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「『仕事が楽しいから』と言って断り続け『自分でいい人を見つける』とも言った。けど、正直あまりいい縁がなくて、積極的に女性と関わりたくないと思っていた。……こう言うと自慢のように聞こえるが、女性に好かれやすいんだ。でも彼女たちは僕の家や会社、外見や金や、持っている車とか……そういうものしか見ていない」


彼は悲しげに言い、溜め息をつく。


「それでも独り身は寂しいし、……言いづらいけど、性欲もあった。誰かと付き合いたいという願望はあるけど、立場上、軽率な行動はできない。合コンは気が進まないし、どこに行けば、本当に自分を想ってくれる女性と付き合えるか、まったく分からなかった」


すべてを兼ね揃えた男性の悩みを聞き、私は溜め息をついた。


セレブは何にも困らないと思っていたけど、贅沢な悩みを持ってるんだなぁ。


仕事にもお金にも困っていなかったら、やっぱり愛を求めるんだろう。


でも〝本物〟しか欲しくない。


「でもエミリが入社してすぐ彼女に惹かれた。彼女も僕を気にしてくれて、そうなるのが決まっていたように交際し始めた。彼女とは価値観も何もかもすべてが合い、エミリ以上の女性はいないと思っている。だから絶対に結婚したいんだ」


「そこまで思えるの、素敵ですね。憧れちゃう」


私がそう言うと、尊さんがゆーっくりこちらを向いて、ジーッと見つめてきた。


妬くなよ。


いつも言われている事を言ってやりたいけど、今は駄目だ。


視線も合わせないぞ。


私が頑なな態度を取っていると、尊さんは小さく舌打ちして前を向いた。


……あとが恐いな。


「母はずっと、尊の母親に嫉妬し続けているのだと思う。尊が篠宮家に来てから、母の様子はどんどんおかしくなっていった。もともと高慢なところはあったが、誰かに理不尽な事を強いる人ではなかったと思う」


風磨さんが言ったあと、前菜が運ばれてきたので、私たちは食事を始めた。


「俺がこうやって母を庇えば、尊は何も言えなくなるな。……すまない」


「いいよ。婚外子がいると知れば怒り狂って当然だろう。確かに俺はあの人に母親らしい態度をとられた事はない。でも衣食住に困らなかったし、いい大学にも行けたし、環境には恵まれていたと思うよ」


尊さんはいつもと変わらない落ち着いた態度で答える。


「俺が篠宮ホールディングスで大人しくしているのは、他の会社に入ってもあの人の影響でパワハラに遭うと思ったからだ。外で余計なストレスを感じるぐらいなら、あの人の目が届くところで従順にやってたほうが楽だろ」


……それは聞いてなかった。


すると前菜を食べ終えたエミリさんが、ナプキンで口元を拭ってから言った。


「確かにお母様は他社の社長夫人とも仲がいいですし〝一言〟付け加えるぐらい造作もないでしょう。言葉を選ばず言ってしまえば尊さんは婚外子ですから、世のご夫人たちの印象は良くない上、少し言い方を変えれば、悪の権化にも仕立て上げられます」


「あぁ……」


あまりに厳しすぎる現実を知り、私はうめいてから言った。


「仮に尊さんの事を『とんだ問題児でお金にも女にも汚い』と言えば、他の奥様たちは疑いようもないって事ですよね? 篠宮家の事情を一番聞きやすいのは怜香さん。社長はご自身の女性関係が起因しているから何も話せないし、風磨さんが本当の事を言おうとすれば『弟を庇っている』と思われる。尊さんに至っては本人なので確認できるはずもない」


「問題児……、金にも女にも……」


尊さんが私をジトォ……と睨むが、すまない。すみません。物の例えです。


エミリさんは溜め息をつき、頷いた。


「身も蓋もありませんがそうなりますね。篠宮家の外に出て、針のむしろになるぐらいなら、自社にいたほうがまだマシです。起業しようと思えばできるでしょうけれど、事業を大きくしていくには横の繋がりが必要になります。かといって、これだけの人が中小企業に収まるのは能力の無駄遣いですし」


「『資源の無駄遣い』みたいに言うなよ……」


尊さんがボソッと突っ込みを入れる。


……というか、エミリさんってニコニコ人当たりのいい女性と思いきや、案外言いたい事をハッキリ言うタイプみたいだ。


そう考えていたのを察したのか、風磨さんが遠い目をして言った。


「エミリはこう見えて、僕の尻をビシバシ叩くタイプだよ。仕事で甘やかしてくれた事は一度もない……。美人秘書だからって、皆好きな妄想をしているみたいだけど、〝そういう〟雰囲気にでもなろうものなら、手厳しい事を言われる上に、仕事のスケジュールをギュウギュウにされるからね……」


兄の言葉に、尊さんも同意した。


「本当にこいつ、怒らせたら怖いぞ。ニコニコ笑ったまま、『資源ゴミの日って何曜日でしたっけ。あ、口の悪い男は燃やせないゴミでしたね』って言うんだぞ」


ゴミは可哀想だな……。


「私はちゃんとリサイクルしてあげますよ」


「そうじゃない」


フォローしたつもりだったけれど、尊さんは脱力して溜め息をついた。

部長と私の秘め事

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