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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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 高校へ入学して、早いこと一ヶ月。


 中学の頃から多少はあったものの、高校生ともなると明らかに増えてくるのが、彼氏彼女の恋バナ。

 キラキラと輝いた瞳で、彼氏や好きな人の話をするクラスメイト達。それを尻目に、私は盛大な溜息を吐いた。



(羨ましい……)



「私も彼氏欲しいなぁ……」



 ポツリと小さな声で呟く。



「花音には響さんがいるじゃん」



 私の肩にポンッと手を置いてニッコリと微笑む彩奈あやな

 サラサラの綺麗な黒髪を耳に掛けて小首を傾げる姿は……美少女すぎて眩しい。



「眩しいです、彩奈さん」


「……は?」



 シラけた顔して私を見てくる彩奈。そんなクールなところも、大好きだよ。



「ひぃくんは嫌だよ。ちょっと……変だもん」


「まぁ……確かに、ちょっとねぇ」



 小学生の頃から大親友の彩奈は、ひぃくんの正体を知っている数少ない人間。

 小学四年の時も、中学の時も、私の近くで一部始終を見ていた目撃者でもある。



「見た目だけなら、かなりのハイスペックなのにね」



 そう言って私の隣で残念そうに笑う。



「響さんと翔さんに見慣れてる花音には、中々彼氏ができないかもね」


「えっ!? なんでっ!?」



 思わず声が大きくなってしまい、慌てて口元を抑える。



(そんなの嫌だ……っ。私だって、恋をして……彼氏を作りたい)



「あんなイケメン、他にいないからね〜」


「私、別にイケメンがいいわけじゃないよ?」



 クスクスと笑う彩奈に、プクッと頬を膨らませて反論する。



「じゃあ、なんで彼氏作らないの? 入学してから、もう何人にも告白されてるくせに」


「それは……」



 一度開いた口をすぐにつぐむと、窓の外を眺めて小さく溜息を吐く。



(今日は溜息ばかり吐いてるなぁ……。私の幸せが逃げちゃうよ)



 そんな事を思いながら、私はまた小さく溜息を吐いた。 







◆◆◆







 ──お昼休み。

 見知らぬ男の子に呼び出された私。



(……どこまで行くんだろう?)



 そう思いながら、目の前の背中に黙って付いて行く。



(お腹空いたなぁ……。今日のおかずは何かな?)



 そんな事を考えていると、目の前を歩いていた男の子が突然立ち止まって振り返った。




 ────!?




 すぐ後ろを歩いていた私は、そのまま男の子に突進してしまった。



「……ぅっ。……痛い」



 ぶつけた鼻をさすっていると、突然ガシッと肩を掴まれる。



「……わっ! ごめんね、大丈夫!?」



 心配そうに私の顔を覗き込む男の子。よく見てみると、とても可愛らしい顔をしている。

 先程までちゃんと顔を見ていなかったので、全く気付かなかったけど……。たぶん、もの凄く女の子に人気がありそうな顔立ちだ。


 申し訳なさそうに私を見つめる男の子は、きっととても優しくて性格も良い。そんな気がする。



「はい……。大丈夫です」



 そう答えながら顔を上げると、ホッとしたのか「良かった」と言って微笑んだ男の子。



(こんな所に連れてきて、一体私に何の話しなんだろう……?)



『花音ちゃん。ちょっと話しがあるので、付いて来て下さい』



 数分前、教室で言われた言葉。



(……なんで私の名前、知ってるの?)



 私は目の前の男の子に全く面識がなかった。



「──あのっ!」



 突然、妙に真剣な表情を見せる男の子に緊張が走り、私は思わずその場で身を固めた。



「俺、花音ちゃんの事が──」


「断る!!」




 ────!?




 目の前の男の子の言葉を遮って放たれた声に驚き、ビクリと小さく肩を揺らした私。そのままゆっくりと後ろを振り返ってみると──。

 いつの間に来たのか、そこにはお兄ちゃんが立っている。

 


「えっ!? お、お兄ちゃん……?」



(断るって……。もしかして、これって告白だったの? えっ……? お兄ちゃんが断っちゃったの?)



 一人、パニックになる私の腕を掴んだお兄ちゃんは、そのまま私を連れて無言で歩き始める。

 チラリと後ろを振り返ってみれば、そこには呆然と立ち尽くしている男の子がいる。



(え……? 何、これ……)



 告白だったのか、そうじゃなかったのか……。それすら分からないまま、私はその場を後にしたのだった。







◆◆◆







 教室へと戻ってきた私は、待っていてくれた彩奈と一緒にお弁当を広げた。


 今日は、彩奈と一緒にお弁当を食べる曜日。

 月水金がお兄ちゃんで、火木が彩奈と。何故か、お兄ちゃんに勝手に決められてしまったルール……。


 お弁当の蓋を開けた私は、途端に瞳を輝かせた。



「わぁ……! 美味しそぉ〜っ!」



 お兄ちゃんが作ってくれたお弁当には、私の大好物のハンバーグが入っていた。

 早速お箸で一口大に切ると、ハンバーグを口の中へと入れる。



(美味しい……っ。幸せだなぁ)



「で、さっきのどうだったの?」


「……ん? さっきのって、何?」



 お弁当を頬張りながらもそう尋ねると、目の前にいる彩奈は呆れ顔で口を開いた。



「さっきの、告白」


「…………。よく分かんない」



 そもそも、告白だったのかすら怪しい。



「さっきの人、人気あるんだよ? 確か……山崎やまざき斗真とうまって名前、だったかな」


「そうなんだ……」


「あのねぇ……、もっと関心持ちなさいよ。本当に彼氏作る気あるの?」


「だって……」



(本当に、何だかよく分からなかったんだもん……)



 昔からそう──。男の子に呼び出されると、必ず何処から聞きつけたのかお兄ちゃんがやって来た。

 そして結局、よく分からない内に終わっているのだ。



「……っ、絶対に彼氏作るもん!」



 ヤケクソ気味にそう宣言をすると、止まっていた手を動かして再びお弁当を食べ始める。

 そんな私を見た彩奈は、「はいはい。できるといいね」と呆れたような顔をして溜息を吐いた。







◆◆◆







 「ねぇ、お兄ちゃん」



 目の前でお弁当を食べているお兄ちゃんは、私の声に反応してゆっくりと顔を上げた。



「昨日のって……。告白、だったのかなぁ?」



 昨日の出来事をふと思い返した私は、唐突にそう質問をしてみる。


 答えを求めてお兄ちゃんを見つめていると──。すぐ隣から、カシャンと何かが落ちる音が聞こえてきた。

 その音に反応して視線を向けてみると、右手を宙に浮かせたままプルプルと震えているひぃくんがいる。その足元には、お箸が転がっている。



(ああ、ひぃくんがお箸を落とした音だったんだ)



 呑気にそんな事を思った──次の瞬間。

 急に私の方へと顔を向けたひぃくんが、焦ったようにして口を開いた。



「花音っ! ……っ、お嫁に行くなんて言わないでっ!」



 ガシッと私の肩を掴むと、泣きそうな顔をして私の身体を揺らすひぃくん。



(相変わらず、ひぃくんの思考が分からない……)



 私はお嫁に行くとは一言も言っていないのだ。



(何をどう聞き間違えたらそうなるの……? もう放っとこう)



 私にまとわりつくひぃくんをそのままに、もう一度お兄ちゃんの方へと視線を向けてみる。



「告白じゃないよ」



 ニコリと微笑むお兄ちゃん。



(なんだ……。やっぱり、告白じゃなかったんだ……)



 ちょっぴり残念に思う。



「何、告白が良かったの?」


「えっ!? いや……、んー……。別に、そういう訳ではないけど……」



 お箸を進める手を止めたお兄ちゃんが、妙に真剣な顔をして聞いてくるから……。何だか恥ずかしくなって、少しだけ顔を俯かせる。

 すると、私の腰あたりにまとわりついていたひぃくんとバチッと視線がぶつかる。



「……っ、花音。お嫁になんて行かないで……っ」


「…………」



 ウルウルとした瞳で、上目遣いで私を見つめるひぃくん。

 まだ訳のわからない事を言っている。



「花音。また昨日みたいに男に呼び出されたら、俺にちゃんと言えよ」



 その声に反応して顔を上げてみると、真剣な眼差しのお兄ちゃんが私を見ている。

 そしてギロリとひぃくんへと視線を移すと、ひぃくんの首根っこを掴んで私から引き離したお兄ちゃん。



「……なんで?」



 私の声に、再び視線を私に向けたお兄ちゃんは、ひぃくんの首根っこを掴んだまま口を開いた。



「一人じゃ危ないから」



(危ない……? 私は昨日、危なかったの? 危なそうな人には見えなかったけど……。でも、お兄ちゃんがそう言うなら危なかったのかもしれない)



「うん。分かった」



(お兄ちゃん、ありがとう)



 感謝の気持ちを込めて、満面の笑顔で返事を返す。

 昔からいつだって私を助けてくれるし、とっても頼りになるお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんは、昔から私の自慢なのだ。



(お兄ちゃんが私のお兄ちゃんで、本当に良かった)



 そう思うと、自然と顔がほころぶ。

 私は食べかけだったお弁当を頬張りながら、ひぃくんとお兄ちゃんがじゃれている姿を見て微笑んだ。





 この時の私は、知らなかった。



結城ゆうき花音に告白しようとすると、その兄が必ずやってくる』



 そんな噂が、学校中に広まっていたなんて──。

 





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