テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ドアマットヒロイン
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私は運がいい。
長女だったら、早々に両親に自分の有能さを披露しなければ見限られる。次女は姉を基準にするので、姉以下の才能しかないと扱いは雑になった。何よりロゼッタ姉さんは、昔から主張しない目立たない子だった。
身だしなみも最低限でも、外に出ずに引きこもっている。それをスザンヌ姉さんが慮って庇っているという感じだった。「裏方の仕事はできるから家に置いている」そう両親から聞いていたし、仲良くしたいとも思わなかった。ただ自分の面倒事を引き受ける便利な姉。
フォビオと再会するまでは、そう思っていた。
スザンヌ姉さんが「フォビオって格好良くなったのよ」と言っていたから、会ってみたのだ。それは本当だった。茶髪と鳶色の瞳、騎士として背格好もすらっとしていて、昔あったときよりも数十倍かっこよくなっていたわ。
フォビオも幼かった私がこんなに美しくなっているとは思っていなかったようで、私を見て顔を真っ赤にしていた。たいていの男の人は私がちょっと微笑むだけで、簡単に頬が赤くなるの。そして自分の恋人や婚約者よりもずっと甘やかして、大切にしてくれる。
でもフォビオと出会ってからは、フォビオだけと会うようになった。他の男の人たちが後を付けて、迫ってきた時もフォビオが何とかしてくれたの。かっこよくて素敵だったわ。
それに彼は男爵家の子息だから、何かと幅を利かせてくれて凄く頼りになる。ロゼッタ姉さんよりも、私と一緒のほうが楽しいって言ってくれて「一緒になろう」って約束した。ああ、最高だわ。
両親にも泣いて相談したら喜んでくれた。スザンヌ姉さんも「良かったね」って祝福してくれて、きっとロゼッタ姉さんも今まで通り許してくれる。
そう思っていたのに、あの日に姉さんは変わった。
***
雰囲気が変わったし、お父さんやお母さんが何を言っても反論してきた。ロゼッタ姉さんが可笑しくなったと思っていたけれど、両親は青ざめた顔をしていたし、スザンヌ姉さんもイライラして、今までの家族仲良くしてきたはずなのに、亀裂が入って何もかも上手くいかなくなった。
「え? お父さんとお母さん、スザンヌ姉さんまで捕まった?」
その日、フォビオとのデートを終えて家に戻ったら、大事になっていた。騎士団の人たちが家の中を調べていて、私は使用人たちと一緒に騎士団の詰め所で事情聴取となった。
フォビオは騎士団の詰め所まで同行してくれたけれど、そのまま帰ってしまって本当に最悪。私と結婚するって決まっているのに、どうして今までのように守ってくれないの?
酷いわ。帰りは他の騎士の人に送って貰おう。そう思っていたのに、私は一度も家に帰して貰えず、両親と姉のしでかしたことを聞き、家も土地も事業も没収された後だと聞かされた。
「そんな困ります! これからどうやって生きていけば……!」
「先ほど一緒に連れ添ってきた元姉の婚約者に助けて貰えば良いんじゃないか?」
「ひゅっ」
どうしてそれを知っているの?
周囲の視線が刺々しい。今まではか弱くて咳をしていれば心配してくれる人が多かったのに、今では「ああ、あれで庇護欲を演出しているのか」とか「あー、今のが。演技か女って怖いな」とか酷いことを言ってくる。
居心地が悪くて急いで男爵家の家に向かった。フォビオなら私を屋敷に置いてくれる。そうして暫くしてから、二人で住む家を探そう。そうする予定だったのに、屋敷の門の前で私は執事に追い返される。
「申し訳ございませんが、ロゼッタ様と婚約が破棄された時に、男爵家とそちらの家との繋がりは断たせて頂いております。またフォビオ様もロゼッタ様に不義を働いたとして絶縁して屋敷には戻っておりません」
「そ、そんな!? じゃあ彼はどこに!?」
「職場の寮ではないかと。どちらにしてもすでに男爵家とは関わりがありませんので」
そう言って屋敷に通すこともなく追い返された。フォビオの勤める職場に行ったけれど、フォビオは既に退職したという。何でも元婚約者に謝罪をして縒りを戻すとか。
それってロゼッタ姉さんの元に行ったってこと?
なにそれ?
なにそれ、あり得ない。
「そうだ。そうよ、私は罪を犯していないんだもの。ロゼッタ姉さんに頼れば良かったのよ!」
今、ロゼッタ姉さんは王城で静養しているという。どうせ治療棟で休んでいるのだから、名前を出せば会えるわ。両親もスザンヌ姉さんも捕まったけれど、私はなにも悪いことしてないもの。姉さんだって家族が私だけになるのだから、きっと大事にしてくれるわ。
そう思って王城に向かった。姉が治療棟で休ませて貰っているから、と。でもちっとも中に入れてくれない。しょうがないから咳が出て苦しい演技をした。そしたら緊急処置とかで、あっさりと治療棟に入れて貰えた。
やっぱり便利よね。
「え?」
治療棟に姉は居なかった。けれど治療棟に向かう途中で貴族令嬢とすれ違った。くすんだコーラル・レッドの長い髪に、艶のある肌、飾りは少ないけれど上質なドレスを着ていた女性。それがロゼッタ姉さんだということに最初は気付かなかった。
傍に居る騎士服の女性と親しげに話をしている。凜として明るく笑っている姉を初めて見た。
「あの……あの方は?」
「ああ、つい最近シュプゼーレ聖魔法国の侯爵令嬢の養子になり、隣国の第五王子と婚約された方だ。長年家族に虐待されながらも魔導具技師としての腕を磨き、魔導具にSOSを残し、隣国の第五王子がその暗号に気付いて助け出したらしい。物語のような展開に王城でももっぱらの噂になっている」
「え、あ」
知らない。
どうして姉が貴族になっているの?
しかも王族と婚約? なにそれ? なにそれ??
ずるい。私にだって幸せを半分ぐらいよこしてよ!?
ふらつきながらもロゼッタ姉さんに向かって歩き出し、走り出そうとした時に後ろにいた誰かに殴られて──目を覚ましたら馬車の中にいた。
「──っ」
「目が覚めたか?」
「……ここは?」
ガタゴトと揺れる馬車の中で、私の前に座っている男は全身黒いマントを羽織ってフードを被っていた。
「誘拐!? 人攫い!」
「お前は北の修道院に送る。それが嫌なら娼婦に落ちるしかないが──どうする?」
「ど、どうして。私がこんな目に! 私が何をしたって言うの?」
「ロゼッタ嬢の婚約者を奪っただろう」
「──っ!?」
「人の物に手を出して、奪って、その相手に寄生しようなんて考える身内は出られない場所に入れておくのが良いに決まっている」
ふと男の顔が見えた。黒髪で、異国の人間らしい。整った顔立ちは悪くない。そう思ったのに、次の瞬間、眼前の男の人は消えた。
残された私は馬車から降りることも出来ず、黒い森と深い霧の中を突き進むのを震えながら耐えるしかなかった。
どこで間違えたの?
それを教えてくれる人は誰もいなかった。