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「――スキル『暗黒裂傷』」
私はわざと声に出して、警備長と同じスキルを発動する。
しかし、私の剣に帯びた黒い輝きは警備長のものとは比べ物にならなかった。
剣の刃を完全に飲み込んだ輝きは、三倍ほどの大きさに膨れ上がり、大剣でも構えているかのような迫力だ。
「は、はは……なんだよ、そのスキル……」
震えた声で警備長はつぶやく。目が左右に動いて、明らかに狼狽していた。
「なにって、あなたと同じ『暗黒裂傷』よ?」
「そんなわけあるか! 俺のスキルは『暗黒裂傷Ⅴ』なんだぞ!!! 最大強化した俺の自慢のスキルだ……なのに、お前のは……剣が巨大化までしてる? 意味がわからねえよ」
警備長は絶望に包まれ、その場に膝をついてぼうっと沈黙する。
よほどショックだったのだろう。そのままでいれば、斬られるとわかっているはすだが、避ける気配はなかった。
「兄貴!!」
「しっかりしてください!!」
人相の悪い二人が警備長に駆け寄る。私は二人に言った。
「このまま、三人まとめて斬ってもいい。でも、今後一切、エルスやこの研究所に近づかないと約束するのなら、その男を連れて逃げてもいい」
その言葉を聞いた男二人は、呆然自失となった警備長に腕を貸し、私たちの前からいなくなった。
元々、斬る気はなかった。力量差を見せればこうなることは予想できた。
だが、私は気づく。
こんな強力なスキル、エルスの前で見せてしまったら、研究者としての好奇心に火をつけてしまうのでは――とおそるおそる振り返ると。
そこには、予想していたのとは違うエルスの姿があった。
いつも表情の変化に乏しい彼女の頬がうっすらと赤く染まっている。瞳は輝いていて、私は嫌な予感がした。
「赤フードさん……いえ、赤フードさまっ!!」
エルスの声色が甘々になっている。
これは……まさか……。
「わ、わたしなんかのことをしっかりと守ってくださってありがとうございます! その、……とってもかっこよかったです……」
私の赤フードは、見る人間によって認識が歪むようにできている。歪む方向性としては、「私に対して抱いているイメージ」が基本だ。
エルスは完全に恋におちた乙女の顔をしていた。彼女は私に好意を持ったようだ。
ということは、めちゃめちゃイケメンの赤フードさんに見えている可能性があった。
エルス……涼しい顔して、案外惚れやすい……じゃなくて。
これからどうすればいいんだろう……。
私は乙女になったエルスの前で、ただただ困惑するのだった。