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―――狂座本部―――
「第十二遊撃師団長ガイラの生体反応消失」
白いコートに身を包んだ学者風のハルが、重苦しい雰囲気の中、結果報告を述べた。
「戦闘を避けろとなってるのに、勝手に先走しって殺られちゃうなんて、ホント師団長の役に立たない事だね☆」
美しい栗色の肩まである髪を掻き上げ、可愛い女の子にしか見えないユーリが呆れながら、それでも冗談混じりに愉しそうに口を開く。
「私の失策でした。きちんと特異点の存在を公にすべきでした」
「やはり特異点で間違いないのか?」
長い腰まである黒髪に、黒く長い装束を纏うアザミがハルに問い掛ける。
「ガイラのサーモが裏コード移行を記録しています。ほぼ間違いなく特異点があの地にいます。しかも我々の敵としてね」
特異点が敵となるなら、狂座にとって最大の脅威になる事は間違いなかった。
「うちは戦闘狂が多くて嫌になっちゃうね☆ 死ぬ前に情報送信とか色々あるだろうにね~★」
「ユーリ、お前が言うなよ……」
“いやアナタもですよアザミ”
ハルは心の中で突っ込みを入れるだけで、口には出さない事にする。
「軍団を投入する予定だったが、返り討ちにあうのが関の山か……」
黒い長髪、巫女の衣装を纏い、恐ろしいまでに美しい顔を歪ませたルヅキが呟く。
”ーー特異点……。忌ま忌ましい存在め。再び我等の前に立ち塞がるか!”
ルヅキにとって四死刀との闘いは、忘れようにも忘れられない忌ま忌ましき過去。
自分の不甲斐無さで数多の犠牲者と、冥王封印という事態が起きた事を今でも悔いている。
「じゃあボクがいくよ☆ 楽しみだね~★ 特異点と闘えるなんて☆」
ユーリが冗談混じりの笑顔でそう述べる。
それは本当に楽しそうに。
「待てユーリ、我々が出るのは早い。それに情報が少な過ぎる」
「そんな事言ったってルヅキ、ボク達の誰かが行けば簡単に済む事でしょ☆」
ユーリの考えは間違ってはいない。だが万が一という事態は避けなければならない。
勿論、特異点は倒す。だが、まずは正確な情報が必要だ。
「私に考えがあります」
ハルがその冷酷な瞳を隠す様に、眼鏡の額縁を指で整えながら言う。
「第四十七軍団を使います」
「ん? 軍団投入は返り討ちになるんじゃなかったのか?」
アザミは最もな疑問を口にする。臨界突破の特異点が相手となると、軍団長では厳しいと言わざるを得ない。
軍団長の平均レベルは『90%』台。
「確かに軍団長では、特異点の相手にはならないでしょう」
ならば投入する意味は?
「闘う必要はありません。無駄死にするだけです。第四十七軍団長は元探索師団、その探索能力は狂座に置いて随一と云える存在です」
“ほう……成る程な”
ハルの提案に、関心した様にアザミが呟く。
「今必要なのは戦闘狂ではありません。重要なのは、あの地への確実な侵入経路及び、一族の戦力及び実態調査。そして特異点の存在確認にあります」
ハルは一呼吸置いて続ける。
「そして恐らく特異点はレベル偽装。通常は低レベルに見せ掛ける様、精神にバリアを張る術も心得ている筈」
その為、師団長の二人は相手の実力を見誤り、呆気無く破れた事になる。
ハルの分析は実に正しかった。
「まずは特異点が誰かを特定する事が重要です」
ハルの戦略内容にユーリが口を挟む。
「えぇ~、じゃあボクの出番は?」
ユーリが叱られた子供の様に、ハルに不満を述べた。
「何を言ってるんですかユーリ。そんなの有る訳が無いでしょう?」
ハルの言葉にユーリは、やだやだと駄々をこねる。
“ーーホントに子供なんですから……”
ハルはユーリの駄々っ子ぶりに溜息をつくしかない。
「心配はありません。全ての情報が確保出来次第、我々で総力を以って潰します」
「そう言う事だ。しばらく大人しくしてなユーリ」
ハルの意見に一理有ると思ったアザミは、そうユーリを宥める。
「じゃあ我慢するよ……。残念だけどね☆」
不満そうだが、ユーリはすぐにいつもの笑顔に戻る。
“やれやれ、単純なんだからなぁ……”
ハルとアザミは顔を見合わせ、ユーリの目まぐるしく変わる感情に苦笑した。
それでも三人にとって、ユーリは憎めない存在である事は確かだ。
「よし、ならばまずは情報収集を最優先。暫くは戦闘禁止令を全軍に通達」
ルヅキはその趣旨を高らかに宣言する。
“そう、まずは確実な方法を”
万が一の失敗は許されない。
“冥王様、もう少しだけお待ちください”
四人の想いは皆一緒だった。
決して仲良しこよしな訳では無いが、深い絆で結ばれていた。
“当主直属部隊”
冥王に選ばれた最強のエリート集団。
「それまで彼等には、束の間の平和を楽しんで貰いましょうか」
ハルが冷酷な笑みを浮かべながら呟く。
やがてくる本当の絶望を。