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## 第31話:『深紅の執着、泥濘の刃』
岩壁に激突したプロト・ウイングエックスの火花が、夜の闇を赤く染めた。衝撃で視界が揺れ、ゼロの耳にはキーンという不快な耳鳴りが居座り続けている。
「ミラと同じ顔……? ふざけんな、あいつは……あいつはミラじゃねえ!」
ゼロは吐き捨てるように叫び、無理やり機体を立て直そうとする。しかし、脳内に流れ込むゼロ・システムの情報の奔流は、敵のパイロットが「ミラに酷似している」という事実を突きつけ、計算を狂わせていた。予測される「勝利へのルート」が、ミラの顔がモニターに映るたびに霧散し、代わりにノイズと悪寒がゼロを襲う。
その混乱を見透かしたかのように、ガンダム・ノワールレイスが宙を舞った。漆黒の機体は岩礁の影から影へと音もなく移動し、そのたびに血のような紅いセンサーの残光が闇を切り裂く。
『――そう、私はミラじゃない。私は彼女が捨てていった「絶望」そのもの』
ノアの声が直接脳に響く。それはミラのような清らかさを持たず、凍てつくような冷たさを孕んでいた。ノワールレイスが再び鎌を振り下ろす。ゼロは咄嗟にバスターソードで受け流すが、パワー負けした機体が大きく体勢を崩した。
「ぐわっ……! クソ、ミラがいねえと、こんなに機体が重えのかよ!」
そこへ、カイルのバスターヴァイスが割り込む。
「ゼロ、後ろに下がれ! 動揺するなと言っても無理だろうが、今の貴様では足手まといだ!」
ハイパー・ギガ・キャノンが轟音を立ててノワールレイスを狙うが、ノアは嘲笑うかのような機動で弾道を回避する。
『重火力……でも、遅すぎる。亀の甲羅で何が守れるというの?』
ノワールレイスは瞬時にバスターヴァイスの懐に飛び込み、鎌の石突でカイルの右腕部を強打した。重装甲を誇るバスターヴァイスの機体が、重々しく傾ぐ。
「カイル! ……ちっ、光学迷彩、出力最大! 逃がさねえぞ、偽物!」
ジュードのシャドウエッジが闇に溶け込み、至近距離から実体剣を繰り出した。しかし、ノアは機体を見ることなく、感応波だけでその位置を正確に捉えていた。
『見えているわ。あなたの心臓の鼓動まで』
ノワールレイスが背部のスラスターを逆噴射させ、シャドウエッジの腹部を蹴り飛ばす。空中で姿勢を崩したジュードの機体に、追撃のビームが容赦なく降り注ぐ。
「ジュード!!」
セレスの叫びが響く。ヴィヴァーチェが二振りのビーム・レイピアを振るい、ジュードを狙うビームを弾き飛ばした。
「あんたの相手は私よ! ミラと同じツラして、勝手なことばっかり言わないで!」
セレスの猛攻。ヴィヴァーチェの高速機動はノワールレイスを辛うじて捉えていたが、ノアの反応速度はそれをも凌駕し始めていた。レイピアと鎌が激突し、火花が夜空に散る。
「……っ、この子(ヴィヴァーチェ)の出力が負けてる!? 嘘でしょ、これ以上スピードを上げたら……!」
セレスの額に汗が流れる。機体の限界と、ノアという存在の異質さ。そして何より、仲間たちが次々と窮地に追い込まれていく焦りが、彼女を締め付けていた。
戦況は最悪だった。
カイルの機体は右腕の関節を損傷し、ジュードはセンサー系にダメージを受け、ゼロはシステムに精神を蝕まれて身動きが取れずにいる。
その時、ゼストのブリッジでは、ミラがコンソールに手をかけ、必死にノイズと戦っていた。
「……ノア……やめて……。もう、壊さないで……!」
ミラの感応波が、戦場に漂う血の色のプレッシャーと激突する。その瞬間、戦場に異変が起きた。
ノワールレイスが突如動きを止め、頭部を抱えるように震え出したのだ。
『……あ……あぁ……っ! ミラ……そこにいるのね……。許さない……独りだけ、そんな温かい場所に……!』
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ノアの怨嗟が、戦場に物理的な衝撃波となって広がる。その凄まじい「負の感情」に押され、ガンダム4機が一時的に後退を余儀なくされた。
「……あいつ、化け物かよ……」
ゼロが震える手で操縦桿を握り直す。
だが、ノアの機動はさらに苛烈さを増し、狂気に身を任せた突撃を開始した。狙いは、最も疲弊し、動揺しているウイングエックス――ゼロのコクピットだ。
「ゼロ! 逃げなさい!!」
セレスが叫ぶ。彼女の目に映るのは、鎌を振り上げ、死神そのものとなってゼロへと迫るノワールレイスの姿。
間に合わない。カイルも、ジュードも、距離がありすぎる。
「クソッ……ここまでかよ……!」
ゼロが死を覚悟し、目を閉じたその時。
ヴィヴァーチェのコクピットの中で、セレスの心臓が激しく、そして熱く鳴り響いた。
「私の……私の家族を……これ以上、奪わせない!!」
セレスの瞳が、これまでにない鋭い輝きを放つ。
それは、絶望を焼き切るための覚悟の光だった。
**次回予告**
追い詰められたゼロに迫る、ノアの死神の鎌。
守るべき仲間たちが傷つき、セレスの魂が咆哮を上げる。
「私の家族に、手を出すなァァァ!!」
限界を超えたヴィヴァーチェが、マゼンタの閃光となって戦場を塗り替える。
旧大戦の遺産に隠された、真の加速の極致が今、発動する!
次回、『マゼンタの閃光、限界を超えて』
**「これが……ヴィヴァーチェの、本当の姿なのね……!」**
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