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「こんなにも翻弄されるなんて思わなかった……」
ため息を吐いて言う。
……そう、初めてこのお店のカードキーをもらった時には、ホストがお客を選ぶというちょっと変わったコンセプトに引かれたに過ぎなくて、興味本位で通ってみて飽きたらまた別の店へ行こうとも思っていた。
だけどここは、他のどんなお店の雰囲気とも違う特別感があって、まして遊び馴れた自分を魅了するような、流星みたいなホストに出会ったこともかつてなかった。
「翻弄ね…そんなの、俺はするつもりもねぇけど」
バーボンのロックをごくりと飲む彼の手から、グラスをすいっと抜き取る。
「するつもりもないから、翻弄されるんでしょ…」
彼にそう告げると、無防備なその唇にちゅっと軽くキスをした──。
「キスは、俺からさせろよ」
同意も得ないまま顎が強引に引き寄せられて、まるで噛み付くように口づけられた。
わずかに開いた唇の隙間から、差し伸ばされた舌の先が、私の舌に柔く触れて誘いかける。
舌裏を緩くなぞり、ちゅ…っと湿った音を立てて唇が離れると、彼のキスに酔い痴れるようで、全身からにわかに力が脱けそうにもなった。
「……。……こんなのって、ズルい」
「ズルい? 何が?」
私の取り上げたグラスを手にした流星が、中身をひと息に飲み干して、ごくりと喉を鳴らす。
飲み終えて、拳でぐいと横に唇を拭う仕草さえもかっこよくて、目が奪われてしまう。
「こんなキス…するなんて」
「こんなキスも、されたことなかったのかよ?」
薄く唇の端で笑っているその顔を、上目に見つめる。
「されたことがないわけじゃ……。だけどこんなの、お店ではふつうじゃないもの……」
「ここは、ふつうじゃないって、さっきも言っただろ」
鋭く切れ上がる眼差しで、私の瞳の奥がじっと見つめ返される。
その目が放つ魅力に惹きつけられ、あっという間に心まで奪われてしまいそうになる。
「ここは、他にはない特別な場所だからな。
それにおまえも、他にはいない、俺だけの特別な女だから」
甘く耳をくすぐるセリフに、彼が自分を選んでくれたことを幸せにすら感じてしまう私は、この普通じゃないホストクラブに、
そうして、流星に、
飽きるなんてことは、きっともう永遠にできないのかもしれないと、切ないほど痛く感じた──。
END
次は、天馬のエスコート