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(こいつぁいよいよ、ヘマするワケには
行きやせんねぇ。)
首にぶら下げられたスズメハチの琥珀の
ペンダントを手で握りながらナイト•クラウン は冷や汗をかいた。
話は一時間前に遡る。
《一時間前、女王の寝室から通じる秘密の
地下室にて》
「このネックレスを貴方に預けるわ。
このネックレスは王族特務の使者のみが
持つことの出来るものよ。これを持つものの
言葉は王の勅令と同義、これを持てば貴方との面会を断れるものはいないわ。」
そういって女王ロカは探偵騎士ナイト•クラウンの首に琥珀のネックレスを下げた。ロカは女王らしく綺麗に身支度をしていたが、ナイト•クラウンはロカの艶かしい身体からほんのわずかに、複数人の血の匂いが薫りたっているのに気づいた。そして
(あーららぁ、また誰が処刑されちゃったんでさぁねぇ、お気の毒に。)
と同情の色を示した。
ナイト•クラウンが見たこともない女王陛下の 被害者一同に同情していると、また女王
ロカにほっぺをつねられた。
「いででででででで!!!!」
「なにをさっきからぼーっとしてるのかしら? 早く容疑者達から事情聴取をしてきなさい。」
ロカに言われはっと我に帰りハッと気を取りなおしてナイト•クラウンは騎士のようにひざまずいた。
「ハッ、このナイト•クラウン!!女王陛下の
忠実なる探偵騎士として必ずや真相に迫ってみせまさぁ!!!」
「そういうのいいからさっさと行きなさい。」
と言った。
《そして現在、マカロンの調理場にて》
ナイト•クラウンははじめに容疑者のうちの一人、ビショップ•マカロンの調理場へと足を運んだ。マカロンの調理場は【聖域】と吟われ、 位の高い文官でも中々入ることが許されない ほど王宮内で神聖視されていた。
(…..そんな聖域にまさか私のようなしがない探偵が入ることになるたぁねぇ。)
衛兵達に身体を洗われながらナイト•クラウンはぼんやりと考えていた。途中、好みの顔の衛兵に男性器を洗われたので
ナイト•クラウンは半勃起した。
(全部うまく言ったら女王様に頼んでこの方も私の丸太小屋リストにいれてもらおっと)
全身の毛をことごとく刈り取られ、最高級のシャンプーで全身を隅々洗われ、清潔な衣服に 着替えたナイト•クラウンはいよいよ
食の聖母が待つ聖域へと足を運んだ。
「どうもー、昨日は焼き菓子とカモミールティーごちそうさまでしたぁ。いやーあんなうまいもん生きてて始めて食べやしたよぉ!!やっぱり生きてればいいことあるんですねぇ。あ、今回はですねー女王ロカ様が料理長の日頃の激務を労るためにマカロン様をマッサージする ようにと言われやしてねぇ、僭越ながら シトラス王国整体師免許特級の私が、マカロン様の日頃のお疲れを和らげて差し上げていただきやすぅ。」
ぺらぺらと、探偵ナイト•クラウンは今朝のうちに女王ロカと打ち合わせた嘘の用事をマカロンに話あげた。この嘘は八割の真実でコーティングされていた。実際にナイト•クラウンは 探偵として様々な人物(主に貴族)に接近するため国家公認のマッサージ免許を所得していた。そしてナイト•クラウンは実際に昨日のマカロンの手料理を美味であると感じていた。
「まぁ、それはありがとうございます。
女王陛下のそのお心遣いだけで、私は
おなかいっぱいでございます。」
マカロンはそう言って、木製の椅子に
ちょこんと座った。
「そしたら、肩をもんでくださいますか?」
ナイト•クラウンはニコニコと友好的な笑みを 浮かべながら、マカロンの動揺、嘘、会話の 矛盾を探ろうとした。
「はいぃ、よろこんでご奉仕させていただきやすぅ。」
そう言いながらナイト•クラウンはマカロンの 肩に触れた。
(はてさてぇ、鬼が出るか、蛇が出るか。)
かくしてナイト•クラウンは容疑者ビショップ•マカロンへの緩やかで柔和なる尋問を行った。
【推理タイム 10】
「はぁーそこそこぉ、とても心地よいですー。 まるで鶏肉を柔らかくもみこむような
柔和なもみ具合、わたくしはもうおなか
いっぱいですー。」
マカロンはふわぁと大変心地よさそうに
ナイト•クラウンに肩を揉まれていた。
「ありがとぉごぜえやすぅー。」
ナイト•クラウンはゴム手袋をはめ、極めて
友好的にふるまいながら少しでも情報を探ろうとした。ナイト•クラウンからマカロンの表情は見えない。肩をマッサージするときに相手の顔を覗くことは、シトラス王国では
極めて失礼なマナー違反であった。
「それにしても凝ってやすねぇー。やはり
料理長の仕事ってのは大変なんですかねぇ。」
ナイト•クラウンは雑談からマカロンの人物像をプロファイリングしようと試みた。
「えぇ、料理は体力勝負ですから。ですが
こうして王族の皆様に拾われて、色々な方に
私の料理を食べていただけることは私の誉れにごさいます。料理は私の人生すべてでございます。」
その料理を利用し、王を毒殺した容疑のかかっ ているマカロンは大変誇らしげにそう語った。
その声色は長年王宮内の厨房で料理長を任された歴戦の料理人の声のようにも、自分の作った料理を始めて父親に褒めてもらえたあどけない少女の声のようにも感じられた。
(もし私の拙い推理がただしけりゃぁ、大した役者ですねー。流石に長年、女王ロカの
処刑から逃れ続けるだけのことはありまさぁ。)
そんな思考を悟られないよう、自然に、和やかに、会話を繋ぐ。
「失礼なんですが、マカロン様はおいくつなんですかぃ?」
あくまで冗談めかして、相手の出方を伺う。
マカロンは肩を揉まれながらもじもじして、
「実はバルザード十一世様のご寵愛を給わってから私は料理のことしか頭になくて、いつのまにか年を数えるのを忘れておりましたの。」
マカロンは恥ずかしげに
「ですので私は永遠の17歳ですわ。」
と茶目っ気たっぷりのジョークを言った。
(ずいぶんとがっつりサバを読みやしたねぇ。)
と思いながらナイト・クラウンは
「へっへっへっ、そいつぁ一本取られやしたぜぇ。」
と朗らかに笑って見せた。
探偵ナイト•クラウンの柔和なる尋問は
まだまだ続いた。
「…….ぶっちゃけ、女王陛下のことをどう思ってますぅ?超怖くねぇですかぃ?」
ここはマカロンの厨房、マカロンの聖域。
マカロンとナイト•クラウンの二人きりだからこそ話すことの出来る話題であった。
マカロンは少し黙った。
そして、
「女王陛下は心の病を患っているのだと
思われます。」
と言った。それは長年様々な食材、薬草、果ては毒にまで精通する食と医のスペシャリストであるマカロンによる、医療的見解であった。
ナイト•クラウンはマカロンの肩を揉みながら マカロンの語りに耳を傾けた。
《食と医のスペシャリストマカロンの
医療的見解、並びに聖母マカロンの懺悔》
「女王陛下は昔からあのような方ではありませんでした。私が始めてバルザード十二世様に 女王陛下を紹介された時は、彼女は借りてきた猫のように緊張し、辺りを警戒しておりました。」
おばあちゃんが昔話を語るようなゆったりと、した口調でマカロンは当時の王宮の様子を 語った。
「私のような一料理人がこのような思いを抱くのはひどく浅ましいことだとは思いますが、私はバルザード十二世様のことを実の子供のようにお慕い申し上げておりました。私の料理を おいしそうにバルザード十二世様に食べていただけるだけで私は毎日、おなかいっぱいで ございました。」
静かに、ナイト•クラウンはマカロンの声に
耳を傾けながら肩を揉む。長年探偵として
人々の声に耳を傾けてきたナイト•クラウンにとってその声色は、幸福であった昔を懐かしむような声色であるように思えた。
「そんなバルザード十二世様に始めて女王陛下を紹介された時、私は息子が始めて恋人を家に
連れてきたような心地でした。それは家族も
なく、子供を産むことの出来ない私にとって、始めて味わう気持ちでした。」
ナイト•クラウンはだまって肩を揉んだ。
「もちろん、バルザード十二世様と女王陛下の結婚を国中の多くのものが反対していたことを 私は存じ上げております。ですが、バルザード十二世様の決意はダイヤモンドのように固く、女王陛下はそんなバルザード十二世様を心の底から愛しているように見受けられました。」
その声色は、前途多難な結婚を祝福する
母親のようであった。
「結婚式には私は腕によりをかけてフルコースを振る舞いました。バルザード十二世様と女王陛下様が、どうかどうか幸せになってくださいますようにと、少しでも長く私の料理を食べてくださいますようにと、そんな思いをこめて 料理を作りました。」
そこまで話終えて、マカロンはぽろ…..ぽろ……,と涙を流した。
「ですが王宮での暮らしは、そんな二人のお心を、少しずつ、毒のように蝕んでいったのです。」
ここまで話し終えて、マカロンは少女のように啜り泣いてしまった。
探偵ナイト•クラウンは
この容疑者の重要な証言を聞き取るために
肩を揉むのをやめ、自らが着ていた正装の
ポケットにあった純白のハンカチを差し出した。厨房では何かと 手を洗うことが多い。手を洗う以上はハンカチを持参する必要がある。それはシトラス王国内では下級貴族ですら知っている当たり前のマナーであった。
マカロンはナイト•クラウンに
渡されたハンカチで涙を吹き、ナイト•クラウンに礼をし、そのハンカチを渡した。
《証拠品》マカロンの涙のついたハンカチ
そうしてマカロンは再びゆっくりと当時の
様子を語りだした。
「バルザード十二世様と女王陛下がご結婚なされた頃、私の他に料理長は12人おりました。 それが今は料理長は私だけでございます。 三人は他国の間者に毒を盛られ、五人は自国内の権力闘争の犠牲となり、そして残りの四人は バルザード十二世様を失った女王陛下の怒りを かい処刑されてしまいました。常に食べ物に毒をいれられているかもしれないと言う恐怖。 それはきっと、常人には耐えることのできないほどおそろしい環境なのでございます。」
ナイト•クラウンはマカロンの話を聴きながら 王宮内の血塗られた権力争いに思いを馳せた。
「それだけではございません。王族としての責務、世継ぎを生み育てることのプレッシャー、 他国との戦争、国政の悪化。…….数えても数えてもきりがございません。その全てが毒となり バルザード十二世様と女王陛下様を蝕んでいる ようでした。」
静かに、懺悔するように、ゆっくりと食の
聖母は話を紡ぐ。
「私は少しでもお二方を私の料理で健康にしたかった。幸福にして差し上げたかった。料理は 私の全てでした。私に出来ることは料理しか ありませんでした。あらゆる国の食材をかき集め、各国の医学薬学を学びそれを私の料理へと落とし込みました。」
ビショップ•マカロンが【食の聖母】と言われるほどの料理人になった裏にはそれはそれは 途方もない数の試行錯誤と研鑽があったのだろう。ビショップ•マカロンの重々しい口振りは その事をナイト•クラウンに
ひしひしと感じさせた。
「……..私の食と医の全てを持ってバルザード 十二世様と女王陛下のお体を検診しつづけた私の結論はこうでした。あのお二方に最も必要なものは《適切な睡眠》なのだと。しかし、 いつ食事に毒を盛られるか分からず、
いつ寝込みをおそわれるかも分からない中行われる激務の中で、 そのようなものなど、得られるはずも ございませんでした。」
そして聖母マカロンは祈るように手を組み
最後にこう述べた。
「第十一陛下様、私は料理人としてあなた様のご子息のお心と健康を守る役目を与えられたにも関わらず、第十二陛下様をお救いすることができませんでした。どうか、どうか、お許しください。」
そう言ってビショップ•マカロンは先々代
バルザード十一世に向かって告解した。
天涯孤独の身である彼女にとって
寵愛を与え、居場所を与え、
料理長としての役目を与えてくれた
バルザード十一世は神そのものだったからだ。
(こいつぁ……だいぶ見えてきやしたねぇ。)
事件の内容、女王ロカから教わった容疑者の
人物像、お茶会での会話、そして今回の会話を 照らし合わせて、探偵ナイト•クラウンは
容疑者ビショップ•マカロンの動機に対する
目星をつけた。そして彼はそれを、頭の中の
推理メモにまとめた。
【推理タイム10 まとめ】
•マカロンの体液を手に入れた。賭けではあるが賭けに勝てば決定的な証拠になり得る。
•マカロンは怨恨によってバルザード十二世
を毒殺したのではない。彼女の動機は
もうすでにこれまでの会話内から推察することが出来る。
【推理タイム10 終了】
猫のように伸びをし、椅子から離れたマカロンはくるりとナイト•クラウンの方を向きぺこりと一礼した。
「おかげさまで少し、肩の荷がおりました。
私はまるで、孫に肩を労られているような
心持ちでおなかがいっぱいでございます。
誠にありがとうございました。」
「いえいえとんでもございやせんぜぇ。
大変貴重なお話が聞けやした。女王陛下と、 マカロン様の心労を少しでも軽くすることが
私の役目ですからねぇ。」
そう言って探偵騎士ナイト•クラウンは
ビショップ•マカロンに会釈をした。静かなる盤上でぶつかり合ったナイトとビショップは お互いの言葉に嘘がないことを頭ではなく
心で理解していた。
「あぁ、そうそう。それとなんですがねぇ
女王陛下にちょっとお使いを頼まれてやして…..。」
そう言ってナイト•クラウンはマカロンに
ひとつ手料理を作ってもらった。
【戦利品】 ビショップマカロンお手製ハチミツレモン、数種類の薬草シロップを添えて(×3)
食の聖域にて手に入れた情報と戦利品を
元に、ナイト•クラウンは次の容疑者
ギャンビットの元へと向かった。