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「困ったもんだよな、俺のじいちゃんも。調書がないと捜査できないっていうのに全部持ってった」
高地の運転する車の助手席で、大我がぼやいた。
「どっか行く場所に心当たりはないの? 親戚とか」
「親父が手当たり次第に連絡したらしい。でもみんな知らないって」
もっと大変なことになってなきゃいいですね、と後部座席のジェシーも言う。
「なくなった事件の調書って、そこの所轄にはないんですか?」
「あると思うけどな」と大我は首をひねった。「当たれば出てくるかも。よし、行ってみよう」
「今の事件に集中してって言ったの、どこの誰?」
高地はいさめたが、
「いいじゃないですか。そっちはあとの3人に任せましょうよ」とジェシーも参戦する。
大我がスマホの電話を起ち上げたのを見て、高地はため息をついた。「絶対あの3人、帰ったら愚痴言ってくる…」
都内の警察署。駐車場に降り立った大我と高地、ジェシーは早速中へ踏み入る。
とりあえず一番近くのカウンターに座っていた女性警察官に「警視庁捜査一課の京本という者ですが」と大我は手帳を示した。
彼女は驚き、立ち上がる。
「大したことじゃないんです。ただ、昔の事件のファイルを見たくて」
刑事課の者を呼んできます、と言って奥に消えた。
「…かわいいな、あの子」
小さな声でつぶやいたのは高地だった。「Hehe、そうですね」とジェシーも笑う。大我は動じなかった。
やがて、背広を着た刑事がやってきた。3人に頭を下げて会釈し、「どうぞこちらへ」と促す。
案内されたのは、事件の調書などが一括に管理されている保管庫だった。
「本庁の刑事さんが、どうして所轄の事件を?」
大我が答える。「個人的というか、独断なんです。くれぐれも内密にお願いします」と言って切り出した。
「29年前になるんですが、そちらの一課にいた刑事が署の金を横領したとみられる騒動がありましたよね」
刑事の顔が強張った。
「…そうですね、私は知りませんが、そういうことがあったと聞いています」
「その事件のファイルを見せていただけませんか。ちょっと諸事情があって、本庁では見られないんです」
高地が言った。刑事は少し逡巡したあと小さくうなずき、多くの事件簿が収納されている棚を探し始める。
しばらくして、「これかな」と立ち上がった。
「1995年。こちらだと思います」
ありがとうございます、と受け取って中を開く。
「…あれ」
つぶやくジェシー。視線が動く。
その「弁解録取書」に書いてあったのは、「森本巡査」の供述。そして担当刑事の欄に、「京本警部」の名が。
「……パズルのピースが埋まってきたな」
高地が不敵に笑った。
続く