テラーノベル
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そんなこんなで夫婦の危機も回避して、順調に収録も進んでいたんだけど。途中機材トラブルで空き時間が出来た。
みんなが控室に戻ったり少し外に出ていく中、俺は使われてない小さめの楽屋を使わせて貰うことにした。
声優業の方でもう少し読み込んでおきたい台本があったのと、いつものように1人の空間を作る為に。
だって、今週は蓮に会うの今日が初めてだから。
まだ、今週は蓮にキスしてもらってない。
阿部ちゃんがちょっと呆れた顔してたけど、見なかった振りをする。
楽屋に入ってしばらく台本を読んで、この時の感情とか声の強弱とか、色んなパターンをシミュレーションする。
役を構築していくような、この時間は結構好きだ。
たまに蓮ともそんな話をする。
役者としての演技と声優としての演技は少し違うかもだけど、役に対する向き合い方は俺と蓮はよく似てるから。
仕事に対して真摯な蓮。そういうとこが好きだし、後輩ながら尊敬もしてる。
だからこそ、余計に分かんない。
仕事にも誰かに対しても真っ直ぐに向き合う蓮が、どうして隠れるように俺にキスをするのか。
俺は、蓮が好きだよ。
でも蓮の気持ちが分からない。だから、怖くて聞けない。
ぱたんと台本を閉じて机に置き、座っていたソファに寝転がった。そのまま目を閉じる。
こんな風に目も閉じて耳も塞いで、何も考えないようにしてるのは良くない。そんなの分かってる。
それでも蓮がくれるキスだけは現実だから、それが欲しくて待ってしまうのは仕方ないじゃん。
それだけは間違いないんだから。
かちゃり、と。控えめな音を立てて誰かが楽屋に入ってきた。
気配がゆっくりと近付いて、指先でそっと頬を撫でられる。
その感触だけで、それが蓮だって分かる。
蓮の指が俺の頬から顎にかけてゆっくり移動した後に、小さな囁きが溢された。
「…佐久間くん、起きないでね…」
いつもの懇願するような囁きと共に、そっと重ねられる唇。柔らかくて温かくて、でもちょっとかさついてるのが蓮っぽくて。
ほんの数秒で離れてしまうそれが惜しくて、でもねだることも出来ないから寝息に混ぜて小さく息を吐いた。
そこでふと気付く。
いつもならすぐに離れてしまう蓮の気配が、まだすぐ近くにある。
指の背で頬を何度も撫でられるのがくすぐったい。
疑問に思ったまま、それでも動かずにいると蓮の微かな囁きが聞こえてきた。
「…ごめんね、佐久間くん。今日で終わりにするから…これが最後だから、もう少しだけ…」
最後? 今、最後って言った??
軽くパニックになってる間に再び唇が奪われる。いつもよりほんの少しだけ深く探られて、思わず吐息が漏れてしまった。
蓮は気付かなかったのか何度も触れては離れ、最後に少しだけ唇に舌が触れる。
「…俺のものにならないのは分かってるから、せめて誰のものにもならないで欲しかったけど…そんなの、勝手だよね。ごめんね…幸せになって…」
そうしてちゅっと額にキスが落とされた。
何言ってるの? どういう意味?? 状況が掴めなくて頭はフル回転するけど、体は動かない。
いっそのこと胸倉掴んで『どういうつもりだよ』って言ってやればいいのは分かってるのに、臆病な自分がそれを引き留める。
だって勘違いだったらどうするの? って。
「もう触れないから…想うのだけは許してね」
そんな囁きを1つ残して、蓮の気配がゆっくりと遠ざかっていった。パタンとドアが閉じられた音がしたのに、目を開けることすら出来ない。
最後って何で? もう触れないってどういうこと?
もう俺、蓮にキスして貰えないの?
「…なんでぇ…?」
ぽつりと溢れた呟きと一緒に、涙も少しだけ滲んできた。
俺は蓮が好き。だから、蓮がどう思ってるかは分からないままでも、この時間が何よりも幸せだった。
なのに、なくなっちゃうの? こんな急に??
でもそもそもが奇跡みたいなものだったから、仕方ないのかな。
「…いや、待てよ」
涙を拭いながら起き上がって、蓮の言葉を思い返す。
よく分かんないことは言ってた。けど、今までは出てこなかった蓮の本音が溢れた言葉でもあった。
『俺のものにならないのは』って言ってた。『想うのだけは許してね』とも。
直接的な言葉ではないけど、蓮にとって俺は特別なのかなと自惚れるには十分な言葉だった。
「勝手に終わりになんてさせねえからな…っ」
少しでも何かの可能性があるなら諦めたくない。
蓮がそんなつもりじゃなかったとか言っても知るもんか。
お前から始めたんだから、ちゃんと責任取れよ!
「ふざけんなよ、目黒蓮…っ!!」
もう知らない。蓮がどう思おうと関係ない。
そう決意を固めながらソファから降りて楽屋を出る。
きっと他の人から見たら『ヤケクソ』って言われるんだろうけど。実際にちょっとそんなとこもあるけど。
だけどこんなに好きにさせておいて、勝手に完結するなんてそんなの許せないだろ。
ヤケクソになった人間は強いんだからな。
決意を固めながら、蓮がいるであろう控室に向かって歩き出した。
コメント
4件

2人ともなんで可愛いんでしょう😍
続きめっちゃ気になります。次も絶対読みます、最高です♪