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午後の日差しが窓から差し込む喫茶店。カウンターには香ばしいコーヒーの香りが漂い、静かな時間がゆっくり流れていた。
「……デンジくん」
声に振り向くと、そこにはレゼがドアの後ろからひょこっと顔を出して立っていた。
「レゼ……やっぱり、来てくれたんだな」
デンジは思わず笑う。
そして、手に持っている花束をレゼに渡す。
「綺麗…」
花束を大事に抱きしめると、思わず涙が溢れる。
「レゼ。俺と一緒に逃げようぜ」
手を差し伸べ、優しく見つめる。
レゼは少し安心したように息を吐き、肩越しに微笑み、手を取る。
「うん、行こ……ずっと、遠くに」
二人はカウンターを抜け、ドアを押し開く。
外は穏やかな晴れの日差し。街路の影が長く伸び、温かい光が二人を包む。
「デンジくん……怖くないの?」
レゼが小さく尋ねる。
「ん?なんで?」
首を傾け、レゼを見る。
「だって、このことがバレたら、デンジくんは捕まるどころか、殺されちゃうかもしてないのに……」
不安がっているレゼを見ながら当然のことのように言う。
「俺は俺の事より、レゼのことの方が心配なんだけど」
「…え?」
思わず俯いていた顔を上げ、デンジを見つめる。
「だってやっと逃げれるのに、ずっと浮かない顔してんだもん。俺と逃げるのは不安?」
すぐさま否定をする
「え!?そんなことないよ!むしろ安心してるし、嬉しい!」
その言葉を聞いたデンジはニカッと笑う
「じゃあ、安心して逃げようぜ。」
──────なんて暖かい笑顔なんだろう。
私は、君を殺そうとしたのに…
「…うん。そうだね!」
二人は街の路地を抜け、静かな公園のベンチに腰を下ろす。
木漏れ日が二人を柔らかく照らし、鳥の声だけが聞こえる穏やかな時間。
レゼは肩越しにデンジを見つめ、少しの間、黙って過ごす。
「ねぇ、デンジくん。上手く逃げれたらさ、色んなとこ行けるわけだけど、どこに行きたい?」
「俺は、そうだな…まず、レゼと学校行きたい。そんで、一緒に勉強して、部活入って、一緒に帰る。レゼは?」
「私は、水族館とか行ってみたい!色んな種類の魚がいるんだよ!デンジくんはクラゲって見たことある?」
「クラゲ?なんだそれ?」
「え!?知らないの?海の中にいるゼリーみたいなやつだよ」
「ゼリー?なんか美味そう」
「あはは!毒があるから食べれないんだな〜これが」
「マジで?知ってて良かったぜ。」
涙が出るほど笑っていたレゼが、涙を拭い、デンジを見つめる。
「絶対行こうね!水族館!」
「おう。約束な」
街のざわめきや車の音が遠くに感じられる。
世界は二人だけの空間になったようだった。
未来はまだ不確かで、危険も待ち受けているかもしれない。
でも今はただ、互いの存在だけを頼りに前に進む——
それだけで十分だった。
「マキマさん、コーヒー入れてきました」
「ありがとう」
コーヒーの匂いを嗅ぎ、ゆっくりと1口飲む。
「そういえば、デンジが姿を消したとアキから聞いたのですが…良いのですか?」
椅子を回し、窓の外を見る。
「ねぇ、コーヒーってなんで怖くないんだろう ね。
怖かったら強くなれたかもしれないのに」
そう言いながら、机に膝をつき、顎を乗せる。
そして、コーヒーが入ったコップを持ち、ゆらゆらと揺らした。