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ここは、弐年参組の前の廊下。
「おはようございます」
葵梨は平静を装い、学園長に挨拶をする。時刻はすでに8時どころか9時をとうに超えている。あの後……まあ、色々あったのだ。この話はまた別の機会に。ちなみに阿古には別の用事があるので、学園前で別れた。
「葵梨さん、新学期早々遅刻しないでくださいよ」
やはり学園長に怒られる葵梨。
「阿古とちょっっっと言い合いしてたら遅くなりました」
「お前……8時に、『もうすぐ着く』ってL◯NEしてきてたよな」
「学園長、キレてますねぇ……」
「誰のせいだと──」
「まあまあ、どうどう」
「俺は馬か」
「半分は。残り半分は……鹿、でしょうか」
阿呆みたいな会話をする2人。学園長にこんなにも失礼なことが言えるのは、学園内でも葵梨くらいではないだろうか。
「ところで……──」
先程の雰囲気から一変。葵梨は学園長を一瞬睨みつける。
「何故この島に、退魔の力を持つ人間を迎え入れたのですか?」
何故職員室ではなく、廊下に呼び出されているのかも気になってはいたが、その質問は後ですることに。
「──“同族”が欲しかったのですか?」
「…………」
学園長はしばらく黙ったあと、口を開いた。が──
ギャァァァァ!
叫び声に気を取られてしまった葵梨は、学園長の言葉を聞いてはいなかった。
「な、何事……?」
「……お前、後ろ向いとけ」
「?」
学園長は叫び声のした教室──弐年参組に向かって呼びかける。最初は学園長に従おうとしなかった葵梨だったが、弐年参組から出てきた男の姿を見て、慌てて後ろを向いた。
「全く……先生が生徒にビビってどうするんですか」
学園長は呆れながら、長身の男に着替えを渡す。彼は弐年参組の担任で、人間教師の安倍晴明。しかし立派な(?)称号と名前に反し、本人はヘタレ。しかも彼の服は何故か裂かれており、ほぼ裸の状態。一瞬彼の姿を見てしまった葵梨は……挙動不審になる。裸の男が目の前に現れたのだ、無理もない。
しかも──
〔嗚呼……やはり晴明様によく似ていらっしゃった……〕
「生徒というより妖怪にビビったんですよ!!!こんなの聞いてないよ!!!」
性格はやはり、似ていないようだ。
〔って、何で蘆屋様──学園長は、この人にピッタリのサイズの服を持っているの?〕
「ホラ、いい物あげるから、これでやる気出してください」
そこで不審な言葉が。
「え?あ──学園長?」
「何コレ」
「とりあえず先にズボン履こうや」
「……まだ履いていなかったのですか」
ガサゴソと、何か音がする。
「こ……これは……!!」
晴明が驚く声が聞こえる。
「これは、許されるんですか!?」
「グフフ、私は学園長ですよ。学園では私がルールです。」
「いや、駄目やろ!何かは知らんけど!」
思わず大きな声を出し、さらに振り向く。
葵梨の声に反応したのか、弐年参組の生徒の1人、豆狸の狸塚がこっそりこちらの様子を伺っているのが確認できた。貰ったものに夢中の晴明と、晴明の相手をしている学園長は、そんなことに気づくことはなかったが。
「ところで……──」
着替え終わった晴明が葵梨を不思議そうに見ている。
「ああ、私は葭屋町 葵梨。一応この学校に勤めている講師です。よろしくお願いします。」
なので、軽く自己紹介。ついでに学園長が、
「彼女はこの島にある神社の禰宜でもあります。」
「あり“ました”、では?ここでの仕事忙しすぎて、禰宜の仕事できてないんですけど」
「雨明君とも面識があるみたいですよ」
と、葵梨の言葉をスルーしながらも、付け加える。実際、葵梨は講師としての仕事が多い。そのため禰宜の仕事のほとんどは、阿古に任せている状態だ。
◎ゆるっと雑学辞典◎
禰宜
神社の神職の役職名の一つだよ。宮司を補佐しながら、神社のお仕事全般をを執り行う立場なんだって。
「はじめまして……安倍晴明です。よ、よろしくお願いします。」
一方晴明は、人間姿とは言えど妖怪である葵梨を、少し警戒している様子。彼の様子を見ていると、葵梨はだんだんとイライラしてきた。晴明公と同じような顔をしながらこんなにもヘタレだなんて……。そう思ってしまうが、無理もない。
だがその気持ちを口に出すことはせず、葵梨は晴明に優しい言葉をかける。
「そんなに怖がらなくても──」
──彼らは君を殺したりはしないから。大丈夫。安心して。
「私は……いえ、私達は貴方を殺したりはしないですよ。大丈夫ですから。」
恩人の言葉を思い出し、彼と同じような言葉を晴明に。何だか恥ずかしくなってきた葵梨は、それに!と学園長を見る。
「学園長は、貴方にだいぶ期待してるみたいですよ!」
いきなり名前を出された学園長は、もちろん驚く。
「え?……ま、まあ、葵梨さんが言った通り、君には期待しているのですから、頼みますよ」
「が……頑張ります!!」
素直なのか阿呆なのか……晴明は2人の言葉でやる気を出し、教室に再び入った。
怪しい紙袋を持って。