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## 第32話:『マゼンタの閃光、限界を超えて』
死神の鎌が、ゼロの視界を真っ二つに切り裂こうとしていた。
プロト・ウイングエックスのコクピットに響き渡るアラート音は、もはや悲鳴に近い。ゼロの脳内では、ゼロ・システムが提示する「死の結末」が幾重にも重なり、回避不能という残酷な現実を突きつけていた。
「終わりよ、パイロットさん。ミラの隣に、あなたは相応しくない」
ノアの冷徹な声が響く。漆黒の刃がゼロのコクピット・ハッチへと肉薄した、その瞬間だった。
「私の家族に、手を出すなァァァ!!」
戦場に轟いたのは、怒りと、そして慈愛が混ざり合ったセレスの咆哮だった。
マゼンタ色の機体、ヴィヴァーチェが、物理的な限界を超えた機動でノワールレイスの側面に突っ込んだ。二振りのビーム・レイピアが鎌の軌道を強引に逸らし、ゼロの命を繋ぎ止める。
「セレス!? 無茶だ、今のあいつの機動には……!」
ゼロの制止を振り切り、セレスは操縦桿を強く引き絞った。彼女の視界には、傷ついた仲間たちと、恐怖に震えるミラの姿が焼き付いていた。守りたい、その一心。かつて故郷で弟や妹を抱きしめた時の熱い感情が、ヴィヴァーチェの駆動系へと流れ込む。
その時、機体各部の装甲が僅かにスライドし、内部から眩いばかりのマゼンタ色の光が溢れ出した。
『――リミッター解除。特殊加速形態:オーバーブースト・アクセル、起動』
無機質な機械音声がセレスの耳に届く。それは、彼女がルカス軍からこの機体を奪取した際、どの記録にも記されていなかった隠された機能だった。
「……なによ、これ……。力が、止まらない……!」
ドォォォォン!!
ヴィヴァーチェが爆発的な加速を見せた。それは「移動」ではなく「転移」に近い。
ノアの紅い瞳が驚愕に染まる。彼女の予測を遥かに上回る速度で、ヴィヴァーチェが残像を残しながらノワールレイスの周囲を旋回し始めた。
『速い……!? まさか、この機体に並ぶ速度を出すなんて!』
「さっきのお返しよ、偽物!」
セレスは重力加速度(G)に押し潰されそうになりながらも、確かな殺意を持ってレイピアを振るった。シュン、という風切り音と共に、ノワールレイスの装甲が次々と切り裂かれていく。
一撃、二撃。
ノワールレイスが防戦一方に追い込まれる。ノアは鎌を振り回して対抗しようとするが、ヴィヴァーチェが放つマゼンタの閃光は、すでに彼女の反射速度の限界を越えていた。
「行け、セレス! そいつを叩き落とせ!」
ジュードがセンサーの不調を堪えながら叫ぶ。カイルも、ヴィヴァーチェが作り出した隙を逃さず、バスターヴァイスの残された火力を援護に回した。
「……ミラと同じ顔で、泣くような声を出すんじゃないわよ!」
セレスの一撃が、ノワールレイスの左肩を直撃した。爆炎が上がり、漆黒の死神が初めてその姿勢を大きく崩す。
「勝てる……これなら!!」
ゼロが立ち上がり、ウイングエックスを前進させようとした。
しかし、勝利への希望が芽生えたその瞬間、セレスの体に異変が起きた。
「がはっ……!? あ、あぁ……っ!」
オーバーブースト・アクセルの代償。あまりに過酷な加速は、セレスの肉体に凄まじい負荷を強いていた。口から血が滴り、視界が急速に狭まっていく。
ヴィヴァーチェの発光が、不規則に明滅し始めた。
『……ふふ。……そう。あなたは、私と同じ。自分の命を燃やして、戦うことしかできない機械』
窮地を脱したノアが、冷酷な笑みを取り戻す。彼女は傷ついた肩を無視し、ノワールレイスのサイコ・インターフェースを最大出力へと引き上げた。
『でも、残念。限界が来たようね。……さよなら、偽物の「お姉ちゃん」』
ノワールレイスの大鎌が、失速したヴィヴァーチェに向かって振り上げられる。
「セレス!!」
ゼロの絶叫が夜空に響く。
だが、その刃が届く直前、戦場全体を包み込むような、澄み切った「歌」のような感応波が吹き抜けた。
『――もう……やめて。ノア。……私は、ここにいるから……』
ゼストのブリッジで、ミラがその小さな手で虚空を掴んでいた。
彼女の覚悟が、戦場のすべてのニュータイプ能力者の意識を強制的に接続する。
マゼンタの閃光と、漆黒の影。
二つのガンダムが交差した瞬間、物語は対話という名の、さらなる深い闇へと引きずり込まれていく。
**次回予告**
セレスが命を懸けて切り開いた、一筋の活路。
しかし、暴走するノアの怨嗟は、ゼストそのものを破壊せんと膨れ上がる。
「……私の、鏡。……もう一人の、私」
ついにミラが、自らの足で格納庫へと向かう。
二人の少女の魂が触れ合う時、サテライトシステムの真実が暴かれる!
次回、『闇に沈む月』
**「お願い、ゼロ……私を、彼女の元へ連れて行って!!」**
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