宿儺が倒れ、五条悟が息絶えた後、鋼谷はひと息つく間もなく、異次元のような空間に引き寄せられる感覚を覚える。その空間は、まるで時間と空間がねじれたような、異質な感覚が満ちていた。
突然、目の前にひとりの影が現れる。その姿はどこか不安定で、まるで物質と霊的存在の間にいるようなものだった。影は次第に形を取るが、その姿に鋼谷は一瞬、混乱を覚える。
「お前が…」
その姿は、芥見下々――その名を知る者ならば誰もが知る、死んだはずの単眼猫幽霊だった。
芥見下々の姿は、残像のように歪んでいたが、その目は鋭く、悲しみと共に何かを訴えかけるようだった。鋼谷はその正体を認識するのに一瞬の時間を要し、彼が何を伝えたかったのかを理解し始める。
死後の世界の告白
「私は…もう死んだ。」
芥見下々は静かに語りかける。
「でも、死ぬ前に見たことがあるんだ。宿儺と五条…彼らは今、世界にいるべき存在ではない。彼らが来たのは、私のせいだ。」
鋼谷は驚く。宿儺と五条――二人は、もともとこの世界には存在すべきではなかった?その理由を、芥見下々が語り始める。
「私はかつて、世界の裂け目に触れてしまった。裂け目を利用して、異世界から物を引き寄せる力を得た。だが、私の手に余る力だった。宿儺と五条は、私が開けた裂け目から無理やり引き寄せられた存在。異世界からの『迷子』のようなものだ。」
「五条悟と宿儺。どちらもこの世界に来ることを拒んでいた。しかし、私が裂け目を広げてしまったせいで、彼らはこの世界に引き寄せられ、もはや帰れなくなった。」
芥見下々は再びその目を閉じ、悲しげに続ける。
「それに、彼らがここに来てしまったことで、世界は崩れかけていた。だが、宿儺はその力を無駄に使い、五条悟はその全力を尽くして何とか世界の安定を保とうとした。しかし、最終的には…」
鋼谷はその言葉を胸に刻み込む。宿儺と五条がどんな運命を背負ってきたのか。二人の力が、この世界にどんな影響を与えてきたのかを知ることができた。だが、それでも鋼谷は一つの疑問を抱き続けていた。
「じゃあ、君は何故今ここにいる?」
「私は、命が終わったから。だが、私の残したものが、まだこの世界に影響を与えている。」
芥見下々は微笑んだ。
「これからは、お前の番だ。」
鋼谷はその言葉の意味を理解する。宿儺と五条が死んだ今、この世界にとっての「混乱」は終わったのかと思いきや、芥見下々の存在が示唆しているのは、新たな秩序を創る力が必要だということだった。
「私が開けた裂け目、そしてそれを利用した者たち。彼らの力を封じるためには、これからお前がすべきことがある。」
芥見下々は、鋼谷に向かって手を差し伸べる。
「お前の中には、まだ未知の力が眠っている。その力を解放すれば、この世界の秩序を取り戻すことができるかもしれない。」
鋼谷はしばらく黙って芥見下々を見つめた後、ゆっくりと頷く。彼の胸の中には、新たな決意が宿り始めていた。五条と宿儺の死を無駄にしないためにも、彼はこの世界を正す責任があることを感じ取っていた。
「分かった。俺が、すべてを終わらせる。」
芥見下々は微笑みながら、ゆっくりとその姿を消し始める。
「後は、頼んだぞ。」
その言葉が鋼谷の耳に残り、再び彼はその空間に一人残される。芥見下々の存在はもう感じられない。だが、彼の中には新たな使命が宿っていた。宿儺と五条が引き寄せられたその理由、そして彼らの死後に残された問題を解決するために、鋼谷は自らの力を開放し、戦い続ける覚悟を決めたのだった。
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