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揺らめく灯火の向こう
開かれた扉の先に立っていたのは、かつて俺と背中を合わせ、死線を幾度も越えたはずの男――拓海だった。
「……拓海…っ?いや、な、なんでお前が……お前はあの雨の日…死んだはずじゃ……」
俺の指先が、言葉にならない戦慄で凍りつく。
山城も隣で息を呑み、血の気の引いた顔でその男を見つめていた。
「『拓海』という男は、あの日死んだよ、和貴。君の心の中に、消えない復讐の灯を灯すためにね」
拓海――いや、その顔をした男は、温かな微笑みなど微塵も感じさせない
冷徹な仮面のような表情で一歩踏み出した。
「すべては『黒い百合』が描いた、君を真の後継者へと育てるためのシナリオだ」
「大河内という巨大な壁をぶつけ、神崎という知性を超えさせ、阿久津という暴力を捩じ伏せさせる……。君の血を、極限まで純化させるための工程だったのさ」
「……ふざけるな。拓海の偽物が……!」
俺は叫び、腰の脇差を抜き放った。
だが、突き出した刃は、拓海の超人的な体捌きによって、虚空を突いた。
「…榊原組長はすべてを知っていたよ。彼が組織を裏切ったのも、君をこの『深淵』に導くための壮大な撒き餌だった」
「君が今手にしているそのドス、その技術……すべては組織から与えられたものだ。和貴、君は一度も『自由』だったことなんてないんだよ」
拓海が指を鳴らすと、回廊の壁がスライドし、数枚の監視映像が映し出された。
そこには、志摩が拘束され、冷たい水の中に沈められようとしている姿があった。
「……志摩さん!」
山城が叫ぶ。
「彼を救いたければ、和貴。その脇差で、私の隣に座る山城君を斬れ。それが、君が『黒い百合』の王座に就くための、最後の儀式だ」
静寂が、冷たい毒のように肺に染み渡る。
信頼した友の裏切り、死んだはずの相棒の再会
そして、仲間を贄に捧げろという理不尽な選択。
「……兄貴…いいですよ。俺の命で志摩さんが助かるなら……命を預けます」
山城が静かに目を閉じ、首を差し出した。
俺は脇差を握る掌を、血が滲むほど強く締め付けた。
目の前で嘲笑う亡霊と、自分を殺せと言う弟分。
新宿の空よりも暗い、絶望の深淵だった。