ものが無くなる

事態はそれだけで終わらず、撮影の小道具で、渡辺の使ったものが無くなるという事が起こった。撮影が順調に行ってるからこそ、不思議だ。

渡辺の使ったもの。

限りなくある。

小道具係がいちいち確認出来ない。

だが気がつくと無いのだ。

撮影チームは皆んな顔を知ってる。

知らない人間が入って来たらすぐ分かる。

出演者じゃなくてスタッフの可能性の方が高い。

監督は、皆んな知ってる顔だと言う。

それでも撮影が順調に行ってるなら、気にしないでいようと思っている。

ある時、紙コップを捨てようとしたら、スタッフの女の子が、私が捨てて来ますと言って渡辺の使った紙コップを持ってスタジオを出て行った。

スタジオを出て行かなくても、隅にゴミ箱がある。

渡辺はちょっと引っかかる。

その女の子が戻ってくる前に、渡辺の撮影が始まってしまった。

顔をよく見ようと思っていたが叶わなかった。

渡辺ーってことがあって。

目黒ーその子が怪しいね。

渡辺ーでも、監督は、皆んな知ってる顔だって。

目黒ースタッフだって、翔太くんのファンになる人いるかもしれないし。

渡辺ーあの子が？

目黒ー気をつけて。

渡辺ーう、うん。

気を付けていても、物は減っていく。

A4のコピー用紙に「何で俺のもの、持って行くの？」と書きクシャと丸めた。

足元のゴミ箱に捨てた。

次のシーンは別の場所に移動。

渡辺は、1番後から移動した。

その子が、ゴミ箱に手を入れて渡辺が捨てた紙を取り出す。

渡辺は、その場に立ち、見ていた。

紙を広げて文字を読む。

驚いた顔をして周りを見渡し、渡辺と目が合った。

紙を握りしめ、その場を走り去る。

渡辺のマネージャーが後を追いかけて行く。

女子ロッカーに入ったのでマネージャーは入れない。

彼女の写真は撮った。

監督に見せると、今回新しくスタッフになった人らしい。

明らかに渡辺狙いだろう。

彼女は次の日から出て来なかった。

きっと、もう戻って来ないだろう。

渡辺のものをどうするのか分からないが、嫌な気持ちだけ残った。

渡辺ーもう来ないと思う。

目黒ーバレちゃったら来ないだろうね。

渡辺ー監督はぼやいてるけど仕方ないよね。

目黒ー残念だけど仕方ないね。

渡辺ー俺のものどうするんだろ？

目黒ー飾って眺めてるかもよ？

渡辺ー気持ち悪い事言うな。

目黒ー分かんないじゃん、ネットに出回ってないなら、売る気はなさそうだし、大事に持ってるんじゃない？

渡辺ーわ〜やだやだ。

目黒ーモテる男は辛いね〜。

渡辺ーお前に言われると腹立つ。殴っていいか？

目黒ーあっ、ここにも治安の悪いやつがいた。

渡辺ーバカ。