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─── 警察、辞めよっかな。
街にきて1週間ほど。数日前に設立されたギャングたちの犯罪対応をしていて、そう感じてしまった。
ギャングの数は5つ。1つのギャングあたり概ね10人ちょっといるらしい。対して自分たち警察は多い時に30人近くいる。複数の犯罪が同時に起こっても十分回せる。
徐々に中型と呼ばれる集団で行う規模の大きい犯罪が発生し始めた。
警察は6割が初心者。残り4割のうち警察職の経験者で中型以上の現場対応まで慣れている者となるとその半数程度で自分もその中に入る。さらに言えばヘリでサーマルやピンを打ちながら操縦できて、情報まで落とせる人員はほんの一握りだ。
当然、現場では経験者組が前線を張り新人組を引っ張る形になっている。犯罪発生の頻度が高いせいで、新人に教える余裕が少ない。ギャングの新人も例外はあるだろうが同じか、あるいはもっと深刻な状況なのだろう。
結果、ギャングは利確ができずほぼ全員逮捕される事が続く。
金を稼げなければヘリもいい車も武器も買えない。それらの用意ができなければ、いくら手練れでも犯罪なんて成功しない。自分たちは車両も武器も簡単に手に入れることができるし、そのための金も罰金の何割かが手に入るし、車両の修理も署内の修理台を使えば自分の懐は痛まない。
だからといって手を抜くという話にはならないし、ギャング側もそれは望んでいないだろう。自分にできるのはせめて麻薬生成関係の見回りに自主的に行かないこと、プリズンの収容期間を個人の裁量として短くすることくらいだ。それ以上は汚職を問われる。
ある日、紫色のギャングが少人数で宝石店強盗を行っていた。初めてだったらしく結果は逃走すらできず全員逮捕。後から分かったことだが、この時は実力も知っている古参が3名。実力は知らないが名前は知っている者が2名。新人が4名。この人数と割合で宝石店強盗を成功させるのは正直無理だ。配置もだが、あそこはギミックが多いと聞く。
警察は事前に現場は不明だが犯罪を計画しているのがどこのギャングでヘリが何台準備しているかを知ることはできる。こちらは最低でもヘリを2台は出せる。今回は自分とまんた先生とでヘリを担当することにした。
現場上空の空を飛ぶ。相手のヘリの操縦席に特徴的な黄色い仮面が見えた。ぺいんとさんだ。彼相手なら遠慮はいらないだろう。
もう1台のヘリとスイッチしながら宝石店内、周辺屋上、ラークの情報を落とし、ギャングヘリへのアタックを行う。何も分からない新人たちが自分たちの情報を元に「それだけやれば良い」状況にする事に全力を傾ける。
定石通り、外側に配置されている犯罪者から逮捕していく。屋上に上るための階段をカバーするために別の屋上に警官を配置したり、詰めていく警察官のフォローをする。合間に邪魔してくるヘリをアタックし警戒する。
やがて屋上は制圧され、1台だけいたラークも確保された。ギャングのヘリが修理に行った隙に、屋上にヘリを下ろしダウンしている犯人たちをヘリに乗せていく。このまますぐ警察署へ護送しても良かったが、ギャングの新人たちも現場を見たかろうと思いヘリに乗せたまま、引き続き現場周辺を警戒する。
そうしているうちに修理の終わったヘリが戻ってきた。自分のヘリが屋上にいたギャングメンバーを護送していると知ると、アタックを仕掛けてきた。とはいえ屋上の犯人は確保したので援護射撃も無い。
だがこの状況でもギャングヘリ ─── ぺいんとさんは叫びながら向かってくる。
「子供たちを返せ!」
こちらはヘリが2台、うち1台はヘリTOPクラスのまんた先生。1対2の状況な上、こちらのヘリの方が性能が上。正直、相手に勝ち目はない。
アタックをしたり避けたりしているうちにぺいんとさんのヘリはダメージを蓄積して煙を噴いた。だが、爆散させようとしたアタックは上手く躱され、地上に安全に降り立った。
すぐさま付近のビルの屋上を取り、射撃をするが上手く別の建物の影に入られ射線を切られた。無線で報告を入れるとパトカーの警察官が向かい、すぐ確保したらしい。
残るは中の3名のみ。これ以上のヘリは不要と判断し、かなりの時間ヘリに乗せ続けたギャングを護送した。
牢屋対応をしていると現場が収束したらしく他の犯人も運ばれてきた。そこにヘリのぺいんとさんもいた。
「ペッパー!てめー、この野郎!」
ぺいんとさんに開口一番そんなことを言われたので、わざと茶化してみる。情けをかけることはしないが、自分一人が悪者というかピエロになることでガス抜きができればいいだろう。
しばらくぺいんとさんをからかっていた。吠えたり脱走したりしていたぺいんとさんは、今はおとなしくまんた先生と話している。古参かつ歴戦のヘリ乗り同士、いろいろと話すことがあるのだろう。これ以上ここにいてもしかたないと思い、次の事件に備え地下のガレージから表の駐車場に出る。
表では先ほどの宝石店強盗の話をしている新人たちが目に入る。それを横目に筋トレをする。
同じぐらいの若者なのに、先ほどのギャングたちと警察官とでは1つの犯罪にかける雰囲気が違う。言うなれば覚悟とか背負っているものが違う。
比べる話ではないし、この状況も今だけで、ギャング側の資金や物資が潤沢になればひっくり返されるとは思う。
─── 警察、辞めよっかな。
ふとそんなことが頭に浮かんだ。
今の警察は過去最高の人数で離職者も少ない。経験者もそれなりにいるし、新人でも撃ち合いが強く古参並みに立ち回れるものもいる。全体としてしんどいとかつらいということも無く上手く回っているような気がする。その一方で………。
筋トレをしながら自分だけではどうしようもない街の在り方を考え込んでいた。
あくる日も同じように犯罪対応をして回っていた。
少しずつだが成長している新人たちの様子を見ながら、人員の少ないヘリに乗ったり教えたりすることが増え始めた。この街のギャングの数は多い。警察は1つの犯罪現場で対応できる人数の上限があったとしても、ギャングの数倍は犯罪現場に行ける。場数が増えれば経験値もたまりやすい。
─── 警察、辞めよっかな。
頭によぎった考えを振り払うように自分のバイクを出し、気持ちの整理もしようとパトロールに出かけた。
メカニックの駐車場に紫のヘリと見慣れた仮面を付けた男性が見えた。先ほどパレト銀行強盗で捕まっていたので出所後にヘリの修理に来たらしい。
あいさつをし、軽口をたたき合いながらふと思ったことを伝えてみる。
「俺、メカニックになろうかなって。半グレで遊べるし」
「なんで?警察は?」
「経験者が多いんでね。今ちょっと悩んでいて」
「新人教育すれば?」
「今、ちょうど一人教えているんでね。その子が独り立ちできれば」
思い立ってここ数日悩んでいた事を口にしてみる。
「………ヘリ、むずいっすよね」
彼なら相談に乗ってくれるかなという淡い期待でぼやいてみたが、タイミング悪く向こうの無線で会話していたし、終わればメカニックに話しかけられていたので、反応はもらえなかった。
辞去のあいさつだけしてその場は立ち去った。
再び紫ギャングが起こしたパレト銀行強盗で新人の運転するヘリに同乗した。パレト銀行強盗は人質がいるため即撃ち合いにはならず、逃走するギャングを追いかけることが主流だ。高速道路沿いに味方を配置して撃ち込みをすることもあるが、陸も空もチェイスが主体のため新人教育にはうってつけだ。味方のヘリは2台でどちらも操縦士は新人。相手は1台。見慣れた仮面のぺいんとさんだ。署長とも相談し情報よりも追跡とアタックを優先することにした。
チェイスが始まり序盤は追跡、街中に来てからはアタックのコツを教えながら追いかける。
不思議な事にぺいんとさんのヘリは先日のようなアグレッシブさがなく、こちらを誘導しているかのようだった。ヘリの手練れであれば高速で下降するためにあらかじめ上昇したり、道路沿いよりも山間や谷、障害物を利用して引き離す動きをする。アタックするヘリもいる。
なのにやけに追いやすい。これはこちらが新人と気付いて追えるように手加減している可能性がある。撒くことだってできるのに、途中でホバリングして様子をうかがっていたし、今だって本気でアタックすればこちらのヘリを潰す事もできるのに、アタックを誘導しつつ躱して煙を噴かないようにしているようだ。
実地でギャングヘリとはこういうものだと教えているつもりなのか?あの人は別の街での警察経験が長い。加えてお人好しな気がする。そういえば先日、新人が小型犯罪でチュートリアルされたと言っていた。
まぁ、どんな思惑であれ、こちらにとっては好都合だ。新人教育の相手になってもらおう。
新人はなんとか追いつきアタックをする。だが、躱すのもビルを利用して逃げるのも上手い。ひらひら避けられ決定打にならない。そしてこちらはアタックをした後にビルにぶつかり不時着した。応急修理をして本署に戻る。
本署に戻ったタイミングでほぼ収束したので、牢屋に向かう。すると先ほど相手していたヘリの操縦士 ─── ぺいんとさんがいた。あの後、ダメージを受けたヘリをおいて仲間と逃走用アジトに逃げたがぺいんとさんだけ逮捕されたらしい。途中の動きや言動からも彼が金持ちではないと思っていたが、なんとも不憫だ。
現場と牢屋で見た感覚でしかないが、前日ぐらいから紫を含め、どのギャングも逮捕者はいるが利確していることが徐々に増えてきた。
そんなことを考えながら駐車場を歩いていると先ほど一緒にヘリに乗った新人───のきまること花ノ木まるがやってきた。ずいぶんと微妙そうな顔をしていたので声をかけてみる。
「どうだった?」
「悔しいです。手加減されていると感じました」
ほーん。相手の動きを見てそう思えたのか。
「あと、追うだけならなんとかなりそうですが、情報を落とすことが難しいです。」
向上心あるな。練習と実践を積み重ねればいっぱしのヘリ乗りになれるか?自分の苦手な部分や次に覚えたいことも分かっているみたいだし。
「次の現場でもヘリ出すけど、片方は経験者にやってもらってアタックしながらその人の無線の使いとか情報の出し方を見てみようか」
「はい」
タイミング良くクルーザー強盗発生の通知が届く。ヘリポートに向かうのきまるに付いていきながら数日前のことを思い出す。
─── ヘリ乗りになりたいです!教えてください!
彼女はすごく頑張っている。勤務外でもストイックに練習している。ヘリ乗りの教育は難しい。だが、その分教え甲斐はある。
今日はぺいんとさんが手加減していたとはいえトップクラスのヘリに自滅せず食らいついて行くことができた。
空へ手を伸ばす弟子の姿を想像する。
─── もう警察を辞めようという気は無くなっていた。
弟子 ─── のきまるの成長はすごい。ボブキャットヘイストなら一人でサーマルと報告までできるようになった。
SNSで見かけた弟子の壁紙が当たらないかなと壁紙ガチャを引いていると、非通知の番号から着信が入った。
「もしもし〜?」
─── ペッパー君?オレ。ぺいんと。今、大丈夫?
「ああ。はいはい。どうしましたぁ?」
─── 折り入って頼みがあるんだけどさ、パシフィック銀行と貨物列車強盗の配置の相談にのってくんね?オレ詳しくなくてさ。
「あー。まぁ。いいっすよ」
─── んじゃ、勤務時間終わってからでいいからxx時に目処にパシフィック銀行に集合で。
電話はあっさりと終わった。
と言うか、あれほどできるのに教えてくれなんだ。っていうか俺に聞くんだ。あー。そうなんだ。以前の街でギャングにいたから相談には乗れるけれど。
勉強熱心なんだなと思いながら引いたガチャで求めていた弟子の壁紙がでた。
「よし」
急いで署に帰る。
これを渡したら弟子はなんて言うのかな、とか考えると楽しくなってきた。
Police Blue
警察の制服に用いられる青色。