「何だよ、主任。『俺らはちょっと調べ事があるから、聞き込みよろしく』って。丸投げじゃねぇか」
「まあまあそう言ってないで。…確かに丸投げだ。だけど、一応緊急事態なんだから。前警視総監の身が危ないかもしれないし。一刻も早く解決しないと」
樹をたしなめる北斗。大我から電話を受けて、切った瞬間に愚痴をこぼした。
「それで、どこに聞き込み行きます?」
「んー…。目撃情報でも探しに、現場近く行くか」
わかりました、と慎太郎はうなずいて運転席に乗り込む。2人も後部座席に腰を落ち着けた。
それは、2日前に起きた事件だ。
午前中。警視庁にもほど近い住宅街の一軒家に強盗が入り、その犯人は鉢合わせした住人をとっさにナイフで刺した。そしてそのまま逃げ出した、というのがわかっている概要。捜査本部が設立され、京本班が捜査に当たっている。
現場には規制線が張られていて、所轄の警察官が3人に敬礼をした。
「目撃証言は出ませんか」
北斗が訊く。
「そうですね…。名乗り出てくる人はいません」
そうですか、と息をついた。そのとき、樹が目を向けた先に、後ろで手を組んで歩いていく高齢男性を見つけた。散歩中かもしれない。
「あの、すみません」
声を掛けた樹に、2人も振り返る。
「私、こういう者なのですが」と警察手帳を開いて見せた。
「2日前に、ここで事件があったのは知っていますか?」
男性に尋ねる。その一軒家を見上げ、
「ああ、知ってるよ。新聞でも読んだ。パトカーやお巡りさんが来てて物騒だなと思ってるが、毎日散歩でここ通ってるもんでまあ今日も来たんだが…」
「お散歩は2日前のこの時間帯にも出かけましたか?」
慎太郎が割り込んできた。それにもうなずく。
「では、何か不審な人物は見かけませんでしたか。慌てて走って行ったとか、服が血で汚れていたとか」
北斗の質問には、首をひねった。
「いやぁ…。俺が覚えとる限りでは、そんな人は見なかったなあ」
「そうですか…。どうもご協力ありがとうございました」
樹が軽く頭を下げ、3人は踵を返そうとした。そのとき、男性が声を上げる。「あ、そういえば…」
「何か思い出したことでも?」
首を傾けながら、「…その事件と関係あるのかは知らんが、昨日、ここらに車が停まっててな、中にいた2人組のスーツの男が言い争ってた気がするわ。声は聞こえんかったが、胸倉をつかんでた。一人は俺と同じくらいで、もう一人はもう少し若かったような…」
3人の視線は知らず知らずのうちに交錯していた。
「ご協力ありがとうございます」
礼を言って、捜査車両に戻る。
「っしゃ、桜田門戻って防犯カメラの確認だ。ナンバーさえ確認できればいい手がかりになるかも」
息巻く樹に、
「…こっちまで脱線してますね」と慎太郎は呆れたように笑い、北斗も「まだわかんねえぞ」と苦笑を漏らした。
続く
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