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「マリエッタ。キミはやっぱり、強いね」
ぎゅっと肩を抱いてくれたルキウスが、私に顔を向けにっこりと笑む。
「傍にいてくれて、ありがとう」
「ルキウス様……」
優しい慰めに、涙が途切れるのを感じた、その時。
「口惜しいです、マリエッタ様。貴方様の幸せは、私の隣だと信じておりますのに。いつかまた、お迎えに上がります。それまでしばらくは、お別れですね」
――さよなら。
ロザリーが呟くと同時に、彼女を覆う黒紫の魔力がぶわりと揺れ動いた。
刹那、歪んだ空間から次々と現れたのは。
「――紫焔獣っ!」
(本当に、ロザリーから――っ)
「ご安心ください、マリエッタ様。私の魔力から生まれた子たちですから。あなた様にだけは、けして危害を加えません」
「どうだろうね。キミがこうして紫焔獣をマリエッタの前で放ったのは、初めてでしょ? これらはキミの魔力を媒介としているだけで、キミじゃない。破壊本能に支配された、獣だよ」
マリエッタ、と。
ルキウスは私を庇うようにして背後に隠すと、
「お願いしたいのだけれど、他の隊員を呼んできてもらえるかな。かっこ悪い話なのだけれど、今の僕じゃ、紫焔獣を相手するので手一杯だと思うんだよね。彼女を、逃がしてしまう」
「! ルキウス様、またお怪我を――」
金の瞳がちらりと私を振り返り、
「――行って、マリエッタ」
「~~~~! 必ずや、耐えてくださいませ!」
ロザリーへの未練を断ち切り、背を向けた私は駆け出した。
ルキウスが心配でたまらないけれど、今、私がここに残ったところで出来ることはない。
ならば、唯一役に立てるのは。ルキウスの信頼に応えられるよう、一秒でも早く、誰かを見つけてくること。
ドレスの裾を持てるだけ持って、なりふり構わず走る。
後方では紫焔獣の咆哮と、雷鳴を纏った斬撃音が戦闘の激しさを物語っている。
(お願い、誰か近くにいて……!)
祈りながら回廊を駆け、周囲を見渡した、次の瞬間。
「お嬢様、いかがなされましたか!?」
「!」
(騎士団の隊服だわ……!)
本当ならジュニーや、顔見知りの誰かだったらよかったのだけれど。
今は一刻を争う事態。贅沢なことは言っていられない……!
「紫焔獣が、”人柱”もそこに……! お願いします、彼を……ルキウス様をお助けください……っ!」
「紫焔獣と”人柱”に、ルキウス様だって?」
ぜえはあと告げた単語から、事態を悟ってくれたのだろう。
彼はさっと表情を引き締め、
「その方たちはどちらに」
「この先の、白薔薇の庭園です……っ」
「白薔薇の庭園、ですか」
繰り返した声の硬さに、私ははっと気が付いた。
そうだった。あそこは他の人にとっては嫌忌する場。
とっさに「私が一緒にお連れしますわ……!」と叫ぶと、彼は驚いたようにして目を丸めたものの、決意を固めた様相で頷き、
「ご同行、お願いします」
「はい!」
(彼を連れていってから、もう一度人を探しに来なきゃ)
ルキウスがああして頼むくらいだもの。よほど身体が辛いに違いない。
ひとまず今は彼一人でも連れていくのが得策だろうと、私は来た道を彼と共に駆けていく。
「――ここですわ!」
再び戻った庭園では、ルキウスが紫焔獣と応戦している。
ロザリーは、まだそこにいた。
私はぐっと奥歯を噛みしめ、
「……彼女が、”人柱”ですの」
驚愕に絶句する彼が、このまま恐怖にのまれてしまわないよう。
私は強張る頬を必死に見上げ、
「ルキウス様は、身体がお辛いとのことでした。お願い致します。一刻も早くルキウス様の援護と”人柱”の確保を……! 私はもう一度、他の隊員の方を探してまいりますわ……!」
ぺこりと簡易的に頭を下げ、彼に背を向けた刹那。
「おっと、行かせないぜ」
「なっ!?」
強い力で手首が掴まれ、背後から首を抑えるようにして身体が拘束されてしまう。
「なにを……!」
「まだ”人柱”に気づいてねえようなら見逃してやれたのにな。まあ、大人しくしてくれてりゃ、痛いことはしないぜ。オレは紳士なんだ」
「あなた、いったい……っ!」
「マリエッタ!!」
私達に気づいたルキウスが、血相を変えてこちらへ向かってこようとした。
けれど、
「アンタはそっちだろ」
男の声に合わせ、新たに湧き出た数体の紫焔獣。
――まさか。
「あなたも”人柱”ですのね……!」
「ご名答。にしても悲鳴をあげるよりも睨みつけてくるなんて、気丈なお嬢サマだな」
ぶわりと彼の周囲に現れる、黒紫の魔力。
時をほぼ同じくして、紫焔獣がルキウスを襲う。
「ルキウス様!」
「――ノックス!」
声は、ロザリーのものだった。
酷く驚き焦った様子で、
「マリエッタ様をお放しして……!」
「やっぱりな。コイツが”マリエッタ様”だったか」
「早く!」
「あんなあ、ロザリー。だーい好きなマリエッタ様がこんな目にあってるのも、お前がちゃーんと計画をこなさないからだかんな?」
ぐっと首に回る腕に力を込められ、思わず呻くような声が漏れる。
ロザリーはますます顔色を悪くして、
「私は、ちゃんと計画通りに……!」
「出来てねえだろ。ったく、見事エストランテ様に輝いたお前の努力に敬意を表して、仕方なく王のいねえ今日にしてやったのによ。標的のアベル王子はピンピンしてやがるじゃねえか。今回の襲撃ではクソ王の大事なモンを叩き壊して、同じ屈辱を味合わせてやる予定だったろ」