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みら

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朝風呂から戻ると。
部屋には、もう何人か起きていた。
佐久間は布団の上に座って伸びをしている。
ラウールは窓際。
康二は、朝の景色を撮っていた。
目黒は。
阿部が戻ってきたことに気づくと、すぐにこちらを見る。
「おかえり」
「ただいま」
阿部は笑った。
「めめ、朝風呂行かないの?」
「あとで行こうかな」
「気持ちよかったよ」
「じゃあ行こうかな」
その横で。
深澤が大きなあくびをする。
岩本が見る。
「眠そうじゃん」
「夜更かししたから」
「誰のせい?」
「知らない」
阿部と岩本が同時に深澤を見る。
「何?」
深澤が笑う。
「朝からやめてよ」
渡辺は、もう布団に戻ろうとしていた。
宮舘がすぐ気づく。
「翔太」
「何」
「寝ないでね」
「寝ない」
「今戻ろうとしてたでしょ」
「ちょっと横になるだけ」
「朝ご飯来るよ」
その言葉で。
ラウールが振り返った。
「朝ご飯?」
「反応早」
阿部が笑う。
「昨日あんなに食べたのに」
「朝は朝」
渡辺が言う。
阿部がそちらを見る。
「翔太も同じこと言ってた」
「正しいから」
「そういうもん?」
「そういうもん」
朝風呂でも聞いた会話に。
阿部はまた笑った。
少しして。
朝食の時間になった。
昨日とは別の部屋へ案内される。
入った瞬間。
佐久間が声を上げた。
「うわあ!」
ラウールも。
目を輝かせる。
「すご」
大きなテーブルの上には。
九人分の朝食。
焼き魚。
卵焼き。
小鉢。
味噌汁。
炊きたてのご飯。
湯豆腐。
漬物。
果物。
朝とは思えないくらい。
しっかりした料理が並んでいた。
「旅館の朝ご飯って感じ」
阿部が言う。
宮舘も料理を見る。
「いいね」
「館さんチェック入る?」
深澤が聞く。
「そんなつもりじゃないよ」
「でも見てるじゃん」
「料理だからね」
渡辺が隣から言う。
「涼太、あとで再現して」
宮舘が笑う。
「どれ?」
「全部」
「全部?」
「できるでしょ」
「翔太の期待が重いね」
「食べたいから」
宮舘は。
少しだけ嬉しそうに笑った。
「じゃあ考えとく」
「いただきます」
九人で手を合わせる。
すぐに。
箸が動き始めた。
「美味しい!」
佐久間が言う。
「卵焼きうま!」
康二も続く。
ラウールは、もうご飯を半分くらい食べている。
阿部が気づく。
「ラウ、早くない?」
「美味しい」
「答えになってないよ」
「おかわりあるかな」
「昨日もそれ言ってたじゃん」
ラウールは何でもない顔で言う。
「昨日は昨日」
「強い」
岩本が笑う。
深澤は。
味噌汁を飲みながら。
「朝からこんな食べられるかなって思ったけど」
ご飯を口に入れる。
「普通にいけるわ」
「ふっかも食べてるじゃん」
「温泉って腹減るね」
「昨日もいっぱい食べたのに」
「それはそれ」
渡辺が言う。
「みんな同じこと言うね」
阿部は笑った。
目黒は。
阿部の隣で焼き魚をほぐしている。
「骨あるから気をつけて」
「分かってるよ」
「こっち取った」
「え?」
目黒が。
骨を取った魚を阿部の皿に置く。
阿部は一瞬止まる。
「めめ」
「何?」
「自分でできる」
「知ってる」
「じゃあなんで」
「やりたかったから」
向かいから。
佐久間がすぐ反応した。
「朝からラブラブ!」
「朝とか関係ないでしょ」
渡辺が冷静に言う。
康二は。
すでにカメラを構えていた。
「ええ写真やん」
「撮らなくていい!」
阿部が止める。
「自然なやつがええねん」
「自然じゃなくなったよ!」
目黒だけは。
全く気にせず。
次の魚の骨を取っている。
阿部が見る。
「めめ、もういいよ」
「まだある」
「全部取る気?」
「うん」
深澤が笑う。
「過保護」
岩本も。
「まあ今さらじゃない?」
「照まで」
阿部は。
少し恥ずかしくなりながら。
結局。
目黒が取ってくれた魚を食べた。
朝食は。
昨日の夕食と同じくらい賑やかだった。
佐久間が。
ラウールのおかずを欲しがり。
ラウールが断る。
康二が。
それを写真に撮る。
渡辺が。
宮舘の卵焼きを一口もらう。
深澤が。
「自分のあるじゃん」と突っ込む。
岩本が。
それを見ながら笑う。
目黒は。
ずっと阿部の隣にいる。
阿部も。
普通に食べて。
普通に笑った。
昨日。
宮舘と話したことを思い出す。
食べられる。
美味しいと思える。
お腹が空く。
そんな当たり前のことが。
誰かにとって。
こんなにも嬉しいことだった。
阿部は。
自分の茶碗を見る。
もう。
ほとんど空になっていた。
「おかわりする?」
目黒が聞く。
阿部は。
少し考える。
「……半分だけ」
目黒が笑う。
「するんだ」
「美味しいから」
少し離れたところで。
宮舘がその言葉を聞いて。
静かに笑っていた。
阿部も。
その顔を見て。
小さく笑った。
朝食を終えると。
部屋へ戻って帰る準備をする。
「帰りたくない!」
佐久間が畳に寝転んだ。
「始まった」
渡辺が呆れる。
「夢の国の時も言ってたよね」
阿部が笑う。
「だって楽しかった!」
「また来ればいいじゃん」
目黒が言う。
佐久間が起き上がる。
「来れる?」
全員が少し止まる。
この旅館は。
あの変な扉で来た場所。
一度きりと言われた。
次も同じ場所に来られるのか。
誰にも分からない。
阿部は。
少しだけ考えてから言った。
「同じところじゃなくてもいいんじゃない?」
佐久間が見る。
「え?」
「また九人でどっか行けばいいよ」
「……」
「夢でも」
少し間を置く。
「現実でも」
その言葉に。
誰も大きな反応はしなかった。
ただ。
佐久間が笑う。
「行く!」
ラウールも。
「温泉また行きたい」
康二は。
「次も写真いっぱい撮るで」
深澤が。
「じゃあ次はもっと近いところね」
岩本が笑う。
「今回も移動距離ほぼゼロだけどね」
「トイレ一枚だからね」
阿部が言う。
渡辺が顔をしかめる。
「思い出させないで」
荷物をまとめて。
最後に部屋を見回す。
卓球台。
ゲーム。
マッサージチェア。
アイスが入っていた冷凍庫。
窓の向こうの山。
一晩しかいなかったのに。
少しだけ。
名残惜しい。
「写真撮ろ!」
康二が言った。
旅館の玄関前。
九人で並ぶ。
「俺撮るから」
「康二も入ってよ」
阿部が言う。
「せやけど」
「タイマーでいいじゃん」
ラウールが言う。
「あ、そやな」
康二はカメラを置き。
急いで戻ってくる。
「十秒!」
「早い!」
佐久間が叫ぶ。
みんなで慌てて並ぶ。
岩本の隣に深澤。
宮舘の隣に渡辺。
佐久間とラウールの間に康二。
そして。
阿部の隣には目黒。
「もっと寄って!」
康二が言う。
「お前も今こっち側じゃん!」
深澤が笑う。
「いつもの癖出た!」
目黒が。
自然に阿部の肩へ腕を回す。
阿部が見る。
「近い」
「写真だから」
「写真じゃなくても近いじゃん」
渡辺が言う。
「翔太、それ夢の国でも言ってた」
阿部が笑った。
その瞬間。
シャッターが切れる。
誰も。
ちゃんとカメラを見ていなかった。
でも。
確認すると。
九人全員が笑っていた。
「これいいな」
岩本が言う。
康二も。
画面を見ながら頷く。
「ええやん」
阿部は。
その写真を見つめた。
また一枚。
持って帰れないかもしれない写真が増えた。
それでも。
もう前ほど寂しくはなかった。
「覚えて帰ればいいもんね」
阿部が言う。
康二が笑う。
「せやな」
「次は」
阿部は画面を見たまま言う。
「現実で撮ろ」
「うん」
康二が答える。
今度も。
誰も驚かなかった。
「で」
渡辺が言う。
「どうやって帰るの?」
全員。
止まった。
「……」
阿部が旅館の玄関を見る。
「そういえば」
深澤も。
「聞いてないね」
岩本が言う。
「従業員さんが案内するって言ってなかった?」
「言ってた」
阿部は周りを見る。
「……いないけど」
「え?」
佐久間が辺りを見回す。
確かに。
さっきまでいたはずの旅館の人が。
誰もいない。
受付にも。
廊下にも。
「嘘でしょ」
渡辺が顔をしかめる。
「帰れないとかないよね?」
「天使ならありえる」
深澤が言う。
「やめて」
「一回しか使えないって言ってたし」
ラウールも考える。
「どうする?」
佐久間が。
急に笑顔になる。
「もう一泊!」
「駄目」
渡辺が即答する。
「なんで!」
「帰りたい」
「翔太昨日楽しそうだったじゃん!」
「楽しかったけど帰りたい」
宮舘が。
玄関の扉を見る。
「とりあえず開けてみる?」
阿部が頷く。
「それしかないか」
九人で。
少しだけ緊張しながら。
玄関へ近づく。
阿部がドアノブに手をかける。
「開けるよ」
「うん」
扉を開ける。
「……」
阿部は固まった。
目黒が。
後ろから覗き込む。
「どうしたの?」
「……トイレ」
「え?」
全員が集まる。
向こうにあったのは。
見慣れた阿部の部屋。
その中でも。
見覚えしかない場所。
トイレの前だった。
渡辺が。
心底嫌そうな顔をする。
「結局トイレじゃん」
「普通に帰れるってこういう意味!?」
阿部も叫ぶ。
深澤が笑う。
「普通ではないけどね」
佐久間は。
なぜか嬉しそうだった。
「帰れる!」
「そこはよかったけど!」
一人ずつ。
扉をくぐる。
ラウール。
佐久間。
康二。
宮舘。
渡辺。
深澤。
岩本。
目黒。
最後に。
阿部が旅館側へ振り返った。
静かな玄関。
楽しかった一日。
少しだけ。
ここに残りたい気持ちもある。
でも。
向こうから。
「あべちゃーん!」
佐久間の声がする。
「早くー!」
阿部は笑った。
「今行く!」
扉をくぐる。
そして。
ドアを閉めた。
一瞬。
静かになる。
恐る恐る。
もう一度開ける。
そこには。
普通のトイレがあった。
「戻った」
阿部が言う。
渡辺が。
深く息を吐く。
「よかった」
佐久間が。
トイレを覗く。
「もう旅館ない?」
「ないよ」
「ほんと?」
「確認しなくていいって!」
ラウールが笑う。
「佐久間くん、また入ろうとしてる」
「もしかしたらまだ行けるかも」
「駄目だって」
岩本が止める。
康二は。
その様子まで写真に撮っていた。
「最後まで撮るの?」
阿部が聞く。
「これも思い出やん」
「トイレ前だけど」
「それも含めて」
阿部は。
少しだけ笑った。
確かに。
それも含めて。
全部。
今回の思い出だった。
温泉に入って。
たくさん食べて。
卓球して。
ゲームして。
泣いて。
話して。
また笑った。
傷が全部消えたわけではない。
まだ。
話していないこともある。
それでも。
この旅行の前より。
少しだけ。
九人が近くなった気がした。
「また行こうね」
佐久間が言う。
阿部は。
今度は迷わず頷いた。
「うん」
夢の中でも。
現実でも。
次の約束を。
また一つ増やして。
九人の温泉旅行は。
終わった。
コメント
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第41話、めっちゃ良かった…!朝食シーンで目黒が阿部ちゃんの魚の骨取ってあげてるとことか、もう完全に過保護で微笑ましすぎるでしょ〜。それに対して「自分でできる」って言いながらも結局食べてる阿部ちゃんも可愛いし、自然と笑えてるのが本当に尊い。ラストの「現実で撮ろ」とか「夢の中でも現実でも」って台詞、この旅が確かに彼らの中でちゃんと意味になってるんだなってグッときた。九人の距離が確実に縮まってるのを感じる、温かくてちょっと泣きそうになる回だったよ…!