テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第12話 「新チーム始動」夏が終わった。
グラウンドから、三年生の姿が消える。
部室。
ロッカーを整理する田村たちの背中を、小早川啓介は黙って見ていた。
笑い声もある。
だが、どこか寂しかった。
「おい、小早川」
田村が振り返る。
「はい」
「キャッチャー、頼んだぞ」
短い言葉。
だが、その重みは分かっていた。
「……はい!」
田村は少し笑う。
「お前、最初は声ちっちゃかったもんな」
周りの三年生たちも笑う。
「ミットずっと弾いてたしな」
「福間監督に毎日怒鳴られてたやん」
小早川も、少しだけ笑った。
でも――
悔しかった夏を思い出す。
西陵学園。
届かなかったあと二つ。
(次は……)
(俺たちが行く)
数日後。
新チーム初日。
グラウンドに並ぶ新チーム。
二年生と一年生だけになった景色は、少し頼りなかった。
その前に立つ福間監督。
「今日から新チームや」
空気が変わる。
「夏のベスト8?」
鼻で笑う。
「もう関係ない」
誰も動かない。
「秋で勝て」
秋季大会。
その先には九州大会。
そして――
春のセンバツ。
柳城が長く届いていない場所だった。
「ここからは、“勝てるチーム”を作る」
その日から練習はさらに厳しくなった。
ケースノック。
走塁確認。
バント処理。
「一球で終わるぞ!」
福間監督の声が飛ぶ。
以前よりも、求められる精度が高かった。
小早川は毎日最後までグラウンドに残った。
キャッチング。
スローイング。
配球ノート。
「もっと見ろ」
福間監督によく言われた。
「捕手は、チーム全部見ろ」
その意味を、少しずつ理解し始めていた。
ある日の紅白戦。
二死二塁。
打者は主軸。
小早川は間を取る。
(ここは外……)
首を振る投手。
(違う)
もう一度サイン。
投手がうなずく。
投げた。
――ゴロ。
ショート正面。
アウト。
「よしっ!」
自然と声が出る。
その様子を、福間監督は静かに見ていた。
練習後。
グラウンド整備をする小早川に近づく。
「少し、捕手らしくなってきたな」
小早川は驚いて顔を上げる。
福間監督は滅多に褒めない。
「……まだまだです」
すると福間監督は小さく笑った。
「そのくらいでええ」
夕焼けがグラウンドを赤く染める。
三年生はいなくなった。
だが――
柳城高校野球部は止まらない。
次の夏へ。
次の景色へ。
新しいチームが、静かに動き始めていた。
第12話 終
#高校生
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!