テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ただいまー……」
渡辺は真っ暗な玄関でつぶやくように言った。一人暮らしのため、その声に応える者はいない。しかし渡辺は毎日、「ただいま」を言う。
部屋の奥の、ある人に向かって。
三畳ほどの、小さな部屋。
渡辺はそっとドアノブを回す。
飛び込んできたのは──異様な空間だった。
壁一面には宮舘の写真。雑誌の切り抜きから、明らかに盗撮したであろうものまで、互いが互いを覆い尽くすように貼られている。本棚には宮舘の記事が掲載された雑誌や、「宮舘涼太 笑顔の写真集」「宮舘涼太 ステージでの写真集」など、細かくジャンル分けされたファイルが詰められている。
大小さまざまな宮舘のチルぬい、宮舘が使用した櫛や歯ブラシといったアメニティ、アイスの棒、番組で来た衣装……。
その空間は、宮舘涼太一色であった。
渡辺は、部屋の中央に位置しているパソコンに目を向ける。
そこには、宮舘の自宅での様子が映し出されていた。ソファに座り、テレビを見ている。
渡辺はイヤホンをつける。テレビの音に混じって、宮舘の笑い声が聞こえてくる。
「俺の出た番組見てくれてる……。嬉しいな……」
しばらくそうしていると、笑い声は止み、代わりに寝息が聞こえるようになった。
「あれ、涼太寝ちゃったかな?」
ゴロンと横になった宮舘は、穏やかな寝顔をディスプレイに映している。
「……涼太」
「舘様」と呼ばれる、余裕があり隙のない普段の姿からは想像もつかない無防備な姿。興奮で息が荒くなるのがわかる。
「可愛いっ。可愛いよ、涼太……」
手頃なチルぬい引き寄せ、キツくキツく抱きしめる。そして、宮舘が愛用している香水をまく。
宮舘の匂いに包まれて、頭がくらくらした。まるで宮舘に抱きしめられているような心地だった。薄暗い部屋に、渡辺の熱い吐息が広がっていく。
「涼太、だいすき……」
渡辺は異様に発光した目で、穴が開きそうなほど、画面内の宮舘を見つめる。
この部屋は、狂った愛に満ちていた。