テラーノベル
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第7話不穏
朝。今日は何やら不穏な空気が漂う曇り空
部屋から見える山々と下街の上には黒く分厚い雲
気持ちまで沈んでしまいそうな日だ
{さくら〜?}
{もう起きたー?}
舞がまた部屋に来た
懲りない奴だ
「起きてるよー」
僕は適当に返事をする
ガラッ
{入るねー}
「舞…そういうのは開ける前に言うものだよ」
{別によくない?さくらだし}
僕のことをなんだと思っているのか…
よくわからないが、舞にとっては僕は面倒な後輩か、妹のような存在なのだろう
なら、僕も舞のお節介に頼らせてもらおう
「まあ、いいけど…、格子とかの部屋ではやめなよ?」
{流石にそんなことはしないよ!?}
{そこまで私、馬鹿じゃないし}
自分で言うか?とも思ったが、そういうヤツだったなと、思い出す
ここ最近蒼さんのことで舞の存在が薄れてしまったのだろうか
いや、それはない。たしかに僕は蒼さんを警戒してはいるが、そこまでではない
では何故……?
考えを巡らせた直後、舞が不意に僕の座っていた横の窓をさらに開ける
{わぁ…、本当に今日は天気が悪いね…}
{この後雨でも降るんじゃない?}
「そうかもね」
{えぇ〜、そうなったら私大変なんですけど!?}
どうやら、舞は今日下街に買い出しに行く当番らしい
僕は常に屋敷内のことだけだから知らなかった
{ま、和傘を持っていけば大丈夫か}
{それよりも!早く下行くよ!}
舞が話している間に支度を終えた僕の手を引っ張る
「そんなに急いでどうしたの?」
「もしかして、何かやらかした?」
{そうなのよ…、私が……}
{じゃ、なくてっ!!}
もう…、と舞が呆れ顔になる
勝手にそうだ。と答えたのは舞だろうに……
僕のせいにされるのは不愉快だ
{あれよ、花御格子と白山さんが遂にぶつかったみたいで}
{それ以前から二人の仲が険悪なのは私の所まで噂が回ってきてたから…}
{そして、今日遂に花御格子が仕掛けたみたい}
舞は私の所まで。と言っているが、本人自体結構な噂好きなので、よく知っているのだろう
事実、僕は何の噂も聞いていない
「ぶつかったって、何かあったの?」
{そうなの、白山さんはいつものように仕事をこなしていただけみたいなんだけど…}
{流石に新人だし、花御格子も面白くなかったんでしょうね}
そういうものなのか…?と、疑問を浮かべたが、その疑問は目の前に繰り広げられている光景を目にしてすぐに消えた
蒼さんが、花御格子に言い詰められている
何を話しているのかは、階段の上からは聞こえない
が、花御格子の周りには取り巻きのような遊女が数人控えていた
でも、蒼さんは恐れることなく、冷静にきっぱりと対話しているように見えた
舞と、会話がギリギリ聞こえる程度の所まで階段を降りた
《ねぇ?貴方わかっているの?》
《新人が、とても人気だとこの子たちから聞いてね》
《私の立場からしたら見逃せなくって…》
ギロリと、蒼さんを睨むように、品定めするかのように冷たい眼で見つめる
〘ええ、わかっています〙
〘ですが…、お客様に人気…というのはうちにはどうにもできないことですので…〙
〘それは、花御格子もお分かり…ですよね?〙
表情としては笑ってはいるが、どうしても眼が笑っていないように見える
微笑みを向けられ、花御格子は後退る
《え、ええ、もちろんそんなことは分かっているわ》
〘ならばどうすればいのでしょうか…?〙
〘うち、花御格子とは今後ともいい関係でいたいので…、花御格子の仰ることは叶えたいのですが…〙
〘どうしたら、花御格子のご期待通りになりますか…?〙
スッと、細く目を開ける蒼さん
蛇に睨まれた蛙のように、固まってしまう花御格子
これは蒼さんの方が一枚上手だったようだ
どうして僕の周りにはこうも饒舌な人が多いのか…
未だにわかるはずもない
花御格子は黙ったまま、沈黙が流れる
どう返答しようか悩みどころだろう
花御格子はここの重要な遊女だ
そんな遊女が客足を遠のけるような真似を蒼さんにさせるはずもない
だが、彼女単体からしたらそれは好ましい状況だろう
その立場に縛られている弱点を、蒼さんは突いたのだ
流石という他ないだろう
《そうね…、では、》
《貴方は新人らしく、普通の新人がやる仕事をなさい》
《何かは…先輩方に聞けば分かるのではなくって…?》
くすくすと、笑う取り巻き達
蒼さんは、予想していなかった返答をされたからか、少し動揺している
当然だろう。客足がこの店全体から遠のくことをするはずがないと誰もが思っていたからだ
だが、実際は違った
自ら客の指名を断ることで、蒼さんのみの評価を落とす
これが長年ここに君臨してきた格子のやり方だ
決して悪いことではない
上下関係がハッキリとするだけだ
この店の上の方々も、上下関係はハッキリしていたほうがやりやすい
これは万々歳な展開だろう
だが、実際はどうか
見ればわかることだ、一目見て新人への嫌がらせにしか見えない
当の本人はどういう目的でやっているのかわからないが、どちらの目的も持っていそうで侮れない
それが花御麗という人だ
{どうする…?こんなに険悪だとは思わなかったよ…}
珍しく舞も弱気だ
前はあんなに杠と言い争っていたのに…
「どうって、ここで階段を登ったら登ったで、向こうにバレそうだし…」
「ここで見守るしかないんじゃない?」
{えぇ……}
舞はどうやら、自分が言い争うのは得意だが、見るのは苦手らしい
〈おい、ここで何してる〉
少し遠くの廊下から杠の声がした
ここは客が滅多に入らない屋敷の端だ
だからこそこのような口論が行われているのだろう
ここに客が来ること自体想定していなかった花御格子が狼狽える
〈あんたは…、ここの格子か〉
〈奥にいるのは、少し前に入った新人か〉
さすが杠。遊女をきちんと把握している
黒崎様の護衛だからだろうか
記憶力が半端じゃない
《あ…、すみません、お見苦しいところをお見せして…》
花御格子はしおらしく、目線を下げる
だが、そんな彼女には目もくれない杠
一歩一歩と、歩み寄る
その足が踏んだ床がギシギシと鳴り、緊張感が高まる
〈何があった?〉
花御格子が口を開かないのを見越して、蒼さんに問う
〘あ、えと…〙
〘いえ、何も〙
にこっと杠に対し、微笑む
その表情には曇る所はなく、何も隠したいことなどないと伝えているようにも見える
〘ただ、新人のうちの質問にお答えくださっただけです〙
〘何も問題などありませんでしょう?〙
微笑みは崩さず、語りかける
先程は曇るところはない。と言ったが、よく見ればその笑顔には何か裏があるように捉えられる
まるで、杠に対し敵視しているかのように
大事にしたくないと思うかのように
その立ち居振る舞いは上流階級のお方のように、一つも指摘する所がない
この蒼さんに、流石の杠でも太刀打ちできないようだ
〈そうか、ならいい〉
と、言ったまではいいのだが、杠は何故か蒼さんの手を引っ張り、何処かへ行ってしまった
一体何なのか、あの場にいた僕らはぽかんとフリーズしていた
#おまけ 杠side
館の端で何やら騒がしい声が聞こえる
昔から俺は人より耳が良く、遠く離れた所の声を聞き取れる
その御蔭で、嫌なことも耳にすることがある
だが、今回ばかりはこの嫌な特技に感謝だ
俺は口論が聞こえた場所まで、止めに行った
が、行って後悔した
口論の主犯はここの格子だった
その口論の相手は、俺が少し前に指名した白山だった
見て見ぬ振りで、その場を去ろうとした
だが、足が先へ先へと歩きだす
〈おい、ここで何してる〉
この状況、何処からどう見ても新人への嫌がらせにしか見えない
が、この状況下でも白山は凛と立ち、恐れ慄くこともなかった
少し、ほんの少しだけだが、白山に凄く目を引かれた
そんな彼女達と少しばかり口論になった
《あ…、すみません、お見苦しいところをお見せして…》
そんなことをいじらしく言う格子
これは何を聞いても駄目だろうと、俺は判断し、格子の言葉を無視して、白山に問う
〈何があった?〉
怖じけると思った
俺は表情が少しばかり怖いから
だが、彼女から返ってきた言葉は
〘いえ、何も〙
だけだった
怖がることもなく、表情一つ変えず、俺に向き合った
『これは面白い』と、黒崎様が言っていた言葉に酷く同意するほどだった
俺は音ノ瀬にはなんの興味もないが、白山になら面白いと思うことができた
そんな俺なんか置き去りに、白山は続ける
〘ただ、新人のうちの質問にお答えくださっただけです〙
〘何も問題などありませんでしょう?〙
驚いた
俺は耳がいいから全て聞こえていた
どう考えても嫌がらせを受けていた
格子の考えることもわかる。が、それを隠すように、悟られないように、言葉を選んだ
そんなことを冷たい眼をしながら言う彼女をここに置いておけなくて、俺は白山の手を引き、離れた場所へ歩み始めた
第8話昇格➫♡90
コメント
7件
は~い! 長文失礼! まっじで神作品っすね、、✨️ 私が作った(?)杠がでて、なおかつ、耳が良くて会話が聞こえて、おもそろうだって? リアルで発狂寸前なぐらいニヤニヤがとーまりません 本当にこの作品を作ってくれてありがとう!!!!!!!