「ん……っ」
ゾクッとしてしまって思わず声を漏らすと、彼は「可愛いねぇ~」と私の背中にスリスリと頬ずりしてきた。
「俺は恵ちゃんには溢れるほどの性欲を持ってる。タガが外れたら、一日中抱き続けてもまだ足りないと思うよ」
「ヒッ」
抱き潰される想像をした私は、喉の奥で悲鳴を押し殺す。
「いやいや、そこは怖がるところじゃなくて」
涼さんはクスクス笑い、私を後ろから抱いたままユラユラと体を揺らした。
「でも、三十路を迎えて、そもそもの性欲って割と落ち着いてきてるんだ。前にも言ったかもだけど、ちょっとムラムラしたらジム行って追い込んだら、大体落ち着く。ダイエットカウンセラーの人いわく、食に満たされてる男って精神的にも満足していて、エッチが淡泊なんだって」
「なんですか、それ。面白い」
興味を持つと、涼さんはダイエットカウンセラー兼、管理栄養士の女性が書いた本を教えてくれた。
その本には、ジャンクフードをメインに食べる男性は栄養バランスが整っておらず、キレやすい性格らしいとか、ラーメンなどの大盛り早食いをする人は、大雑把だけど包容力があって子供に優しい、食に興味のない人は他に熱中するものがある分、性欲は二の次になっているけれど、職人気質だからテクニックがあるなど書いているそうだ。
他にもプロテイン男、ダラダラ遅食い男、BBQ男、深夜まとめ食い男などタイプがあるらしい。
「あと、男は空腹の時に性欲を感じやすいけど、女性は満腹の時に性欲が高まるとかもあって、そういうのは中枢神経が関わってるみたいだ。中枢神経って性欲を司るとも言われていて、食欲が強いと性欲が強いっていう説もあるみたいだよ。俺はバランスのとれた栄養さえとれてればいい、ってタイプだしね」
「へええ……」
私は思わず朱里を思い浮かべてしまい、「いや、考えるのは失礼だ」と打ち消す。
「そういう蘊蓄はさておき、俺は基本的にがっつかなくても性欲をコントロールできるタイプなわけ。……恵ちゃんが可愛い下着を着て誘ってきたら、何もかも忘れて襲いかかってしまう自信はあるけどね」
そう言われ、私はジワッと頬を染める。
「だから、お金の事で負い目を感じて、無理にしようと思わなくていいんだよ。何回も言うけど、俺は人生で初めてこんなに好きになれる女の子と出会えた。だから全力でお祝いしたいと思ってるだけ。……それ以前に、俺は扱える金額の桁が普通の人とはちょっと違って、それには慣れてほしいって前にも言ったね?」
優しく尋ねられ、私はコクンと頷く。
「俺は大抵の事には怒らないし、人生割と『なんとかなる』と思って平穏に生きてる。……でも、好きになった女の子に『お金をかけたから、代わりに抱かせろ』って言う男だと思われるのは、ちょっとキツイ。恵ちゃんだって純粋な好意でプレゼントしたのに、申し訳なさから〝お返し〟をされると思ったら『ちょっと違う』って思うでしょ?」
「……はい。すみません」
シュンとして謝ると、涼さんはクスッと笑い、私の頬にキスをしてきた。
「お腹いっぱいだし、明日もまだデートの続きがあるし、ちょっとイチャイチャして終わりにしよ」
「やっぱりイチャイチャ!」
目を見開いて振り向くと、涼さんは私をギュッと抱いた。
「性欲と、『可愛いから触りたい、愛でたい』って気持ちは別だよ~」
「色々いい事言ってたのに、台無しだ!」
「あはは! なんとでも言って~。恵ちゃんが可愛いのが悪いんだもん」
涼さんは朗らかに笑い、起き上がると私を姫抱っこして、廊下を進むとベッドルームにつれて行った。
「え……、と」
いきなり大きなキングサイズベッドに下ろされ、私は冷や汗を流して彼を見上げる。
「ちょっと味見するだけ。ガブッと食べはしないから」
涼さんはそう言って、夜景を後ろにスーツのジャケットを脱ぎ、シャツのボタンを外すと逞しい上半身を晒す。
(わあ……)
恥ずかしくて見ていられなくなった私は、そっと視線を外すものの、ドキドキした胸は収まってくれない。
やがて涼さんはベッドに上がり、私の頬を優しく撫でてくる。
「緊張してる? 可愛いね」
「や……、そ、そうじゃなくて……」
緊張してるんだけど、私はとりあえず否定してしまう。
「ストッキング、脱がしてもいい?」
涼さんは尋ねておきながら、私の脚に手を這わせ、ススス……とふくらはぎから太腿を撫で上げるようにワンピースを捲っていく。
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