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「○○ちゃん、起きろ。」
トントンと身体に優しい振動と私を呼ぶ鶴蝶さんの声が聞こえ、ゆっくりと閉じていた瞼を上げる。
『あれ……寝ちゃって…た…?』
車の独特な匂い、痺れるような寝起きの心地よさ、鶴蝶さんの声。五感が一気に刺激され意識がはっきりとしていく。
「ぐっすりとな」
そう言って、鶴蝶さんの薄い唇が微かに笑みを作る。
私は両腕を限界まで伸ばして頭の腕で軽く組み、大きく息を吐く。寝起きの悪い私からすればやけに珍しくはっきりとした視界だ。
焦点をあわせるようにパチパチと瞬きをする。
「おはよ、○○」
その瞬間、イザナさんの声と共に頭に暖かい感触が広がる。頭をぐしゃぐしゃと撫でられ髪が乱れるのを頭上で察す。
『…おはようございます』
“あの話”を聞いた後、なんだか気まずくなって、あからさまにイザナさんから目を逸らしてしまう。
こんなんじゃイザナさんを説得するどころかまともに話すことすら出来ないな、と心に薄荷のような後味が残る。
「……○○?」
目を逸らしたことが地雷に触れたのだろうか。
眉を潜めた疑わしそうな目と怪訝そうなイザナさんの声が体に突き刺さる。あ、やばい。
イザナさんの怒りを察知し逃げようとジタバタする私の腕を掴み、イザナさんが口を開く。
「なぁオマエ……」
鶴蝶となに話してた?
「そろそろ降りろよーオマエら。」
イザナさんの声を遮るように鶴蝶さんが大声でこちらに呼びかける。傍に立っている電柱に小さな字で“渋谷”と書かれているのが見え、やっと東京に着いたんだと理解する。
はーい、と鶴蝶さんに返事をし、恐る恐るイザナさんに喋りかける。
『イザナさん行きましょ』
半ば無理やりイザナさんを引っ張る形で車から降り、東京の地を踏む。
ここが東京か、と新しい空気を肺に送り込む。
空はもう明るい。久しぶりの朝日に体が喜ぶように熱くなり、胸に好奇心が詰められる。
背後から感じるジトリとしたイザナさんの視線を必死に無視し、五感を研ぎします。
神奈川とは少し違う匂い。目に映るものが全て初めてで胸が高鳴る。
「…」
ムスっとするイザナさんをオロオロしながら見つめ、私は心の中で話を遮ってくれた鶴蝶さんに感謝の意を送った。
続きます→♡100