男性用の水着も、バリエーションが豊富だ。
「あっ、これとかいいかもです…!」
ふと立ち止まって、俺が指差したのは
明るい日差しに映えそうな紐付きのグラデーションが綺麗なビーチショーツだ。
色は爽やかなブルー系で、裾に施された繊細な刺繍がアクセントとなっている。
生地もしっかりしていて、それでいて軽やかそう。
一目で気に入ってしまった。
「似合いそうだな。恋の明るい雰囲気に合ってる」
尊さんが意外と乗り気な様子で答える。
「えへへ、じゃあコレと……あとなにか肌隠すものが欲しいんですけど…」
辺りを見回しながら尋ねると、
「そしたら、ラッシュガードとかどうだ?」
尊さんが提案してきた。
「あっ確かに、紫外線とかも防げますもんね……!」
ラックを漁っていく。
「これなんてお前に合うんじゃないか?」
尊さんが手渡してくれたのは、シンプルな白色の長袖タイプ。
丈はやや長めで、背中にはブランド名がデザインされていた。
「シンプルでいいです!これに決めますっ!」
即決した。
「ついでにサンダルも見ておくか?」
「はいっ!」
店内奥にあるフットウェアコーナーへ向かう。
そこには様々なデザインや素材のサンダルが並んでいる。
「海だし、歩きやすいのがいいですよね……すぐ脱げちゃうビーサンよりは…」
「そうだな……なら、こういうのはどうだ?」
尊さんが指差したのは、ビーチサンダルよりもしっかりした造りのスポーツサンダル。
アッパーには通気性の良いメッシュ素材を使っているようで、見た目も涼しげ。
機能性もデザイン性も兼ね備えている。
「ほら、履いてみろ」
と言って、サイズを教えてくれる。
実際に履いてみると、フィット感が良く
足裏のアーチを支える構造になっているので、長時間歩いても疲れにくそうだ。
これなら砂浜でも、岩場でも安心だ。
「すごいっ、履き心地最高です!」
思わず顔が綻ぶ。
「それじゃ、これで決まりだな」
尊さんも満足げな表情を浮かべている。
こうして選んでもらえることが、何より嬉しかった。
まるで、二人の共同作業みたいで楽しい。
「あの、ありがとうございます!俺一人だったらもっと時間かかってたと思います……」
レジで清算を済ませながら感謝を伝える。
「誘ったのは俺だ、これぐらいはな。」
会計を終えて、店員さんから紙袋を受け取る。
水着とサンダル、ラッシュガードの三点セット。
大切に抱えるように持ち、二人並んでお店を後にした。
この紙袋の中には、来週の思い出が詰まっている。
外に出ると、再び暑さが押し寄せてくる。
「他に買い忘れたものとか無いか?日焼け止めとかは大丈夫か?」
「えっと、とりあえず全部揃えたので大丈夫かな、っと…… 」
「じゃあ飯にするか」
尊さんが提案してくれて、近くのモスバーガーに向かった。
◆◇◆◇
午後1時過ぎ―――
モスバーガー店内は冷房が効いていて、買い物で火照った身体に心地よかった。
クールダウンするのにちょうどいい。
店員さんの明るい声が響く中、列に並んでいると自分たちの番がやってき、メニュー表を覗く。
尊さんが「決まったか?」と訊ねてくるので
俺は頷いて「ロースカツバーガーのセットで」と答える。
「じゃあ俺は…モスバーガーのセットにするか。ポテトはシェアしよう」
注文を終え、テーブルで待っていると、数十分して番号を呼ばれ、出来上がった商品を店員が運んできた。
漂ってくる香りが、食欲をそそる。
「よし、食べるか」
「はい、いただきますっ!」
パティとシャキシャキの千切りキャベツの間に挟まれた、サクサクのカツの旨味が口の中に広がる。
一口食べた瞬間、口元が緩んだ。
このソースがまた絶妙で、塩味と酸味が調和していてすごく美味しい。
「んん~…美味しい……っ」とつぶやくと、尊さんがふっと微笑んだ。
「やっぱり恋は食べてるときが一番幸せそうだな」
その言葉に、なんだか胸が温かくなる。
「だって美味しいですからっ!……それに、尊さんとご飯食べるの楽しいので…へへ……」
尊さんはストローを咥えたまま目尻を下げた。
しばらく黙々と食べた後、飲み物に口をつけながら尊さんがぽつりと言う。
「恋」
「はい?」
「来週の海、寝坊するなよ?」
「……もちろんですよっ!!絶対楽しいデートにしましょう!」
尊さんの一言でまた頬が熱くなる。
尊さんも、俺と同じくらい楽しみにしてくれているんだ。
窓の外を見れば太陽が高く昇り、銀座の街を行き交う人々が蜃気楼のように揺らいで見えた。
この特別な時間が、ずっと続けばいいのに。
これから訪れる夏の思い出づくり。
そんな未来を約束したひとときだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!