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敵じゃないという旅人にこの先どうするのか聞いてみたところ、何もプランが無いと言った。そんな彼に康二はしばらくの間一緒に過ごすことを提案した。
せっかくの出会いを無駄にしたくない、1人は寂しいという気持ちからだった。仲間を失った今、信じられるのは彼しかいない。……まあ、信じられるかどうか分からないけれど。
どうぞ、と崩れかけたビルの瓦礫の下に作った拠点に案内すると、レンはまるで小さい子どものようにキラキラした目で拠点を見て歩いた。
🖤「これはなんだ!」
🖤「……なんだこれは?」
🖤「コウジ、使い方を教えろ」
初めて見るものばかりのようで、この星に来てまだ間もないことが伺える。次々と出される質問に小さくため息を吐きながらも、その顔には笑みが浮かぶ。
🧡「これはライター。火が出せるんや。……火って、分かるか?」
🧡「これはフライパン。料理する時に使うんよ。後で使うから、その時にまた教えるな」
🧡「わー!?どこでそんなもん拾ってん!!危ないから早よ捨てろ!!」
拠点に置いていたものから、きっと落ちていたのであろう不発弾などなど。レンは目に入ったもの全てに何かしらの反応を示した。康二にはそれが新鮮で、楽しかった。
仲間想いな康二は、今まで人に頼られることがなかった。いつも仲間の数歩後ろをついていき、サポートに徹することばかりだった。
逆に足を引っ張ってしまった時には持ち前の愛嬌で許してもらい、可愛がられ……みんなの弟的立ち位置で過ごしてきた。
壊れゆく世界の中、自分より年下に出会うことはあっても頼りに行くのは他の仲間たちで、康二の下に後輩ができたことはない。
だからこそ、旅人の存在は康二にとって大きなものとなっているのだ。
初めて人に頼られる感覚、自分が人に教えられることがあるのだという自信……旅人と出会わなければ、知ることのできなかったものだ。
いつの間にか気を許せるようになっていたのも、心からの笑顔が見えることも多くなったのも、全て旅人との――レンとの関係性のおかげだった。
🧡「……はい、できた。これは味噌汁って言うねん」
🖤「みそ、しる……」
レンは少し欠けたお椀に入っている茶色い液体を、まじまじと見つめる。康二が何の躊躇いもなく飲んでいる様子を見て、レンは白く上がっている湯気を鼻でスンスンと嗅いでから一口すすった。
🖤「……しょっぱい」
🧡「はは!しょっぱいなんて分かるんや!ごめんな、味噌の入れ具合ミスったんよ」
🖤「みそ?」
🧡「あー、味噌っていうのは、この茶色いやつのこと!」
🖤「みそ、しょっぱい……」
🧡「また一つ覚えたな」
康二は言葉を繰り返すレンを見て柔らかく微笑む。その視線が外れたタイミングで、レンは康二の横顔を盗み見ていた。
🖤「……コウジ」
🧡「んー?」
近くにあったまだ水の出る水道で、康二がお椀を洗っていると不意にレンが声をかけた。
🖤「俺、コウジと会ってから、新しいこと、いっぱいだ」
思いがけない言葉に、康二は手を止めてレンを振り返った。
🖤「“美味しい”も、“しょっぱい”も、たくさんの、道具も……心があったかい、この気持ちも。俺、コウジと会えて、良かった」
🧡「……!!」
レンが初めて見せた笑顔に、康二の胸は高鳴った。
何なんよ、この眩しく可愛い笑顔は!それに、心があったかいって……
🧡「……お、俺も、レンと出会えて良かったって、思ってるで?」
いろいろ頭を巡らせたが、とりあえず康二は素直な気持ちを口にする。この環境に一人じゃないことは、嬉しかったから。きっと自分も、レンのように心が温かくなっているから。
🖤「一緒、嬉しい」
🧡「……そうやなっ」
また頬が赤くなっているのを感じた康二は、皿洗いを再開することで気を紛らわせた。
その夜のことだった。ふと目が覚めて体を起こすと、拠点にレンの姿がなかった。
🧡「あれ、レン……?」
眠い目を擦りながら外に出ると、最初に出会った時のようにレンは小高い瓦礫の山の上で、赤い月が浮かんでいるのを見ていた。
その目がどこか憂いを帯びているように見えて、康二の胸は締め付けられる。とても話しかけられるような雰囲気ではなく、康二は一抹の不安を抱えたまま、また眠りについた。
レンが何かを抱えている、そう感じたのは今に始まった事ではない。ふとした瞬間に何かを思い出しているような、それでいてとても苦しそうな表情を浮かべていることがあるのだ。
それはいつも決まって……赤い月が浮かんでいる時だった。
次の日の朝。康二が目を覚ますと、レンは何事もなかったかのように眠っていた。
🧡「隠せてると、思ってるんかな」
目尻にうっすらと涙が滲んでいる。康二はそれを起こさないようにそっと拭い、朝ごはんの支度を始めた。