コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
シスターと入浴中のシャーリィ=アーキハクトです。シスターからお風呂に誘われるのは珍しかったのでなにかお話があると思っていましたが、まさか貴族に復帰する可能性を問われるとは思いませんでした。
「華やかな貴族社会、ですか」
「貴女も好き好んで裏社会に身を置いているわけではないでしょう。この機会を活かすべきでは?もちろんエーリカも連れていきなさい。あの娘も奴隷に落とされたとは言え堅気、貴女が居るから此処に身を置いているだけです」
ふむ。
「確かに、あの日からその考えを持たなかったと言えば嘘になります」
カナリア様なら保護してくれる可能性も高く、何とかレンゲン公爵領へ行ければ、と考えたこともあります。しかし。
「ですが、この道を選んだのは私です。それに、相手がどんな勢力か分からない以上保護を求めることは出来ませんでしたし、何よりそれでは復讐を果たせません」
カナリア様だって、家の運命を賭けてまで私を保護しようとは思わないでしょう。下手をすれば始末される危険性だってあった。
今回のように、密かな協力者としての立場が良いでしょう。万が一の時は直ぐに関係を切ることが出来ますからね。
「……復讐を忘れて幸せに生きる道もありますよ」
「それは出来ません。あの日、私は全てを失いました。真相を知り、そして全てに復讐を成し遂げるためにもこの町を離れるつもりもありません」
貴族達が干渉するのが難しいシェルドハーフェンだからこそ、私は此処まで勢力を伸ばすことが出来ました。それに、お義兄様が協力者として後ろ楯になってくれています。今となっては、カナリア様の下に身を寄せる必要はないのです。
「後悔をしませんか?貴女は有名になりました。黒幕が貴女の正体に気付いている可能性もあるのですよ?」
「それこそ好都合です。ガズウット男爵の件を片付ければ嫌でも目立つことになるでしょう」
「目立つでしょうね」
「そのために準備を進めてきました。今年になって苦難続きではありますが、着実に組織は大きくなっています。シスター、ご心配は有り難く受け取ります。ですが、私は止まるつもりはありません」
まだ敵の姿が見えませんが、カナリア様との密約が成れば少しでも情報を得られます。
「そうですか……」
シスターは少し残念そうですね。
「逃げる事は出来ませんが、何れは貴族として名乗らなければいけない時が来ます。皆さんを楽にさせてあげられますよ」
とは言え、私がアーキハクト伯爵家の長女であることに変わりはありません。伯父様が家を継いでいる様ですが、それも暫定的なもの。
なによりあの日和見な叔父が嫌いな私達姉妹にとって現状は我慢なりません。
「貴族を名乗るつもりなのですか?シャーリィ」
「はい、領地としては『黄昏』がありますからね。貴族として名乗り出て派閥を巻き込み、貴族の抗争に持っていきます」
まだ先の話ではありますが、この復讐を貴族同士の抗争に発展させればより状況を混乱させられます。そして混乱の渦中にこそ、活路はある。
お義兄様のお話を聞く限り、相手は四大公爵家のどれか。帝室も関与している可能性を考えれば、尚更です。
「それでは内乱になりますよ?」
「帝室が関与している可能性がある以上、それ以外に方法がありません」
「復讐のために国を相手にすると」
「最悪その事態も視野に入れています」
まあ、出来れば内乱にまで発展はさせたくありません。私の復讐で無関係な、罪もない民を苦しめたくはありませんから。もちろん、不可抗力は別ですよ?
綺麗事だけでは成し遂げられないのは明白ですから。
「国を相手に喧嘩を売る覚悟まである。貴女を陥れた連中は下手を打ちましたね」
「下手を?」
「貴女を味方に引き込めば、どんなことでも出来たでしょう。まあ、九歳の子供がこんな成長を遂げるとは予想できませんか」
「ちなみに幼少期の評判は、不気味でしたよ」
「安心しなさい、それは私の第一印象と同じです」
酷い。自覚はありますけど。
シスターとの入浴を終えた私は身体を清めて自室へと戻りました。まだまだやることはたくさんありますが、先に確認しなければいけないことがあります。
自室に安置されている水晶の前に座り、触れて魔力を流し込みます。頭には相手を、レイミを思い浮かべながら。
少しすると水晶が淡く光り初めて、そこにレイミが映し出されました。
「レイミ」
『お姉さま、お久しぶりです。ご連絡を頂けたと言うことは?』
「全ては予定通りに進んでいます。犠牲を防ぐことは出来ませんでしたが、『血塗られた戦旗』を撃退。傭兵王も討ち取りました」
私達の勝利を信じていた様子のレイミは、あまり驚いていませんね。
『それでこそお姉さまです。暁の勝利を確信していました』
「貴女の話していた少女が居なかったことが気になります」
レイミが気にしていた少女は現れませんでした。万が一の時は私が相手をするつもりでしたが、残念です。
『そうですか……聖奈は脅威です。お姉さまのお力以外では相手にすることも困難かと』
「見掛けたら逃げるように徹底させていますよ。そちらはどうですか?」
予定ではレンゲン公爵領に到着しているはずですが。
『はい、お姉さま。予定通り先ほど領内に入りました。明日には領都レーテルに辿り着きます』
レンゲン公爵家の本拠地、花の都レーテル。帝国西部最大の都市であり、交易の中継拠点として発展しています。
「では、上手くいけば数日以内にカナリア様に会えますね?」
『その予定ですが、正攻法ではお会いするためにどれだけの時間が必要になるか分かりません。お姉さま、情勢は予断を許さないでしょう?』
「ガズウット男爵の領邦軍は一週間以内に『黄昏』へ辿り着きます」
『では、少し危険ですが危ない橋を渡る許可をください』
「危険な真似をさせたくはありませんが」
『時間がありません。上手くいけば、幾つかの手順を省略できます。お姉さま、私にお任せを』
「無事に帰ってきてくれるならば、許可します。仮に失敗しても、逃げてきてくださいね」
レイミの身がなによりも最優先ですからね。
『分かりました。お姉さま、成果に期待してください。必ずカナリア様の協力を取り付けて見せます』
不安はありますし、なにをするつもりか分かりませんが……送り出したのは私ですからね。信じて任せるのが私の役目ですね。
「無理をしないように、いつでも連絡してくださいね」
私は少しだけ不安を覚えながらも、妹を信じることにしました。いや、今となっては信じるしかありませんからね。ああ、落ち着かない。