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仕事帰りの阿部ちゃんが何やら小さな袋を持ってやって来た。
🖤「おかえり。それ、何?」
💚「あとで見せるね」
勿体ぶりながらどこか嬉しそうな阿部ちゃんをリビングまでエスコートする。
🖤「ちょうどご飯できたとこ」
💚「わぁ。パスタ食べたかったんだ」
アサリが手に入ったので、今日はボンゴレビアンコ。
パスタの気分だったと話して笑顔を見せる阿部ちゃんを見ていると以心伝心みたいで誇らしさにも似た気持ちになるし、純粋に喜んでくれて嬉しい。
今日の仕事の話をたくさんして、時に演技やグループに関わる真剣な話も挟んで、あっという間に食事の時間は過ぎた。
食器を一緒に片付けて、コーヒーブレイク。
だいぶ気温は上がったけど、夜の一杯はホットの方がまだ落ち着く。
💚「お風呂入る前に、これ」
頃合いを見て、阿部ちゃんはさっきの袋を取り出した。
🖤「そうだ、それ。見せてよ」
💚「今開けるから待ってください。…あ、めめ開ける?」
🖤「え、いいの?」
袋を受け取ると、中身が入っているのかと思うくらい軽い。
封のシールを剥がして折り曲げられた紙袋の上部をめくって中を覗く。
🖤「線香花火だ」
💚「そうです」
🖤「もしかして、今日って」
💚「うん、花火の日」
一緒にしよう?と笑う阿部ちゃんに対して、拒否する選択肢なんてなかった。
バルコニーに花火とライター、掃除用の小さい箒と塵取りのセット、それとビールを持って出る。
運良く風もなく、暖かい夜。
2人で線香花火にそっと火を着け、ぱちぱちと音を立てながら丸まっていく火種を眺めた。
🖤「後に落ちたら付き合おうとか、あったよね」
💚「あったあった。そういう時に限って先に落ちちゃったりとかね」
小さく細く火花を散らしていたものが、だんだんと数を増やし、大きくなり、周りを奥ゆかしく照らしながら燃え続ける。
💚「あっ」
ピークのタイミングで、阿部ちゃんの火種がぽとりと下に落ちた。
持ち手だけになった線香花火を指からぶら下げたまま、まだ燃えている俺の線香花火をじっと見る。
長い睫毛が影を落とし、瞳はオレンジの火花を映してきらきら輝いている。
🖤「綺麗」
💚「うん」
🖤「花火もだけど、阿部ちゃんも」
俺の言葉を一瞬聞き流してから不思議そうにこちらを見て、『今俺じゃない』と視線を花火に戻した。