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「The Banlands」。
それは、運営に切り捨てられた存在だけが沈められる、世界の墓場だった。
空は常にノイズ混じりの灰色で、遠くにはバグ化した高層ビル群が、歪んだデータの海に半分沈んでいる。地面にはエラーコードが血管のように走り、空気そのものが「接続不良」のノイズを帯びていた。
そんな終末じみた隔離領域の片隅。
廃サーバーを積み上げて作られた即席のアジトで、Ellernateは膝を抱えて震えていた。
「っ、ふ……く、くく……っ」
肩が痙攣している。
笑いを堪えているのだ。
その隣ではCaleb244が完全に床へ沈み込み、腹を抱えて転げ回っていた。
「ダメだ……ッ、もう無理……! “完璧な彼氏(金持ち)とデートしてる”って何!? iTrappedお前ほんとに何!?」
「やめろCaleb……ッ、僕はまだ耐えてる……ッ」
「耐えられてねぇよ顔見ろよ!!」
二人の前には、古びた通信端末が置かれている。
そこに表示されているのは、数分前に届いた問題のメッセージ。
【送信者:iTrapped】
『今、完璧な彼氏(金持ち)とデートしてる。闇市場のコネと財産は手に入りそうだ。すぐ結婚するから、もうしばらく耐えてくれ』
沈黙。
そして。
「ッ、アハハハハハハハ!!」
Caleb244が再び爆発した。
「“すぐ結婚する”って何だよ!! 脱獄した瞬間人生設計進みすぎだろ!!」
「しかも“闇市場のコネと財産は手に入りそう”の流れで彼氏紹介してくるの最悪すぎる……!」
Ellernateもついに耐え切れず、崩れ落ちる。
普段ならBanlandsの空気はもっと陰惨だ。
誰かが消える悲鳴。
データ崩壊。
運営ログの警告音。
終わりの見えない飢えと絶望。
だが今、この廃墟だけは違った。
iTrappedがやらかした“人生最大の誤爆”のおかげで。
「いやでもさぁ……」
Caleb244が涙を拭いながら、ニヤニヤと端末をつつく。
「俺らが地獄で死にかけてる間、アイツ外でデートしてたんだぜ?」
「しかも“完璧な彼氏”」
「しかも“金持ち”」
「しかも“すぐ結婚”」
二人は顔を見合わせた。
次の瞬間。
「「ダメだもう無理!!!!」」
崩壊。
腹筋が死ぬ勢いで笑い転げる。
その時だった。
端末が「ピコン♪」と鳴った。
二人は即座に飛びつく。
新着メッセージ。
【iTrapped】
『違う。誤送信だ。今すぐ忘れろ』
「来た!!!!」
Caleb244が歓喜する。
さらに追撃。
【iTrapped】
『彼氏ではない』
『結婚もしない』
『あれは入力ミスだ』
『頼むから拡散するな』
「“頼むから”だってよ!!!!」
「iTrappedが“頼む”って言った!! 初めて見た!!」
Ellernateは笑いすぎて呼吸困難になりかけていた。
普段のiTrappedは冷酷だ。
完璧主義。
絶対零度の支配者。
どれだけ追い詰められても表情ひとつ崩さない。
そんな男が、今必死に弁明している。
それだけで面白すぎた。
Caleb244は即座に返信を打つ。
【Caleb244】
『照れるなって新婚さん😊』
【Ellernate】
『結婚式呼んでね!!』
数秒後。
返信。
【iTrapped】
『殺すぞ』
「あっははははは!! 出た!!」
「完全に図星突かれた時の反応じゃん!」
その瞬間、アジトの奥でガラクタを漁っていた別のBanlands住人が、不思議そうに顔を出した。
「……何騒いでんだお前ら」
Caleb244は満面の笑みで端末を掲げる。
「聞いてくれよ。iTrappedが外で金持ち彼氏捕まえて結婚するらしい」
「は?」
「しかも今デート中」
「は???」
数分後。
噂はBanlands全域へ広がった。
『氷の王冠のiTrapped、脱獄先で玉の輿』
『Banlands最悪の詐欺師、ついに寿退社』
『結婚資金=闇市場のコネ』
地獄みたいな見出しが、違法掲示板に乱立していく。
「やめろォォォォォ!!」
遥か外界。
隠れ家では、iTrappedが絶叫していた。
だが、通信は止まらない。
【???】
『披露宴いつ?』
【???】
『ウェディング王冠期待してます』
【???】
『チャンスって受け?』
「通信回線を切断しろォォォォ!!」
氷の王冠から凄まじい冷気が暴発する。
一方Banlandsでは。
Ellernateが、笑い疲れて床へ寝転がっていた。
「はぁ……っ、久々にこんな笑った……」
「な」
Caleb244も息を吐く。
灰色の空。
崩壊した世界。
出口のない監獄。
本来なら、心を壊していてもおかしくない場所だ。
だが今だけは違った。
遠く離れた外界で、あの冷酷なiTrappedが顔を真っ赤にしている姿を想像するだけで、全部どうでもよくなる。
Ellernateは、くつくつと笑いながら呟いた。
「……でもさ」
「ん?」
「アイツ、ちゃんと生きてるんだな」
ほんの少しだけ。
その声は優しかった。
Caleb244も笑みを浮かべる。
「ああ」
終わった世界の中で。
ノイズ混じりの空を見上げながら、二人は小さく笑った。
「……なら、まぁ」
「結婚でも何でもして、勝手に生き延びろって感じだな」
その瞬間。
通信端末が再び鳴った。
【iTrapped】
『だから結婚しないと言ってるだろうが!!!!』
Banlandsに、再び爆笑が響き渡った。
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(ゝω・) ねこウサギ
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