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「おにーちゃん! 今日はどこいってたの!?」
「ああ、ちょっと散歩に出てたら遠くまで行きすぎてな……」
侵入者を撃退した後、村へ帰ると辺りは真っ暗。
もうちょっと早く帰って来ることも出来たのだが、そうすると尻が四つに割れてしまう為、致し方なかったのだ……。
温泉で疲れを癒し、部屋に戻ったらこの状況。ミアは頬を膨らませ、ご立腹の様子。
「ホントにぃ?」
「ホントだよ。なぁカガリ?」
わざとらしくカガリに同意を求めると、カガリは面倒くさそうに首を縦に振った。
「カガリは、ずっと私と居たでしょ!」
忖度するカガリに鋭いツッコミが入り、気まずそうな空気感。
「まあ、いいじゃないか。ミアは明日も仕事だろう? 早く寝た方がいいんじゃないか?」
なんとか誤魔化そうと試みるも、ふくれっ面のミアは疑いの目を向けてくる。
どうにか機嫌をとれればいいのだが、何かをプレゼントしようにもそんな洒落た物は持ってないし、それを買う金すら持ち合わせていない。
となったら、やれることはただ一つ。スキンシップだ。
「悪かったよ、ミア。怒ってないで今日あったことを教えてくれ」
ベッドで横になると、いつも寝ているミアの場所をポンポンと叩く。
そこに乗り上げたのはミアではなくカガリだ。ベッドの上で丸くなると、ジッとミアを見つめる。
それは一緒に寝てもいいという合図。それはカガリの機嫌がいい時にしか出来ない特別なもの。
呆れたように溜息を漏らすミアだったが、その誘惑には勝てず、強張った表情が一気に緩むとベッドの中へと潜り込んだ。
そして、今日ギルドであったことを嬉しそうに語ってくれたのである。
――――――――――
朝日が眩しいほどの快晴。朝食を済ませギルドに顔を出すと、座る場所がないほどの盛況ぶり。
最近では、ミアはもう掲示板に依頼を張りに出てこない。ミアが出てきてしまうと冒険者達が集まってきてしまい、仕事にならないからだ。
しかし、カウンターには顔を出すので、そこだけに行列が出来るのは相変わらずであった。
「もう慣れて来たな。この感じ」
「そうだな」
部屋の隅で立っているカイルと世間話をしながら、専属の仕事が割り振られるのを待っている。
「九条。今日は仕事あると思うか?」
「どうだろうな……。多分なさそうだが……」
「いつもこうだと腕が鈍っちまうよなぁ?」
「暇なら武器屋の裏庭で手合わせでもするか?」
それを聞いたカイルは真顔になった。
「殺す気か……」
「え?」
「え?」
「……」
自分達の周りだけ、急に空気が重たくなったのを感じた。
冒険者達がギルドを後にすると、案の定俺達への仕事の依頼はなかった。
なんというか、出席だけとって帰る不真面目な大学生みたいな気分である。
のんびり過ごすという意味ではスローライフなのだろうが、今の状況は思っていたものとはどこか違う気がする。
それとも日本人の血が、働くことを求めるのだろうか……。
この世界にはパソコンもスマートフォンもゲーム機もない。暇をつぶすのがこれほどの苦痛だとは思いも寄らなかった。
この世界でも出来る暇つぶし……。そこでふと思いついたのが魔法である。
辺り一面を焦土と化す破壊魔法――とかではなく、ちょっと生活が楽になるような便利な魔法とか、簡単なものなら覚えられるのではないかと考えたのだ。
そうと決まれば早速――と思った矢先のことだった。
「マスター! 侵入者です」
折角溜まったやる気ゲージは、もはやマイナスである。
「マジかよ……。昨日の今日だぞ……」
まずは自分の尻を労わる魔法を覚えよう。俺はそう心に誓うと、急ぎダンジョンへと向かったのだ。
――――――――――
「状況は?」
「昨日来た方々です。人数は倍です」
「三人も増援を連れて来たか……。ヤバいな……」
前回は魔物の死体を操り戦わせることによって魔力切れを狙い、なんとか撤退まで追い込むことが出来た。
しかし、今回はもう魔物達の死体はない。
負ける訳にもいかず、勝つとしても殺さず、正体も隠し通さなければならない。
「どんな縛りプレイだよ……」