TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
エミちゃんとネコの僕

一覧ページ

「エミちゃんとネコの僕」のメインビジュアル

エミちゃんとネコの僕

1 - たぶんだけど、僕の前世は人間だったと思う

♥

35

2022年01月21日

シェアするシェアする
報告する


 とある気持ちのいい秋の土曜日。


エミちゃんはベランダにいて、洗濯物を干していた。僕は室外機の上で、エミちゃんのすることをのんびりと眺めていた。


「凛太朗はいいなぁ、うたた寝か。私もネコになりたいよ」 


僕はニャーと呟いた。

(エミちゃん、それ、本気で言っている? ネコなんか、することもなくて、退屈なだけなんだぞ。あぁ、それにしても、なんて眠い朝なんだろう) 


僕はうつらうつらとやりだした。


『ピロリロリン~♪』 


チャイムを鳴らしながら業務車が、アパートの前を通り過ぎてゆく。


『さお屋〜、さお竹~』 


竿竹を積んだ軽トラが右折する。

ブーンとミツバチが羽音をさせながら飛んできて、しつこくまとわりつくものだから、僕はしっぽを振って追い払った。

そこにエミちゃんの携帯電話が鳴った。


「あっ、お母さん? うん、元気だよーー」 


 お日様みたいな明るい声に、僕は胸をキュンとさせた。


『コンポ、パソコン、冷蔵庫、洗濯機など、ご家庭で不要になったものを、 高く、高く買い取りさせていただきます』 


廃品回収の業者は町内をくまなくまわっている。


(なんて平和な日だろう……)


つい一月前まで、寒空の下で凍えながら雨宿りしていただなんて、信じられなかった。


捨て猫だった僕を、エミちゃんが拾ってくれたんだ。ママの記憶はあいまいだ。


それに、たぶんだけど、僕の前世は人間だったと思う。

なぜそう思うかって?


だって、僕はエミちゃんが大好きだし、自分がネコだなんて、なんだかしっくりこないからだ。

  

ヘリコプターが空を横切り、すがすがしい風が吹いてきた。


アパートの下の路上を少年たちが『わぁー』と、歓声をあげながら走ってゆく。


身体がぽかぽかと暖かくなった僕は、ほとんど寝かけていたその時だった。


いきなり何かが、“パン!”と、はじけたように鳴った。


次の瞬間バババッと連続した破裂音が住宅地に木霊した。


驚いた僕は部屋へ逃げ込もうと飛び上がった。


だが、寝ぼけて方向を誤ってしまったようだ。柵から飛び出し、二階のベランダから真っ逆さまに落ちてゆくではないか。


咄嗟に体をひねり、一回転しながらすっくと地面に降り立った。


しかし、着地した場所が悪かった。爆竹を持った八個の瞳と目が合ったのだ。


僕は、すぐさま危険だと感じとると、自分でも驚くほどの身体能力に身をまかせ、本能の赴くままに逃げ出した。


住宅街のモータープールの中に潜み、そのまま乗用車の下に身を隠した。 


しばらくたって、少年たちがこないと判ると、タイヤの陰からそろそろと這い出した僕は、辺りを見回し、しばし呆然とするのだった。


「ここ、どこだ? 」


やみくもに走ったせいで、帰るべきエミちゃんのアパートが判らない。


仕方がなしに塀伝いに歩いてゆくと、いつの間にか農家の庭先に入り込んでいた。 


丸々と太ったカエルが跳ねていた。


無性に旨そうにみえて、腹の虫が鳴った。


逃走にエネルギーを費やしたせいで、急に腹が減ったのだ。


僕は爪を立てて、前足でカエルを捕まえる。


さっそくいただこうと、大きく口を開けた。


すると、それを阻止するかのように“ウー”と、不協和音のような唸り声が聴こえてきた。

エミちゃんとネコの僕

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

35

コメント

3

ユーザー

ありがとうございます!

ユーザー
ユーザー
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚