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「おかえりなさい、カケルくん」
カケルくんと呼ばれたその少年は、真帆さんの隣に立つ私の姿に気づくと、
「……あっ」
と大きく目を見張る。
真帆さんによく似た顔の、高校生くらいの少年だった。
カケルくんはどこか気まずそうに真帆さんに視線を戻すと小さな声で、
「真帆ねぇ、この人って――」
「あぁ、やっぱりそうだったんですね」
真帆さんは言って、「ぷぷっ」と噴き出すように笑ってから、
「お礼が言いたいそうですよ、カケルくんに」
「――えっ」
私はそんなふたりの会話に、思わず眼を見張った。
もう一度カケルくんの方に視線を向け、それから真帆さんに、
「まさか、もしかして、この子が……?」
「はい、そうなんです。すごい偶然ですよね!」
「……真帆ねぇ、どういうこと? 僕、あんまり面倒ごとに関わりたくないってお願いしたじゃないか」
困ったように眉を寄せるカケルくんに、真帆さんは、
「まぁまぁ、良いじゃないですか。警察の方にも駅員さんにもバレないようにしてあげたんですから、だいじょーぶ!。せっかくお礼にいらしたんですから!」
カケルくんはそんな真帆さんに深いため息を吐くと、不承不承といった様子で私のところまで歩み寄ってきて、
「えっと……大丈夫でしたか?」
「え、あ、はい。あ、あの時は、本当にありがとうございました……」
「いえ、僕も突然のことだったから、強く引っ張り過ぎてしまってすみませんでした」
「そ、そんなことは! あなたのおかげで死なずにすんだんです。本当に、本当にありがとうございました」
深く深く頭を下げると、カケルくんは慌てたように私の肩に手を置いて、
「あ、あぁ、そんなに頭を下げないでください!」
いえ、と私は答えてから、しばらくして頭を上げると、
「偉かったですねー、カケルくん! よしよし!」
「や、やめてよ! 子供じゃあるまいし!」
カケルくんの頭を撫でようとした真帆さんの手を、カケルくんが恥ずかしそうにぱちんと叩いたところだった。
なんだか微笑ましい光景だったけれども、
「……もしかして、最初から解っていたんですか? 弟さんが私を助けてくれたってことを」
すると真帆さんはにやりと笑んで、
「そうですね。二週間前、うちに帰ってきたこの子が私に言ったんです。駅で人を助けたんだけど、何だか面倒くさいことになりそうだから誤魔化したいって。そこで私がちょちょいのちょいって感じで色々と魔法で偽装しまして。私も人助けしたんだから正直に言えばいいのにって言ったんですけど、どうしてもイヤだっていうものだから、仕方なく」
「だって、面倒じゃないか。警察の取り調べ?とかに付き合うの。なるべくなら関わりたくないでしょ?」
「私は全然かまわないんですけどね……」
そんな様子を見ながら、私は小さくため息を吐いて、
「でも、それなら、最初から言ってくれても良かったのでは……?」
そんな私に、真帆さんは「まぁ、そうなんですけど」と口にして、
「それでも確証はなかったので、とりあえず魔力磁石で確かめたかったんです。ちょうどカケルくんが学校から帰ってくる時間でしたし、迎えに来るついでにどうかなって」
「……迎えに来る、ついでに」
「あ、あぁ、すみません! 真帆ねぇ、こういう性格なんです。解っていても知らないふりしたり、逆に知らないのに知ってるふりしたり、暇つぶしにお客さんを巻き込んだりするような人なので、ご迷惑をおかけして本当にすみませんでした!」
カケルくんが、慌てたように謝罪する。
「い、いえ、そんなつもりで言ったわけでは……!」
「そうですよ、カケルくん! うちは魔法のお店なんですから、魔法の依頼には魔法で答えないと駄目でしょう?」
「……それ、本気で言ってる?」
「本気も本気、私の眼を見ても信じられませんか?」
「真帆ねぇの眼はどんなに見ても信じられない」
「え~! ひどい!」
「そうやっていつも人で遊んでるからでしょ?」
「そんなことしてませんよ~!」
あははっと楽しそうに笑う真帆さん。
あぁ、これはカケルくんの言ったことが正しそうだ。
――でもまぁ、いっか。
結果的に、私は命の恩人に出会うことができたのだ。
ちゃんとお礼も言えたし、それで十分……
「さぁ。それじゃぁ、帰りましょうか!」
そんな真帆さんの言葉に、私はふと我に返って、
「あ、ありがとうございました。それでは、私もここで……」
すると真帆さんは眼をぱちくりさせながら、
「え? でもまだもう一つ、必要な魔法があるんじゃないですか?」
「えっ? もう一つ?」
真帆さんは自身の耳を指さしながら、
「ほら、外からの音を小さくする魔法」
「あ、あぁ!」
そういえば、そんな話をしたんだっけ。
「ぜ、ぜひ、お願いします!」
うんうん頷く私に、真帆さんは嬉しそうに、ぱちんっと両手を打ち合わせると、
「はい! 確かに承りました!」
そう言って、にっこりと微笑んだ。