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ヘリは孤独だ。
この日の犯罪で師匠 ─── ぺん兄が地上をやるとのことで、ヘリを担当した。
ヘリの操縦はぺん兄が教えてくれた。着陸、アタックとその避け方といった操縦だけでは無く、ナビに頼らず飛ぶこと、地上との距離感を覚えること、犯罪時はアタックを警戒してホバリングをせず動き続けること。島内各所の修理台の場所。
犯罪現場でのヘリ乗りはギャングでも警察でもやるべきことが多い。そして警察のヘリの方が性能がいい。ぺん兄以外の師匠たちも「ヘリの操縦はできるけど、送迎しかできない」と言う人ばかりだ。そんな中、新人の自分にヘリを任された。
師匠たちは最初からぺん兄と同じ技術を求めて来なかった。自分にできる範囲でかまわないと言ってくれた。それは期待していないという意味では無く、やるべきことが多過ぎてパニックにならないようにするための優しさだ。
できる事を少しずつでもやった。師匠たちには「一人でヘリを操縦しながら報告できるだけでもすごい」と言われた。
味方のヘリが1台だけの時はアタックせずに生存重視を意識する。これはぺん兄も同じだ。最終局面でヘリが金持ちの逃走を補助し、場合によってはピックする可能性も考えるとアタックで煙を吹いたり、あまつさえ墜落する事はできない。
この日、師匠たちが欲しい、聞きたい情報を無線で言ってくれたおかげで、見るべきところが定まり慌てずに操縦もできた。
ただ、地上の味方が一人減り、二人減り、ボスやぺん兄を含め無線の応答がなくなり、最後に生存していたのは自分だけとなってしまった。
念のため、逃走することを無線で伝えると師匠たちから「撤退OK」の反応がもらえた。
全力で現場から離れ警察がいなそうな逃走用アジトを目指す。警察ヘリの追跡は振り切ったらしく、自身のヘリの音だけが響く中、一人考える。
上手く状況を判断できず後手に回った結果、味方を助けられなかった。地上でIGLをしていたぺん兄も捕まった。何もできない自分が歯がゆかった。
─── ぺいんと出所しました。
─── ぺん兄、お迎え行きます。
先ほどの犯罪で最後に護送されたぺん兄が出所した。すぐさま迎えに行くことを伝える。一緒にいたいのもあるが、ぺん兄からのフィードバックも欲しい。
今回もヘリはどうだったかを聞かれ、状況の説明をしようと考えたがふと思い浮かんだ言葉を素直に伝えた。
「ヘリは孤独っすね」
横目で隣のぺん兄をみると、前を見たまま少し遠くを見るような目で話し始めた。
「ヘリは孤独だよ。基本、生存重視で情報を落とすことが仕事になる。地上の仲間の戦いを見守ることしかできない。もちろんアタックヘリという役目もあるけど、1台しか出していない状況だったり、今警察にいるヘリ乗りも優秀だから難しいよね」
ぺん兄は前を見ていたが、ふとこちらに顔を向けて優しい声で続けた。
「でもそこに気付けたら、もう立派なヘリ乗りだよ」
ぺん兄は ─── 師匠はずっとこんな気持ちでヘリに乗っていたのだろうか。
師匠の背中は大きい。犯罪でどれだけ自分たちを助けてくれたか。2台のヘリ相手にアタックを避けて、情報を落として、仲間のフォローやピックまでする。時には新人組に銃の撃つ方向や射線や遮蔽まで教える事もある。
でも、あれだけすごいヘリ乗りなのに「たいした事していない」と自分を卑下するのはちょっとイラッとする。多分、ぺん兄よりすごい人がいると思っているからなのだろうけど、ぺん兄だって「すごいんだよ」って言いたい。
だって、ワイはしろまんた先生とぺっぱーさんとみつきさんしか知らないもん。たまに聞くピンクや青い人なんて知らない。どんなにすごくても見たことのない人と比べるなんてできないし、ぺん兄がすごいのは事実だもん。
やがてアジトに到着し、ヘリから降りる。
「お迎えありがとね」
自分は操縦しながら悶々としたのに、なんかすっきりしているぺん兄にイラッとして殴ってみた。
「えぇ〜!なんでぇ?」
「あはははは」
「こらぁ」
追いかけてくるぺん兄を躱してアジトに逃げ込む。
ヘリは孤独だ。
それは揺るぎない事実だ。
だからこそ、ぺん兄のそばにずっといたい。ヘリ以外のこともたくさん一緒にしたい。
あとぺん兄がどれだけ卑下しようとも、それ以上に「すごい」って言ってやるんだから。ずーっと。聞き入れないなら殴るんだから。
ワイが追いかける背中はすごく大きいんだから。
覚悟してほしい。
Golden Hour
太陽が沈む直前の光が輝く時間。夜の闇色と夕日の黄金色、茜色。
空を駆け抜けた兄妹の色。