その日のことは、
思ったより静かに広がった。
先生に呼ばれ、
事実が整理され、
言葉が、記録になった。
逃げ場は、もうなかった。
放課後。
指導室の前の廊下。
おらふくんとおんりーは、並んで座っていた。
壁に寄りかからず、
ちゃんと、背筋を伸ばして。
「……俺」
おらふくんが、ぽつりと口を開く。
「……怖かった」
正直な声。
「……でも」
一拍。
「……一緒に立ってたから」
「……逃げなくて、すんだ」
おんりーは、横でうなずいた。
「……俺も」
「……一人で背負う癖、やめる」
その言葉は、
自分に言い聞かせるみたいだった。
ドアが開く。
担任と、学年主任。
「二人とも、入って」
中では、すでに話が終わっていた。
・継続的な暴力と脅し
・複数人による関与
・再発防止のための明確な処分
はっきりと、告げられる。
「これは、終わりにする」
大人の言葉は、
曖昧じゃなかった。
廊下に戻ると、
夕方の光が差していた。
「……終わった、んだな」
おんりーが言う。
「……うん」
おらふくんは、ゆっくり息を吐いた。
「……全部、消えるわけじゃないけど」
「……もう、追いかけてこない」
それだけで、十分だった。
数日後。
教室の空気は、完全には元に戻らない。
でも、線は引かれた。
からかいは、止まった。
噂も、力を失った。
「……なあ」
昼休み。
窓際の席。
おんりーが、少しだけ言いにくそうに口を開く。
「……俺たちのこと」
一拍。
「……どう思われても」
「……俺は、隠さなくていいと思ってる」
おらふくんは、少し考えてから答えた。
「……俺」
「……まだ、言葉はよく分かんない」
BLとか、
恋とか。
「……でも」
胸に手を当てる。
「……離れるのは、違う」
おんりーの目が、やわらぐ。
「……それってさ」
「……十分、だと思う」
放課後。
校門までの道。
「……なあ」
おらふくんが、足を止める。
「……俺さ」
一拍。
「……一緒にいる理由」
「……説明できなくていい?」
おんりーは、笑った。
「……説明できない関係の方が」
「……大事だったりする」
風が、制服を揺らす。
距離は、近い。
でも、触れない。
それが、
今の二人にちょうどよかった。
おらふくんは、心の中で思う。
――悲しさは、
――完全には消えない。
でも。
上書きされる時間が、増えてきた。
怖かった日。
泣いた日。
守った日。
守られた日。
その全部が、
“今の自分”を作っている。
おんりーが、静かに言う。
「……幸せになろうぜ」
「……急がなくていいから」
おらふくんは、うなずいた。
「……うん」
「……忘れるんじゃなくて」
「……選ぶ」
夕暮れの中、
二人は並んで歩き出す。
誰かに決められた名前じゃなく、
誰かに貼られた噂でもなく。
自分たちで選んだ距離で。
少しずつ…






