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レオさんのいない彼の部屋で、うずめさんとののかとが顔を突き合わせてまだ何やら相談している。レオさんとカリンちゃんがバイトに出かけてそろそろ3時間。まだ商談が纏まらないのか、それとも他の話になっているのか。あたしはまだベッドの上でうつらうつらとしている。レオさんたちが帰って来て顔を見たら部屋に戻るつもり。そしてなんとも生々しかったあの札束はののかに預けてしまった。あーゆーのは触り慣れている人に預けるのが一番だわ。いつまでも側にあると貧乏性なアタシは気にするし。
「こんどの満月の夜ね〜。えーっと…ほら?。スマホでは明後日っすね。」
「あさって?。…そう。…こっちの暦だ…と日曜日なの……ね。ありがと。スマホを使お…うとすると……時どき…指先がパリッて…なるの。そうだ、そろそろ…夕餉をつく…るから、ののかさん…も……食べて……いって?」
「それならあーしも手伝っちゃおう。それにしてもうずめさん、レオ様が居ないと随分と話しづらそうっすねぇ?。それだけレオ様の生命力?が影響してるんっすか?。(う〜む。なんだか改めて感心してしまうっす。)」
「うふふっ。もしレオと……出逢わなかった…なら、うずめは今も…何も…できないまま…だったわ。はじめさん…だいぶよくなった…みたい…ね?。」
うたた寝をしている彼女の顔も綺麗に治っていてひと安心。鼻も折れてたし左目の眼球も潰れてた。前歯も何本か無くなっていたのだけれど、うずめの勘違いのせいで処女まで喪失させちゃったから何とかしてあげたかったの。今のうずめでは傷を治してあげられないからレオに方法だけ教えたけど、無理をさせてごめんなさい。でもこうして皆んなといると生きていた頃みたいで楽しい。15で籠女に入れられたから…何もできなかった。
「♪。♫。♪。♪。♫。」
「おお?鰤大根っすか。へえ。さすがに手際がいいっすねぇ。美味そ♪」
「うふふ。…レオが…食べた……いって言って……たから♡」
広くはないキッチンで、あーしはうずめさんと並んで野菜たちの皮を向いてみた。適度な長さで切った大根に包丁をあてがって、皮をクルクルと剥いてゆく彼女に目が点になる。あーしは筑前煮用の人参の皮を剥くのにピーラーを使っていても凸凹になったのに。幽霊さんは女子力が半端ない…
しかしどちらの好みなのだろうか?。ノースリーブな白いニットのワンピース。そして丈は少し長め。ウエストが絞れていてあーしのジャージに負けないくらいメリハリボディーに見える。…これはきっとレオ様のチョイスに違いない。なんだかんだでレオ様は〜ちゃんとむっつりなのだから♡
「もう新婚さんみたいじゃないっすか。むぅ。…すこし妬けるっすぅ。」
「えへへへ♪。おい…し…いって…言われた…いから、頑張る…の♡」
う〜む、笑顔が眩しいとはこーゆーことを言うんすね。初めて会った時はいきなり背後にいて驚いたけど、レオ様への想いはあーしと同じみたいだし。しかし人間と幽霊の恋なんて不毛とか思わないのかなぁ?。あ。でもちゃんと抱き合えたりするから違和感とか無いんだ。う〜。生身の人間が幽霊とか触っても空振りするもんじゃないの?。でも触ってみたいかも…
「うずめさん。…とんとん。(せめて指先だけでも。ほら振り向いて?)」
「はい?。(ぷにゅ。)なんれ…ふか?ののか。」
「えっへへぇ〜♪。つんつん♪なんちゃって♪。(ほっぺ柔らかっ!?しかもちゃんと暖かい。…う〜ん。人間の女の子…そのものなんすねぇ。)」
「…もう。…あ。お鍋…焦げてません……か?。ほら、の…のか?」
「え?。あああっ!?。……ふぅ。ぎりセーフっす。…良かったぁ。」
「ん?。せーふ?。(レオも時どき言うけれど『せーふ』って…なに?)」
煮物は油断すると火加減しだいですぐに焦げるのにののかったら、もう。でも今の日ノ本の言葉って不思議な物が多いの。てれび?もそうだけど、枠の中で話してる人達の言葉がなかなか難しくて、つい聞き入っちゃう。
面白いのは画面がコロコロ変わる所。小さい時に見た紙芝居みたいで毎回驚かされる。雅楽?とかいつも流れてて退屈しないし。でもてれびばかりを見ていると、いつの間にかレオが寝ちゃってるから時間が勿体ないの。
レオの寝顔に触れてみたり、軽く口吸いしてみたりして、うずめなりに楽しんではいるけれど、やっぱりお膝に乗りたいし、優しく抱き包まれているのが一番好き♡。次の人生は必ずレオの側に居てずっと触れ合いたい。だからこその輪廻転生。今のうずめが一緒にいると…負担が大きいから…
そして満月の夜は禊の夜。あの浮島にいるもう一人の自分に会いに行かなければ二度とひとつに戻れなくなる。そしてもしも叶うのなら、うずめの言葉にもう一度だけ応えて欲しい。次の命を預けられる人ができたの、次こそは普通の女の子として生きられるの。だからお願い、もう一度だけでいいからうずめの声に応えて。レオへの想いは同じなのだから。お願い。
「はい♪。レオさんも、かりんちゃんも、お疲れさんどした。ああ、そうそう。昨日、すぐ近所で神隠しがあったらしいから気を付けてなぁ?」
「神隠し…ですか?。今どき珍しいですね?。(もう広まってるのか…)」
「なんでも繁華街にある老舗なバニー・バーの支配人が、車を置いたまま消えたんだってさ。しかも所持品とか残して。だから神隠しなんだよね。」
今日も大忙しだった焼き鳥かのえの掃除を終え、反省会とゆうちょい飲みの後でかのえさんが言ってきた。人口が集中しているエリアだけあって、ちょっとした事件でもすぐに広まってしまうらしい。車をはじめ、その他の所持品が全て残されていて、その場に争った形跡も無ければ拐われたと考えられてもおかしくは無いのだろうが、奴らはもう…この世にいない。
「…〈小声〉ちょっとお?もうバレてるじゃん。どうするのよぉ?レオ…」
「…〈小声〉んなこと言ったって悪いのは向こうだからな?。何ヶ月か過ぎれば皆んな忘れてるって。それにうずめは絶対に捕まらないんだし。」
「………。〈小声〉そりゃそうかも知れないけどさぁ?。これでいいの?」
そんな話しがあった後で、いきなり新しいルールが決まった。長い銀髪のシルバーグリーンな瞳を持つすずめ軍曹殿と俺は、退勤時には必ず『熱い抱擁を交わす』とゆう物だ。とても汗臭いのでと遠慮したのだが『汗臭いのはわたしも同じだ!馬鹿者!』と一蹴されてしまう。それでも正面から思いっ切り抱きつかれると悪い気はしなかった。これも師弟ならではか。
「さて。電話してから………あ。うずめ?。……うん。これから帰るよ。うん。………ははは嬉しいなぁ。あ、ハジメさんは?。……うん。……そうか。え?野々神さんも居るの?。…………わかった、うずめがそうしたいなら。」
「…………。(人を殺した怨霊に、鼻の下を伸ばして電話をしている初恋の男の図。そんな嬉しそうな顔して!。…やっぱり異常よね?。でもうずめってゆう怨霊が殺した!って言ったところで誰も信じないんだろうし。レオはホントに気にならないの?うずめさんのこと怖くないの?…ねえ?)」
レオが居なくなるって聞いて高校を辞めた。施設の情報からこの街にいることは分かったけど個人情報だからって住所は教えてくれなかった。それでも僅かな支度金を持って飛び出してきたんだけど、なんだかおかしい。
お店で見つけた時には泣いちゃうくらい嬉しかったのに、今こうして横に並んで歩いていても、とても遠い存在に思えてしまう。幽霊の主張や存在を認めて擁護までするレオが少し怖い。もしかしたら人を辞めるのかも…
もしもあの怨霊がレオを道連れにする気なら、何としても止めなくちゃ。あの初神さんからとても強い霊力を感じるし何とか味方してくれるように説得してみよう。多分レオがやろうとしている事は絶対に人間が関わっちゃいけないことのはず。死者との境界線を越えて戻った人はいないのよ?だから怪談とかに興味が湧くのよ?そのすべてが未知の世界なんだから…
「………うん。じゃあ後で。……なんだよカリン、疲れてんのか?」
「疲れてるんじゃなくて呆れてるのよ!。…ねぇ?レオ。さっきの聞いたでしょう?消えた人達が例え悪人でも人の世界じゃ大騒ぎになるのよ?。そして消した者が人間じゃないとしても罪は消えないの。判るでしょ?」
「あのな?。…言いたくはなかったけどさ、俺はお前にどう思われようが正直どうでもいい。お前はいつも自分が正しくて、自分の考えや想いを一方的に押し付けるばかりで俺の事なんて何も尊重しない。そうだよな?。だから何も言わずに消えたんだよ。そもそも俺がお前に好意を持っているとか考えるほうが厚かましいだろ?。なぁカリン。お前ナニサマだよ?」
「何様って!。レオはあたしを嫌いだなんて一度だって言わなかったじゃない!。抱きついたりすると!いつもふんわり笑うから…アタシのこと好きなんだって思うじゃない!。嫌いだったんならそう言いなさいよっ!」
「はぁ。そーゆートコだよかりん。マジメな話だ。俺はお前を嫌いじゃない。でも好きでもない。幼馴染みだから甘い顔をしてたんだよ。だから学校でも突き放すことだけはしなかった。俺がクラスで孤立しててもな?」
俺は随分と前から、言うべきか言わざるべきかと頭を悩ませていた本音を吐露する。恋愛感情の無い相手でも幼馴染みである以上は傷付けることはしたくないと思うのは普通の感情だと思う。それにカリンも俺と同じ境遇なのだ、もしも突き放したりすれば寂しくなるだけでは済まないだろう。しかし社会に出てまで擁護するのは違う気がする。それは彼女の為にも…
「クラスで孤立ってなによ?。あたしそんなに迷惑かけてないでしょ?。顔を見かけたからくっついたりしてただけじゃない。なにが悪いのよ?」
「高校生や中学生の男女がさ?学校の廊下や学食なんかで、堂々と腕を組んだり抱き着かれたりはしないもんだ。それにお前はファンが多かった。俺のクラスメイトから紹介しろってどれだけ脅されたか知らねーだろ?。そもそも孤児には下らない偏見ばっかりだ。俺と同じ施設から通うかりんをあいつらがどうしたいのかも想像つくから全部断ってた。…それだよ。」
「…なんでよ?そんなこと1回だって言わなかったじゃない。」
「言えばお前が怖がるだろーが。…卒業する直前に職員たちには言っておいたよ。かりんを狙う奴らが学校にいるから気を付けてやってくれって。そう言っておけば地方公務員って立場があるから放置できないからな?」
「!?。だから施設や学校の職員さんや先生たちが…急にアタシに優しくなったの?。えこ贔屓されてるって妬まれたんだからね!レオの馬鹿!」
もうっ!。頭にきてるのか嬉しいのか解んなくなったじゃない!。でも迷惑かけてたんだアタシ。いつもボッチで、たまに同級生みたいな男子たちに小馬鹿にされているのは知っていたし見たこともあったから、励ますつもりで抱きついていたのに。それが逆にレオを苦しめていたなんて、そう言ってくれれば良かったのに何でよ?。アタシを孤独にしないためなの?
「あれあれぇ?。お二人さん喧嘩してる感じぃ?。…う。こいつ汗くせぇなぁ。なぁ?可愛い…おお?このコ瞳が蒼いぞぉ?。しかも本格的な美少女系じゃん♪。おい、お前らも来てみろよ♪。すげぇ可愛い娘だぜぇ?」
「竜ちゃんはまたぁ♪。カップルいるとすーぐちょっかい出すんだからぁ。……おおっ!?。いーじゃんいーじゃんこの娘ぉ♪。ハーフ系の美少女ぉ?だけど身体はなかなか大人だねぇ♪。…あ、オトコは邪魔だから。」
「ちょうどスロ負けてイライラしてるし…男の方はオレに任せてよ竜ちゃん。…お?ほんとだ…汗臭え。…背はオレと同じくらいだけど細いなぁ。なぁ?兄ちゃん。財布とこの娘を置いていけば痛い目にも?ぶべぐっ!」
アパートの側にある商店街への近道な路地に入った途端に、後ろから三人組に声をかけられた。どうやら俺たちを尾行していたらしい。かりんと金を置いていけと、真っ先に突っ込んできたマッチョな男に、俺は左のフックをぶちかます。ほぼ適当に振り抜いたはずなのにクリーンヒットしてしまった。まるでアニメのワンシーンのように…大柄な男が転がってゆく。
「あ〜うるせぇ。…幼馴染みに説教してるところなんだよ、邪魔すんな。それに…おまえらみたいなのが俺は一番ムカつくんだよなぁ。一人じゃなんにもできねぇくせにさ?仲間と徒党を組んだら無敵気取りだしなぁ?」
「きゃっ!?。…ひっ!?。(なんでナイフなんか持ってるのよぉ!?)」
少し驚きながらも、啖呵を切った俺の背後からかりんの悲鳴が聞こえた。そこにはかりんを羽交い締めにしたプリン頭の男が、銀色な何かを突きつけている。かりんを捕まえたままで、俺と距離を取るようにジリジリと後ずさっていく。俺のすぐそこにはもう一人の小柄な男が立っている。青いスカジャンを着たブルーデニムなソイツが、後ろのポケットから何かを取り出した。それを両手で持って引っ張るとシャキンと伸びる。鉄の棒か?
「ほらほら彼女がフリーだったぜぇ?。おっとぉ動くなよぉ。タカシにイッパツ入れたからってさぁ?いい気になるから隙ができるんだぜぇ?。おいアキラ。こいつボコボコにしてやれ。警棒持ってたろ?。なんなら殺してもいいぜ?。龍美川の藪の中にでも捨てて『神隠し』にしてやれや。」
「えへへぇ。多勢に無勢って言葉も知らねぇんだろうなぁ?この汗臭い兄ちゃんはよぉ?。竜ちゃん、こいつ生意気だから本気で殺すけどいいんだよね?。また上に頼んだら始末つけてくれるんだよねぇ?金払えばさ?」
「おう、大丈夫だ。徳本の兄貴に頼めば安くしてくれる。アキラもコイツをぶっ殺して根性つけるんだなぁ?俺もうかうかしてたらお前に追い抜かれちゃうんだろうなぁ?。おおっと?動くな汗くさ兄ちゃん。黙ってボコられろよ、この娘の顔に消せない傷が着くことになるからよ?。あ〜?」
こうなってはお手上げだ。たぶん俺のことだから、殴る蹴るで死ぬことはまずないだろう。このまま抵抗しても革ジャン野郎にかりんを盾にされるのがオチだ。ましてや追い詰めれば本当に刺しかねない。それなら殴られながらでも少しずつ距離を詰めて、隙を盗んであのナイフを一気に取り上げるしか無い。何にしてもかりんが傷つけられるのだけは避けなければ。
「レオ!?反撃しなさいよっ!。レオなら簡単に勝てるでしょ!レオ!」
『ガキッ!ビシッ!バキャッ!バチッ!ビシッ!ビシビシッ!ガスッ!』
「オラオラオラオラオラオラーーッ!。さっさとくたばれ汗臭野郎っ!」
「…………。(くっそぉ〜あと五メートル以上はあるか。もっと左にズレないと。しっかし痛ぇなぁー好き放題に殴りやがってぇ。…覚えてろよ?)」
スライドタイプの警棒だからって少し舐めすぎていた。殴られた時の衝撃もそこそこだったし何より肉を裂かれるように痛かった。ガードするのも弱虫みたいで嫌だったからしなかったけど、やっぱり頭部を狙うよな?。
額や頬や首筋を生暖かさが流れ落ちているみたいだ。それに側頭部を強く殴られたせいか激しい目眩がする。このままだと…ちょっとヤバいかな?それでも女子の幼馴染みがいるのだ、こんな事で倒れたら守れもしない。
「……がはああぁぁぁ。……効かねぇなぁ……もう終わりかよ?アキラぁ…」
「はぁはぁ…コイツぅ〜。こんだけ殴っても声ひとつあげやがらねぇ。特殊合金の警棒だぞぉ?頬骨とか折れてるはずだぞぉ?何なんだよこの男はよぉ?。はぁはぁはぁ…クソッ!。タカシくんちょっと代わってくれよ。」
「あ…ああ…任せろ。…奥歯を二本…折られたからなぁ。…倍返しだ。…」
最初にぶん殴ったデカい奴が眼の前に来た。俺と違ってガチガチなマッチョだ。まだ10月とは言え夜は冷えるのにタンクトップとは恐れ入る。ゴリゴリなアーミーパンツを見ているとやはりすずめ軍曹殿を思い出した。
「きゃあっ!?。触んないでよっ!手を離してっ!。嫌だってば!。手を離しなさいよっ!痛いってばっ!!。レオ!助けてっ!触られてるっ!」
「!?。かりんっ!。(くそ!あんな事する奴がリアルにいるなんて!)」
すっかり油断していた。そうだよ、竜とか言う黒い革ジャン男にカリンを捕まえられているんだった。しかもかりんのもこもこジャンパーの胸元に手を突っ込んでやがる!。そこは乙女の聖域のひとつだぞ!お前なんかが弄って良いところじゃねぇ!。この野郎っ!いますぐぶっ殺してやるっ!
「きゃあっ!どこ触ってんのよ!離しなさいよっ!。レオ!助けてっ!」
「うるせえよ!クソあまっ!。お前は黙って尻出しゃいいんだよおっ!。お!?お前は動くなって言ってんだろうが!?。…え?……あれ何だよ?」
「かりんっ!。…お前だけはぜってえに許さねえ。(!。この感じは?)」
そう。問題はあのバタフライ・ナイフだ。右腕でかりんを抱き寄せてその手に握ったナイフを突きつけたまま、かりんのおっぱいを揉んでやがる!それは!その温かい弾力は!俺だけのモンだったのにっ!。初めて背中に押し付けられた時のあの高反発は!俺の数少ない良い思い出なのにいっ!
俺は得も知れない悔しさと怒りで足を進めた。しかし竜とゆう男は、俺ではなく俺の背後を見ている?。しかも目線が高くないか?。そう思った瞬間にゾワリとしたあの感覚が胸に走った。あの時の気配だ…間違いない。
「…まっ…真っ白い女が…空に浮いてる?。…りっ!竜ちゃん不味いよ!白姫さまだ!あれ!。男に取り憑いて!地獄に落とすって化け物だよっ!」
「ま…マジだ。…竜ちゃん…逃げよう。…婆ちゃんが言ってたんだ。…どんな悪い事をしても…白姫さまだけは怒らせるなって。…お…俺は嫌だよっ!し!死にたくないっ!。ごめんなさい白姫さまっ!ごめんなさーい!!」
「そ…そんな迷信…あっ!?逃げんなよ!お前らっ!?。…ひっ!?。くっ!来るなっ!。あっち行けよ汗くさ男!近寄んなって!?。ひぃ!?」
あれぞ脱兎の如く、だろう。スカジャンのチビとタンクトップのマッチョが歓楽街めがけて逃げて行った。こんな事になるんならメイン・ストリートから遠回りして帰れば良かった、とか言っても後の祭りだ。かりんのおっぱいは犯され、俺の顔面は血だらけになっている。こうなったらこの男も無事では帰さない。今もかりんの胸から手を離さないままで盾にしている男。顔に突き付けていたナイフが喉元に下がっていた。ガチで許さん!
「…殺すんじゃなかったのかよ?。俺を殺すんじゃなかったのかよぉ!どうした!?殺してみろよぉ!?。顔も名前も覚えたぞぉ!?かりんのおっぱい揉みやがってぇ!!。何が尻を出せだぁ!?この張子の竜がぁ!!」
「ひぃいいいっ!?くっ!?来るなぁっ!?。あぐべしゃ!?へげっ!」
俺にもこんな真似ができたんだ。かりんの背後に隠れる革ジャン男が俺の背後に浮いているであろう白姫さまに気を取られている隙を俺は突いた。全速で駆け寄ると、かりんの白い喉を突かんばかりだったナイフを握りしめる。空いた右腕で彼女の身体を抱き寄せてから、奴の膝を前から蹴り込んでやった。激痛に膝を抱えて座り込んだ革ジャン男の顔面を更に蹴る。
「おっ!おいお前っ!。いきなり顔を蹴るなんて酷すぎるだろっ!。…ひっ!?ひぃいい。…待てよ…何するつもりだよ?。本気なっ!?ぎゃあ!」
「殺したい時ってのはなぁ!蹴るんじゃなくて踏むんだよ!。おらぁ!。おらっ!おら!おら!おら!おら!おら!おら!おら!おらぁーーっ!」
「いぎゃ!?がっ!?。ゆっ!?ゆずびでっ!?きゃっ!?ぎゃあっ!。きっ!?うげっ!?やっ!?やべで!?ゆばっ!?ぐばっ!。あ。…ぐ…」
「…………………れ?お?。(きゃー♡。思いっきり抱きしめられてるー♡)」
レオが怒ってる。めちゃくちゃ怒ってる。竜ちゃんって呼ばれてたアウトローみたいな革ジャンを着た男が、何回も蹴られて、何回も踏まれてる。あ。いま顔を踏まれたみたい。あ。歯がボロボロって、鼻も真っ平らになってない?下顎があっち向いてるし。レオって怒ると手加減しないのね♡
でもなんであそこまで怒ってるのかしら?。相手が三人がかりで卑怯だから?それともナイフを出してきたから?。あ。もしかしたらアタシのおっぱいを揉んだからかなぁ?。レオ、おっぱい星人のくせに触ってもくれないのよね、中学生の頃からずっとアプローチしてたのに。このムッツリ♡
「…レオ?。怪我…治したわ。…それにその…男。もう死…にかけてるからヤメて?。…レオが…人殺…しになるのは…絶対にダメ……だから…ね?」
「はぁはぁはぁはぁ…。ああ、うずめが言うなら、コレくらいにしといてやるよ。うずめ?はぁはぁ…わざわざ来てくれたのか、正直助かったよ。まさかガチに人質なんか取る奴がいるなんて思わなかった。かりん?…その…イヤな思いさせたな?。…触られる前に…助けたかったんだけどさ?」
「…ぐす。おっぱいいっぱい揉まれた…ホントに悪いと思ってる?レオ。」
アタシから少し離れた足元で、ぼろぼろになってピクピクとしている革ジャンの男。あれだけ揉みしだいて良い思いしたんだからそのまま死んでも悔いは残らないでしょ?。いいえ!いっそ死んで!二度と顔も見たくないから!。でもショックだわ。本当にショック。あたしのおっぱいを辱められる男はレオだけだと決めていたのに。こうなったら責任転嫁しかない!
「ああ。思ってる。俺の機転がもっと利いていれば結果も違った筈だ…」
「悪いと思ってるのね?。じゃあアタシを愛人にしなさい!レオのせいで汚されたんだから当然よね?。はい決定!。うずめさん♪よろしくね?」
「…そんな無茶苦茶な。…お?うずめ。お姫さま抱っこでいいのかな?」
「うん。それとレオが悪いから仕方がないの。うふふ♪。かりんさん、レオのこと宜しくお願いします。レオ?かりんさんも大切にね?。うふ♡」
ふわりと天女のように舞い降りて来たうずめさんを、俺は両手で抱き止める。胸の中に収まって意地悪に微笑んだ彼女にそう諭された。そしてうずめさんは、その白い衣の袖で俺の顔に着いた血を優しく拭ってくれる。
『かりんの魔性を知らないからそーゆー無責任なことが言えるのだ。』と反論もしたかったのだが、やはりうずめさんには逆らえない。鼻を擽るいつもの甘い香りと、胸や腕に伝わる彼女ならではな温かさと柔らかさ。首に腕なんか回されたら…もう何にも言えなくなる。とにかく可愛いのだ。
それに引き換えかりんのやつは、また自分を押し付けてきやがる。好きでもなければ嫌いでもないってゆうのは、つまり『どーでもいー女』ってことなのに解んないかなぁ?。そりゃ幼馴染みだから庇いはするけどそれだけだよ?。俺はかりんに女を求めている訳じゃなんだからな?。そりゃ可愛くなったのは認めるけど、かりんさんやハジメさん程じゃない。解る?
それでも引き受けたからには構ってやるか。女とゆうよりも妹と言った方がぴったりなんだし、これから知り合う人達にはそう紹介してやるよ。俺が七歳の時からずっと一緒だったのも確かなんだし突き放すのはもうよそう。俺が寂しい時には、かりんもきっと寂しかったはずなんだし。…な?