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時は20XX年――異星人の侵略により、ある星の文明は滅亡した。
どこもかしこもグチャグチャになった建物の瓦礫が散乱しており、人の影ひとつも見えない。空には赤い月が浮かんでおり、その異様さをより強調していた。
異星人のとの戦争から逃げ切った人々は、街の瓦礫に埋もれた地下街に閉じこもって生活していた。異星人の目を掻い潜って瓦礫の中や近くの山、海へ食糧を探しに行くこともあった。
今日の食糧担当は向井康二、太陽のように明るく、まっすぐで純粋な青年だ。
🧡「ほな、行ってくるわ!」
一人での行動は正直言うととても苦手な彼だが、共に過ごすみんなのために勇気を振り絞った。
「行ってらっしゃい〜」
「気をつけてね!」
暖かい声に背中を押され、背中に武器を背負った康二は瓦礫の街へ向かった。
他の人よりも少し時間をかけて集めたことで、普段より多くの食糧を見つけることができた。康二はウキウキとした気分で、みんなで過ごしている地下街へ戻ってきた。
🧡「みんな、ただいm……」
集めてきた食糧が、康二の手から落ちた。地下街に広がっていたのは血の海。
共に過ごしてきた仲間たちは、みな帰らぬ人となっていた。
🧡「は……?嘘やろ、みんな……!?」
康二の目からは涙が溢れる。
🧡「ここまでずっとみんなで生きてきたのに、なんで今さら一人にするん…!!」
心からの叫びだった。協力して異星人に対抗し、激しい戦争を生き抜いてきた仲間たちが、知らない間に息絶えている。そんな状況、耐えられるわけが無かった。
🧡「くそ、くそっ……!!」
康二はその場に崩れ落ち、何度も冷たい地面を殴った。
🧡「なんで、俺だけっ……!!」
ここで1人生きている自分が、この星で生きる人を無慈悲に殺す異星人が、許せなかった。
と、その時。地下街の奥から複数人の足音が聞こえてきた。ハッと我に返った康二は、すぐさま散らばってしまった食糧をかき集めて物陰に身を潜めた。
その判断は正しく、現れたのは仲間たちを殺したであろう異星人だった。
彼らはうにゃうにゃと人間には分からない言葉で何かを話すと、死体を放ったまま地上へ出ていった。
音がしなくなってから、康二はみんなに近づいた。銃弾が充分に入った小型銃をポケットに、カバンに替えの弾を入れる。このままここにいるとまた異星人が戻って来るかもしれない。
拠点は変えた方がいいと判断し、食糧を手にこの場を去ろうとした。
だが康二は小走りで戻ってきて、1番仲が良かった友達の腕から、少し血に染まったミサンガをもぎ取り、自分の腕につけた。……仲間の存在を、忘れたくなかったのだ。
赤い月に照らされた世界は、やけに綺麗で恐ろしく思えた。赤を見れば、仲間の血を思い出す。それでも、白い月に見慣れた体は、この光景を宇宙のどこか遠い場所の景色を見ているように思えて、美しくも見えた。
瓦礫が散らばる道を踏みしめながら、なるべく赤い月を見ないようにした。けれどその光から逃れることなんてできず、脳裏にあの血の海が浮かび上がるたび康二の体は震えた。
康二はそんな状態で街を移動し続けた。血の海を目の当たりにしてから数日後、ようやく康二は新たな拠点を見つけた。ビルの瓦礫が積み上がる中の空洞だ。
荷物を整理し過ごしやすい環境にした後、外に出てウンと伸びをする。ここなら異星人の気配も感じないし、しばらく平和に過ごせる……そう思った時、ふと目の前にある崩壊したビルの頂上から、朽ちた街を眺める青年がいることに気がついた。
キレイだと思った。
正体の分からない人のことをキレイだなんて、おかしな話だけれど。これが一目惚れというやつなんだと康二は思った。
しばらくその場に佇み青年を見つめていると、持っていたカバンが手から滑り落ちてしまい、音が響いた。
🧡「……っ!」
ビルの上の青年は康二を見つけ、軽く飛び降りると康二の方へ歩いてくる。康二は慌てながらポケットから銃を取り出し、青年に向ける。
🧡「ち、近づくなっ!」
康二の声に、青年はピタリと動きを止める。
🧡「お前は、誰や?人間の、生き残りか……?」
おそるおそるそう口にすると、青年は言葉を発した。
「俺は、人間ではない。だが、お前の、敵でもない」
単語で話す様子から、彼がこの星の住人ではないことは分かる。
🧡「……異星人?」
「いや……俺は、宙の旅人だ」
聞いたことがある。宙の旅人――さまざまな星を旅し、その星の運命を見守る旅人のことだ。そんな旅人が、この朽ち果てた星に?
🧡「なんでこんなとこに……もう、終わってしもたのに」
「まだ、終わってない。この星には、君がいる」
たった一人残っていたとてどうにかなる問題ではないだろう。だが、力強くそう言ってくれる彼の目に嘘はなかった。康二は、彼を信じてみることにした。
🧡「……名前は?」
🖤「この星では、レンと名乗ってる」
🧡「レン……俺は、康二」
🖤「コウジ。良い名前だ」
この星のことなんて、なんにも知らないくせに。康二は火照る顔を隠すように俯き、心の中でつぶやいた。