「聞いてるの!?鍾離さん!」
ふと、堂主に声をかけられていたことに気づく。
鍾離「すまない、どうかしたか?」
胡桃「だ~か~ら!」
胡桃「また往生堂にツケたでしょ!」
そう言い、堂主はかなりの額の通帳を見せてきた。
だが、おかしい。
今日の昼はたまたま居合わせた公子殿に払ってもらったはずだ。
なら前の時、それも否。
紙に書かれた日付はまちがいなく今日のもの。
胡桃「どうしたの鍾離さん?」
鍾離「堂主殿、俺は今日の昼は公子殿に奢ってもらった。」
胡桃「え!?」
鍾離「そして、他に何か買ったわけでもない。」
胡桃「じゃあこれは何のツケなの!?」
そう言われても、ここ最近で払ってないモラはない。
胡桃「魈仙人…」
胡桃「そうだ!魈仙人との時なんかやったでしょ!?」
そう思えば、海灯祭の時にいくつか奢った記憶がある。
鍾離「そう思えば、話すついでに食事したな」
胡桃「それじゃん!」
となるとツケは望舒旅館か。
胡桃「でもいいな~!」
鍾離「何か話したかったことでも?」
胡桃「だって仙人様だよ!?もう会えるだけで運気が上がるじゃん!」
胡桃「そうしたらきっと往生堂も…!」
鍾離「それもそうだな。」
そう軽く笑いながら、俺は出掛ける支度をする。
胡桃「あれ?鍾離さん出掛けるの?」
鍾離「ああ、少しな」
胡桃「待って!はいこれ!」
そう堂主にモラ袋を渡される。
胡桃「どーせ、また何か買ったりするでしょ?」
胡桃「ツケられると大変だから、これ以上使っちゃダメだよ!」
堂主殿は俺を周りの子供にでも思っているのだろうか。
そう思う反面、俺は足を進めた。
望舒旅館に咲いている霓裳花はきれいに飾られていて、その一瞬の揺らぎから木の上にいることがわかる。
鍾離「久しいな、魈」
魈「!?…鍾離様…?何故ここに…」
鍾離「気が向いただけだ。」
魈「左様ですか…。」
昔のことを考えると、魈はかなり丸くなった。
俺が岩王帝君の頃、人気を寄せないような威圧をのせ、俺が近づいた瞬間気がついた
その反面、ほんの少しだが俺に気づく反応が遅れた。
けしてたるんだという訳ではないが、過去より安らぎを与えていられるのだと思うと
胸を撫で下ろす。
魈「どうかいたしましたか?」
鍾離「?何のことだ?」
魈「いえ、先程から我の顔を見つめていましたので…。」
鍾離「ああ、少し昔のことを思い出してな。」
魈「昔のこと…ですか?」
鍾離「あの時、お前は何故俺について来た? 」
鍾離「けして人を信じられる状況ではなかったはずだ。」
魈「我は…」
そう言いかけ、言葉は風に流されてゆく。
何でもない、そう言おうとした時だった。
魈「我は、貴方に名前を貰い、救っていただきました。」
魈「そして貴方は信じろと仰いました。」
魈「我は…その時点で貴方に着いていくと決めたのです。」
魈「例えそれが酷な道だったとしても、貴方に裏切られたとしても、我は貴方に従い着いていくのみです。」
鍾離「……そうか。」
6000年も生きてきた。
そのなか、民の喜びも悲しみも見てきた。
魔神戦争で、多くの命を失い、多くの命を奪った。
あの悲鳴は、今も頭の中に響いてくる。
それを、俺より多く聞いた部下が、俺を信じるといっている。
俺が凡人になったとしても、恐らく魈が俺への忠誠を止めることはないだろう。
それならば、俺もそれに答えるべきだ。
鍾離「よく着いてきてくれた。」
鍾離「そしてどうか、俺が愛したこの国を、お前が守ってくれ。」
俺はそう言い放ち、望舒旅館を後にした。
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