テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第6話新人
下町に出かけてから数週間が経った
あれから黒崎様はお越しいただいていない
何かあったのだろうか、と心配するのも無理はないだろう
僕はいつものように和鏡の前に座り、髪を整える
用意ができたら、呼ばれるまでは部屋にいる
この時間は楽しいが暇だ
ぼーっと、窓から日を見る
赤く染まった球体がチカチカするほど輝いて見える
「まぶし…、」
僕は右手で日を隠すように前に出す
それでも、右手から光が漏れて目に届く
チカチカと、綺麗な灯りが部屋をつつみ込んでいるようだ
{さくら〜?準備できたー?}
「うんー」
お呼びのようだ
今日は、新人が入ってくるらしい
相当やり手なところから仕入れてきたようで、遊女達で出迎えをするらしい
僕の時はそんな事なかったくせに
いつものお気に入りの遊女服が何故か今だけは重たく感じた
シャラン…
鈴の音だ
上品なことに、鈴が付いた傘をしてこちらに向かってきていることがわかった
今のこの店の格子である花御さんも、奥で控えている
店敷居に、新人遊女の下駄が踏み入れた
傘が取られたその人は、目を見張るほどの美人だった
流れるような純粋な茶髪に、引き込まれるような漆黒の黒目
花御格子のように、とびきり注目するような所はないが、妙に目を惹きつけられる
〘お初にお目にかかります〙
〘うちは、白山.蒼(しらやま.あおい)と申します〙
〘不束者ではございますが、なにとぞよしなにお願い申し上げます〙
凛とした立ち姿、ここには僕らより位が高い花御格子もいるのに、毅然とした振る舞い
今は私が主役だと、周りに伝えているようにも見える
[では、白山さん、こちらへ]
〘はい〙
最近入られた女官に連れられ、白山蒼は奥へ行く
え、まさか新人遊女で、初日に部屋付きだと…!?
普通、最初はこの場所に部屋はなく、用意もされていない
なので、僕も最初の頃はここらの宿泊所で寝泊まりしていた
部屋がもらえたのは、黒崎様が目を掛けてくださっているからという理由もある
のに…、新人で部屋付きだと…!?
少しばかり悔しい気持ちにもなったが、この感情を表に出すことはなかった
{あの子、すごいねぇ〜…}
{ここには花御格子もいたのにね}
{あれは、立派になる気がするわ…}
うんうん、僕もそう思う
と、横で頷く
ただ、この後は特に何も予定がないので、部屋に戻る
客もつかないだろうしね
数時間後
{さくらぁ〜?}
{指名ー}
「はぁ…!?」
「なんでうちに!?」
{黒崎様だよ〜}
はぁ…、とため息をついて、準備をする
今日の着物は黄色
淡くもなくキツくもない丁度いい色
…あの人が好きな色らしい
別に、あの人のために、とか考えてるわけじゃないけど
久しぶりだから、緊張してる…のかも…?
準備が終わった僕は、自室の襖に手を掛け、廊下に出る
廊下にある姿見を見る限り変なところはない
大丈夫だ、多分
いそいそと、客がいる棟へ向かう
そこで、すれ違った下女の小言が聞こえてしまった
〝花御格子、やっぱり黒崎様に目をつけてるみたいね…〟
〝やっぱり?あんなに、前から親しかったらねぇ…〟
〝いつからだっけ?〟
〝ん〜…たしか黒崎様がこちらに通うようになってから…だったかな?〟
〝あ、じゃあ一目惚れだ!〟
〝しっ…、聞こえたらどうするの〟
〝怒られるよ?〟
〝はぁ〜い…〟
〝それより、あの白山さん?もさっきのところにいたよね〟
〝なんだろうね?〟
〝黒崎様に呼ばれたのか…、それとも側近さんとか!?〟
〝黒崎様は、また音ノ瀬さんを指名していたから…〟
〝可能性があるなら、杠様…かな?〟
〝そうかもね〜、〟
え…?僕が今から行くところに、白山さんもいるの…?
それに、花御格子と黒崎様は僕が知る前からずっと…
きゅっと、胸の前で手を握る
胸がもやっとするのがわかった
知らないふりをしたかったけど
気づいちゃった
僕はその場所へとまた歩き出した
コンコンコン
「失礼します、音ノ瀬只今参りました」
『入れ』
「…失礼いたします」
意を決し、襖に手をかける
正座のまま、黒崎様に向き合う
「ご指名ありがとうございます、音ノ瀬でございます」
『そう、堅苦しくなくていいさ』
「…では、失礼ながら、そちらの白山さんはどうしてこちらに…?」
『ああ、杠が指名したんだ』
『新人が入ったと聞いてね』
…下女の噂は本当だったか
にしても、あの杠が指名…??
考えられんな
だが白山さんとは案外、親しくなれるかもしれない
〘あの…、音ノ瀬…さんですよね…?〙
「え、うん…」
〘…覚えて、ますか…?〙
「え、何を?」
本当に記憶になかった
こんな綺麗な人を見ていれば忘れるはずがないし、そもそも何を覚えていたらよかったのか存外知るはずもない
〘そう…ですか、〙
〘いえ、そうですよね、〙
目の前の彼女は苦笑いを浮かべている
そんなに知ってて欲しかったことなのか…?
〘あ、改めて自己紹介を…〙
〘白山蒼です、何卒よしなに、〙
「音ノ瀬さくらです、こちらこそよしなに、」
〘あの…さくらさん、とお呼びしても…?〙
「ええ、うちのことはなんとでもお呼びくださいまし」
「では、うちも蒼さんとお呼びますね」
にこっと、ご自慢の作り笑いを披露してやった
〘ええ!お好きにどうぞ〙
…侮れん奴だ、
警戒しておかないといけなさそうだ
〈白山さん、こちらへ〉
〘あっ、そうでした、お仕事中でした…〙
〘では、さくらさん、また〙
「ええ、また」
蒼さんは、杠と隣部屋へ進んだ
「ふぅ…、で、今回は何故急に指名を?」
「ここ最近いらっしゃってなかったでしょう?」
『そのことなんだが…、仕事が、なぁ…?』
またか…、と言わんばかりの鹿めっ面で、こちらの様子を伺ってくる
厭味な奴だ
僕に弁明する機会を求めているのか
だが生憎、そこまで甘くはないので
「そうでございましたか…、」
「しかしこの前のようにお出かけなどされて…、こちらにも顔を出されて、このようなお時間がお有りでしたらそちらのお仕事をなさっては…?」
これは遠回しに来るな、と言ったようなものである
まあ、僕としてもあまり頻繁に来られては身が持たない
一石二鳥だ
『ははっ、wそれもそうだな』
『だが、俺が今日ここに来たのはお前が寂しがってないか見に来たのだが?』
にやにやとこちらが返答するのを待っている
この野郎、こんなもの厭味に厭味で返したようなものじゃないか
「はぁ…、もう面倒ですね、」
なんて、苦笑いで言ってやる
実際の所面倒である
『それもそうだな』
と、ノリに乗ってくる
「それはそうと、晩酌されては?」
「折角いらしたのに、ここのご自慢のお酒を飲まず帰られては女官に怒られてしまいます」
一応、これも料金を貰うものだ
変な所で稼ぎに行くのが僕という遊女だ
『そうか?では一杯貰おう』
流石、太っ腹だ
徳利(とっくり)で酒器(しゅき)に酒を入れる
これらはここらの名産品でもある
実際、この前見に行った下街にも沢山陶器の物があった
僕がお酌した酒器を持ち、一気にぐいっと行く
また酔いつぶれてしまわないだろうか
この前のご指名の時も、それで2人して寝てしまっていたのだから
もうあんなことにはならないようにと、僕はもう飲まない
絶対に、だ
チュンチュンチュン_
や”って、しまったぁぁ…ぁ、
また寝てしまった、黒崎様の隣で??花御格子に何と言われるか、そもそも客の横で接待もせずに寝てよかったのか??いや、一回やってしまっているし…、いやしかし…!?というか僕はお酒飲んでないはずなのに、なんで寝て…!?よほど疲れていたのか?いや、まずは黒崎様に謝って…!でもまだ寝てらっしゃる、起こすのも…、だがしかし…!?
頭の中がぐるぐると回る
沢山のことが頭をよぎり、消えていく
あ、もういいや
最終的な結末がこれだ
さっと、立ち上がり、身ぐるみのズレた黒崎様を直し、立ち去る
こんな失態は今度からはもっと気をつけなければいけない
そう、心に決めたのであった
廊下を歩く時に、少し聞こえたことがまたあった
〝新しい新人の、白山さん?だっけ、すごい人気らしいわ〜…〟
〝これ以上凄くなったら花御格子抜いちゃうんじゃない!?〟
〝えぇ〜、それはないない!〟
〝でも、私は蒼さんに頑張って欲しいけどな〜〟
〝あんた名前で呼んでんの!?〟
〝昨日の夜に一回話したんだ〜!〟
〝いいでしょ!〟
〝さすが、毎回行動だけは早いんだからw〟
〝だけってなによ!〟
蒼さんは、昨日の夜にもう終わってたのか
まあ、杠が相手だもんな…
どうなったのか、少し気になる気もする
というか、やっぱり蒼さんは客にうけたか
派手な見た目で接待をする花御格子と、
大人しめの見た目だが、華のある蒼さん
どちらを指名するかでここ最近は繁盛しているらしい
……最近というか、昨日に入ったばかりだが
下女のなかでも、どちらを応援するかで半分に分かれているらしい
僕だったら花御格子派と、白山派、どちらにつくだろうか
少し仲良くなれると思っていた自分が恥ずかしい
もう自分より目上になっていてもおかしくないんじゃないか?
僕は1年以上ここにいるのに
…仲良くは無理そうだ
極力避けよう、ばったり会ったときはご自慢の作り笑いで乗り切ろう
やはり、心を許して話せるのは舞だけかもしれない
…黒崎様と話すときは少し楽しいが、酒のせいだろう
そう、これからも思っていたい
次回第7話➫♡80不穏
〘〙
名前:白山蒼(しらやまあおい)
年齢:18
性別:女
一人称、二人称:うち(キレたら私)、〇〇さん.呼び捨て
その他:新人遊女、さくらとの過去が…?
イメージ画↓
※さくら(桜葵💫☀️🍀)へ、勝手に選んでごめんね💦
語彙意味
徳利(とっくり)=陶器のお酒次ぎ
酒器(しゅき)=陶器のお酒入れ
右:徳利
左:酒器
……絶対今後必要ないやつ((
コメント
45件
安定の神作品だぁ!
うわやばぁ、、つぎめっちゃたのしみ✨