36
『全部、元教師だからなんですか…?』
「……」
「……ごめん、」
ごめん、 なんて聞きたくなかった。
ごめんって思ってるなら、否定してよ、
引き止めてよ。
ほんとに、元教師だからって理由なんじゃん、
『…こちらこそ、すいません、』
『…では、』
生徒 じゃなくて 女 として会ってたと思ってた。
でも、先生にとっては私なんてまだまだ子供で、生徒という肩書きから変わることはなくて。
「…姫野っ!」
『……っ、、泣』
こんな酷い顔なんて、ほんとは見られたくなかった。
なのに、先生が私の名前を呼ぶから、
姫野 って叫ぶから、
「…傘、ないだろ、?」
「持ってけよ、また返してくれればいいから」
…………。
やっぱ、全部違うんじゃん。
引き止めて欲しかったんだよ、?
否定して欲しかったの、
「それは違う」って。
『…ビニール傘、嫌いなので。 』
「…そ、っか。」
そう言って私は先生の車を出た。
視界は雨で滲んでいて……。
嘘、視界は涙で滲んでいる。
先生はなかなか、車を走らせない。
なら、このまま歩いていこうか、とも思ったけど、やっぱりそれは、
ちょっと礼儀が無さすぎるから。
・
次の日。
その日は日曜日だった。
先生が来る日。 でも、昨日あんな事があったんだから、今日は来ないかもしれない。
「○〜○ちゃん!」
『……』
「え…無視?笑」
『えっ!手塚さん、、ごめん、』
そんなことを考えてたら、なんか気分が下がってしまい、手塚さんの声が聞こえなかった。
「どーしたの。ケンカ〜?」
『…、そんなわけっ、!』
「ふ〜ん。ならいいけど?」
ケンカ、じゃないけど、
手塚さんは私達のこと、なんでもわかっちゃうらしい。
『あ、小説の締め切り、そろそろですよね?』
「あー。まあね」
『書けたんですか?』
「…あと、最終章だけ。」
『そうですか、見せて下さいね。』
「嫌だよ、!!笑」
『なんでっ!!笑』
そんなこんな、手塚さんと笑いあって、ふざけ合っていたら、
カラン。
ベルが鳴った。
『いらっしゃいませ!』
「いらっしゃいませ!」
2人同時に その言葉を口にした時、
入ってきたお客さんは、静かに笑った。
私の、今会いたくなかった人。
でも、今会いたかった人なのかも。
コメント
27件
めっちゃ最高、!