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第102話:シロのプール開きと、石油王の謎の小包
抜けるような十勝の青空の下、特大UVカットタープが作り出す完璧な絶対日陰領域。
その中央に展開された巨大なビニールプールは、今や完全に『もふもふ統合軍の専用リゾート』と化していた。
ちゃぷん、ちゃぷん……。
透き通った冷たい井戸水の上に、浮き輪などの補助具を一切使わず、アヒルのオモチャのようにプカプカと浮かぶ純白の毛玉が一つ。
言わずと知れた我が家の神獣、シロである。
「キュンッ! キュンッ!」
「コンコンッ!」
その周囲では、すっかり水遊びの楽しさに目覚めたキタキツネの兄弟、コン吉とコン次郎が、短い足で器用に犬かきをして泳ぎ回っている。
シロが放つ『冷感マイナスイオン波動』が水を通して増幅され、プールサイドはまるで高級ホテルの避暑地のような極上の涼しさに包まれていた。
「あははっ! コン吉くん、お水かけないでー!」
麦わら帽子を被った小春ちゃんが、縁側に座って足を水に浸しながら、楽しそうに笑っている。
その少し離れた日陰では、大きすぎてプールに入れないヒグマが、羨ましそうに「くま〜……」と鳴きながら見学していた。
ジンバルに固定された俺の愛機、iPhone miniの画面では、一千万人の視聴者たちがこの平和すぎる『プール開き』の光景に熱狂していた。
『尊い……尊すぎる……』
『シロ様の水上ホバリング、今日も絶好調だなww』
『キツネが水泳得意なの初めて知ったわ』
『この配信見てるだけで、クーラーの設定温度を2度上げられるレベルで涼しい』
俺はプールサイドの特等席(自作の竹製サマーベッド)に寝転がりながら、氷を浮かべた冷たいほうじ茶を啜っていた。
陸上自衛隊『需品科』で培った陣地構築スキルが、これほどまでに平和な形で役立つ日が来るとは。
ブラック企業で、真夏の炎天下にスーツ姿で外回りをさせられ、アスファルトの照り返しで視界が歪んでいたあの地獄の日々が、まるで前世の記憶のように遠く感じられる。
「……最高のスローライフだな」
俺がしみじみと呟いた、その時だった。
『ブォォォォン……ッ!』
限界集落の静寂を切り裂き、我が古民家の庭先に、一台の真っ黒な大型バンが滑り込んできた。
「ん? 宅配便のトラックじゃないな……?」
車から降りてきたのは、黒いスーツとサングラスに身を包んだ、どう見てもその筋のプロ(SP)と思われる外国人男性たちだった。
彼らは夏の乾いた土を踏みしめ、庭へと近づいてくる。
「ミスター・アキヤ! ドバイのボスから、至急の荷物をお届けに参りました!」
屈強なSPの男が二人掛かりで、尋常ではない重さの木箱を慎重に縁側へと運んできた。
「ドバイの……って、まさか」
画面の右端で、見慣れたアラビア文字のアカウントが、極彩色のギフトと共に降臨した。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト×10連発)=”Hahaha! It arrived! Master, I sent a little tool for Shiro’s pool!“(ハハハ! 届いたな! 主よ、シロのプール用に、ささやかな道具を送ったぞ!)』
「いや、ささやかって……これ、どう見ても大人二人でやっと持てる重さじゃないですか」
俺は嫌な予感しかしないまま、SPに促されて木箱の蓋を開けた。
パカッ。
「…………うわっ」
「きゃあっ!? まぶしっ!!」
木箱を開けた瞬間、夏の強烈な太陽光を反射して、暴力的なまでの『黄金の輝き』が俺と小春ちゃんの目を焼いた。
木箱の中に鎮座していたのは、複雑なパイプとポンプで構成された、見るからにハイテクな機械。
問題は、その機械を構成するすべてのパーツが、狂ったような光沢を放つ『24金(純金)』でコーティングされていたことだ。
同封されていたチタン製のプレートには、英語でこう刻まれていた。
『軍事・宇宙開発用 超精密浄水プラント(シロ様プール専用・特注純金モデル)』
「……石油王さん? なんですか、この国家予算みたいな浄水器は」
俺が極めてフラットな声で尋ねると、チャット欄が爆発した。
『純金製の浄水器wwwww』
『ささやかな道具(宇宙開発用プラント純金モデル)』
『石油王の金銭感覚が完全にバグってるww』
『プールより浄水器の方が一億倍高いだろwww』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Good move, Oil King. Pure gold has an excellent antibacterial effect!“(良い判断だ石油王。純金は優れた抗菌作用を持っているからな!)』
「お兄さん! これ絶対ヤバいやつですよ! うちの村の土地全部買えるくらい高いんじゃないですか!?」
小春ちゃんが頭を抱えてパニックになっている。
「落ち着け小春ちゃん。皆さまも、冷静になってください」
俺は、純金製の浄水プラントを眩しそうに見つめながら、元社畜特有の『一切の感情を排した限界言い訳タイム』を発動した。
「これはただの、少し黄ばんだステンレス製のろ過装置です。ドバイの強烈な日差しで日焼けしてしまったのでしょう。ええ、ただのフィルターです。ホームセンターで三千円くらいで売っているものと、根本的な構造は何ら変わりません。純金に見えるのは、十勝の夏の強い日差しによる光の乱反射(イリュージョン)ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、濡れた手で俺の背中に渾身のツッコミ・スマッシュを見舞った。
「イリュージョンで宇宙開発用プラントが生えてくるわけないでしょ!! さっきからSPの人たちが『傷つけたら俺たちの首が飛ぶ』って顔で青ざめてるじゃないですか!! ちゃんと石油王さんの厚意を認めて、お礼を言ってください!!」
『小春ちゃんの物理ツッコミ、夏も絶好調ww』
『黄ばんだステンレス(特注純金モデル)』
『光の乱反射(24金の輝き)』
『適応力バグおじさん、ついに純金の塊までただの日焼けと言い張るww』
一千万人の視聴者たちが腹を抱えて笑い転げる中、俺はため息をつきながら、需品科で鍛えた手付きで純金製のプラントをプールの端にセットした。
スイッチを入れると、無音(ステルス仕様)のまま凄まじい勢いでプールの水が循環し始めた。
もともと綺麗だった井戸水が、純金フィルターと軍事レベルのろ過システムを通ることで、まるでクリスタルのように透き通った『絶対純水』へと変貌していく。
さらに、絶妙な水流が発生し、ビニールプールがシロ専用の『流れるプール』へと進化した。
『ミャーウ♪(最高ね)』
水質と水流の違いに気づいたシロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を嬉しそうに細めて喉を鳴らしながら、黄金のプラントから流れ出る水に乗ってプカプカと回り始めた。
「……まぁ、シロが喜んでるなら、良いか」
俺は苦笑いしながら、再びサマーベッドに腰を下ろし、昼食の入ったタッパーを開けた。
今日のお昼は、冷水でキリッと締めた『冷やし玄米』と、大葉とみょうがをたっぷり乗せた『大豆ミートの冷しゃぶ風』だ。
「お兄さん、こんな金ピカの宇宙開発設備の前でも、ご飯は絶対玄米と大豆なんですね……」
「当然だ。俺のミニマリストとしてのストイックな食生活は、純金ごときで揺らぐことはない」
冷たい玄米のプチプチとした食感と、大豆ミートのさっぱりとした味わいを噛み締めながら、俺は目を細めた。
国家予算クラスの純金製プラントと、俺の手元にある一食数百円の素朴な玄米弁当。
世界一アンバランスで、世界一バグっている俺たちのスローライフは。
ギラギラと照りつける夏の太陽の下でも、相変わらず最高に涼しくて、平和なまま続いていくのだった。
コメント
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わあ、もう第103話なんですね!毎回、十勝の景色と動物たちの描写が鮮やかで、読んでるだけで涼しくなります🤍 石油王からの「ささやかな道具」が純金製の宇宙開発用浄水プラントって、笑っちゃいました!でもシロ様が気持ちよさそうに流れるプールを泳いでる姿を想像すると、なんだかほっこり。小春ちゃんのツッコミも絶好調で、お兄さんの「黄ばんだステンレス」理論には思わず声出して笑いました(笑) そして最後の玄米ご飯と純金プラントのギャップ…。そんなバランス感覚、好きです。次回も楽しみにしていますね🌷
#現代ドラマ
ゆうき あきや
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#心理描写重視