僕は一目惚れした。だが彼女は僕を嫌う。
僕は彼女に夢中になっていた。恋は盲目であると誰かは言うが、今の僕は断じて盲目ではない。…と思う。実際はどうなのだろうか。「これが盲目である」なんて、そんなことを突然言われても、とうの本人である僕が認識出来る訳がないし、そもそもそんなものは知らない。
何故ならこれは僕の本能的な…そして今までになく正直な気持ちだからだ。
学校からの帰り道、僕は彼女の後ろを追っていた。身長は僕よりもずっと小柄で、153cmだったか。彼女をこうして見下ろせるのにはどうも興奮する。友達との会話でよく自身の身長を笑い話にし、嫌っているようなことを言っていたっけか。あの”作り”笑顔でさえ僕には向けてくれない。でも、僕は”僕の前での君”が居ることに、少しばかり嬉しさを感じている。きっとその君は、”本当の君”なんじゃないだろうか…と。
「ついて来るなよ」
彼女は少し息を切らしながら僕に呟いた。僕があまりにくっついて来るからか、逃げるように早足で歩かれていた。
「君がまた飛び降りようとするかもしれないだろ…」
心配だ…。もしどこかでふらりと死なれでもしたら僕はどこへ行けばいい?彼女をずっと視界に収めていないと気がすまない程に僕も彼女も重篤だった。
「誰のせいだと思ってんだ」
死ねと言わんばかりの含みをもった瞳を僕に向けている。きっとそれは君の…自身の”生”を嫌う彼女の姿だ。
「いいよ。なんでも僕のせいにしてくれていい…だから…お願いだから、死なないでくれ。」
彼女は足を止め、こちらを振り向いた。
「じゃあ面白いことしてよ。例えば私を殺すとか。」
「ぶっそうなこと言わないでよ…」
その瞳は鋭く、そして柔らかく…何処か悲しげであった。
「冗談だと思うか?…はははっ…今日はいい天気だね。」
秋を感じる冷たい風が、肌を強く撫で、夕日は辺りを包み込む。影は輪郭を写し出し、僕がここに存在するのを教えてくれる。
彼女は伏し目がちに風に煽られていた。
コメント
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凄く物語好きです。