲労でも傷による痛みでもなく、ただただ純粋な迄に闘う事への喜びのみ。



「さあ、もっと共に逝こうか? 闘いの遥か先にある境地までな」



「そうですね。私達は闘いの中でしか生きられないのですからーー」



二人は引力に惹き付けられるかの如く、再び闘いの渦中へと身を投じる。



そしてこの時、二人の勝敗の行方はーー



***



「最後に闘って以来、約一年振りか……」



蒼髪の男、シグレが感慨深そうに呟く。それは過去を懐かしかむ様に。それはユキも同じ気持ちかも知れない。



だが今は状況が違う。シグレが何の目的で、この地に足を踏み入れたのか? それをはっきりさせねばならない。



どちらにせよ、闘いは避けられないにしても。



「そんな事より何しに来たのです? まさかとは思いますが、狂座側についたとか言うのではないでしょうね?」



ユキはシグレを見据えて、核心に迫る事を口にする。



もし、このシグレが狂座と手を組んだとしたら、これ程驚異的な事は無いからだ。



「俺が狂座側にだと? まあ奴等が何をしようが、俺には関係無い事だ。誰だろうが、五月蝿く纏わり付いて来るなら駆除するがな」



シグレはそんなのは関係無いとばかりに受け答えた。まるで自分以外の者は、害虫程度の存在としか思ってないかの様に。



「そうそう狂座と云えば、此処に来る前の森の入口に、第なんとか遊撃師団とかいう連中が絡んで来たから、ずっと纏わり付ついて来た探索師団の連中と合わせて、うざいから纏めて駆除しといたぞ。どうやら狂座が此処を狙っているという噂は本当だったか」



シグレは一連の状況を、恐ろしい迄に淡々と語っていた。



「まあ、そんな事はどうでもいいか。此処に来た理由は、再びお前と闘う事に有る」



シグレの目的は、やはりユキと闘う事にあった。



人智を超えた力を持つ、二人の特異点が闘う。そんな二人がぶつかり合えば、お互い只では済まない処か、周りにも多大な影響や犠牲を及ぼしかねない。



誰しもが本能的に、対峙する二人から距離を取っていく。巻き添えを喰らわない為だ。



「その筈だったんだがな……」



シグレが声のトーンを落とし、項垂れる様に呟いた。



「どういう意味です?」



ユキはシグレの意外な一言に、不思議そうに問い返す。それもその筈。彼は明らかに闘いに来たのに、筈だったと過去形になっているからだ。



シグレが項垂れる頭をゆっくりと上げつつ、その蒼き瞳でユキを見据えて口を開く。



「お前……本当に、あのユキヤか?」



「何……だと?」



シグレの意外な一言に、流石にユキも戸惑いを隠せない。



「今のお前からは、かつての“死神の剣”を継いだ者としての気質を感じない。今のお前はまるで、飼い慣らされた猫みたいに……もう闘う気も起きない程にな」



“――私が飼い慣らされた猫……だと?”



失望した様に淡々の語り続けるシグレに、ユキは頭に血が昇っていくのを感じる。その右手は既に、腰に差した雪一文字の柄に手を添え、鯉口を切らんとしていた。



“――殺す……”



「お前に従順な飼い猫の姿は似合わないぜ」



シグレはそんな彼に構わず続ける。



「ああ、親殺しは従順とは言わないか」



シグレのその一言で、張り詰めていた空気が切り裂かれた。



ユキが誰の目にも映らない程の踏み込みで、シグレの首筋目掛けて抜き打ちで袈裟懸けに切り払っていたのだから。



シグレはそんな刹那の剣閃を、瞬時に後ろに身を退き躱す。



ユキの居合いによる抜き打ちは、空気のみを切り裂くだけに留まったが、周りの目には斬る方も避ける方も速過ぎていた。



“――えっ? 親殺しって……”



「姉様?」



シグレの漏らした信じ難い一言に、ミオは怪訝そうにアミに尋ねようとするが、彼女の哀しそうに俯く表情を見てその口を閉じ、思い留まる。



“――姉様は知ってるんだ、その事……”



それは俄には信じ難い事実。



ミオの知ってるユキは生意気で、些細な事でお互い衝突する事も有ったが、とてもそんな事実が有るとは思えなかったから。



「ほう? 少しは動きの質が上がったみたいだが、まだ気にしていたのか? そんな事を気にするとは、お前らしくもないな」



ユキの抜き打ちを軽々と避けたシグレが、笑みを浮かべながら挑発する様に口を開く。



余裕の顕れなのか、シグレはまだ左腰に差した刀を抜かず、丸腰で刀と鞘をシグレへ向けて双流葬舞の構えを取るユキと対峙している。



“ーーっ!?”



その時、誰しもが感じ取った。背筋が凍り付きそうな程の悪寒を。



“――これはユキの氷の力? でも……何か違う”



ミオが感じ取ったそれは、冷気と云った類のものでは無い。



「……それ以上喋るなシグレ」



ユキが恐ろしい迄に冷酷で、聴いた事も無い様な低く重い声でシグレへ言い放つ。



“――ユキ!?”



アミもミオも漸く理解した。彼から放たれていたそれは、冷気でなくても凍り付かせそうな程の“殺気”であった事に。

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