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それは突如としてやってきた。
伊吹丸が新時代を切り拓こうとしていたその瞬間、地響きが大地を揺るがした。海沿いの町々が、一瞬にして飲み込まれるかのような巨大な揺れ。それはかつての平和な倭の領土を恐怖に陥れる、未曾有の災害の始まりであった。
日本の南東に広がる巨大な海底の溝は、長年眠り続けていた。しかし、その日は違った。地殻が突き動かされ、何千年もの間蓄えられてきたエネルギーが一気に解放されたのだ。
「大地が割れる…これは自然の怒りか、それとも…」
伊吹丸は揺れの中で立ち尽くし、無言で空を見上げた。神であるマドレシスの警告を思い出す。しかし、これは神の試練ではない。大地の怒りだ。町は次々と崩壊し、人々は逃げ惑いながら命を守るために走り回っていた。
「伊吹丸様!」
側近たちが叫びながら彼に駆け寄ってきた。
「津波が来る。早く高台へ避難を!」
しかし伊吹丸は、ただ冷静に海の方を見つめていた。
「津波か…この地震がこれだけの力を持つならば、海が牙をむくのも時間の問題だろう。」
津波は、まるで巨大な壁のように近づいてきた。そのスピードと規模は、人々がどう抗おうとも止められるものではない。だが、伊吹丸には、ただ見過ごすという選択肢はなかった。
「無の力で、すべてを消し去るか…」
彼の手が柄に触れられた瞬間、空気が変わる。異能「無」を発動させれば、津波を打ち消すこともできるはず。しかし、自然の力に介入することが正しいのか、彼は迷っていた。これは神の試練ではなく、大自然の力だ。人間として、その力に逆らうことは許されるのか?
一瞬の迷いが彼を制止した。
津波が迫る。海沿いの町が次々と飲み込まれていく。人々の悲鳴が響き渡る中、伊吹丸はただ見守ることしかできなかった。彼が選んだのは、人間としての弱さを受け入れることだった。
「これもまた、試練の一部か…」
彼は刀を引き、決して自然に逆らうことはなかった。異能の力でどれほど強大でも、自然の摂理に逆らうことはできない。そう悟った伊吹丸は、この巨大災害に対して何もせず、ただその過程を見届けることを選んだ。
大津波が通り過ぎた後、町は瓦礫と化し、数えきれないほどの命が奪われた。相模トラフの巨大地震は、倭の国土を再び自然の脅威に晒した。伊吹丸はその現実を冷静に受け入れながらも、深く胸に何かを刻んでいた。
「人間が自然を支配することはできない。しかし、私はこれを乗り越える。新たな世を築くために。」
災害の後、彼の目には新たな決意が宿っていた。この試練を乗り越えた倭は、かつてないほど強くなり、新しい未来へと進むだろう。そして、その未来を導くのは、依然として伊吹丸だった。