テラーノベル
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毎日、走った。雨の日も、夜遅くても。
理由を考える前に体を動かした。考えたら、止まりそうだったから。
足は軽くなっていくのに、頭はどんどん重くなる。
空腹は、もう日常だった。
一ヶ月後。
撮影現場の一角。
白い床。
数字がはっきり見える体重計。
「じゃあ、乗ってみようか」
監督の声は事務的だった。
涼ちゃんは靴を脱ぎ、静かに乗る。
一瞬の沈黙。
スタッフ数人の視線。
メモを取る音。
「……うーん」
その一音で、結果は分かった。
「まあ、ちょっと足りないかもだけど」
監督は涼ちゃんを見ずに言う。
「そのうち、ほっそりしてくるでしょう」
“そのうち”。
“でしょう”。
確定じゃない言葉だけが、軽く落とされる。
次は服のチェック。
上着を脱がされ、
骨ばったライン、肋の影、腰の位置。
「カメラ映りは悪くないね」
「もう一段階、シャープになると理想かな」
涼ちゃんは、ただ立っていた。
褒められているのか、
まだ足りないと言われているのか、
境目が分からなくなっていた。
最後に、監督がまとめる。
「じゃあ、撮影は明日からで」
それだけ。
条件を満たしたとも、満たしていないとも言われないまま。
控え室に戻って、涼ちゃんは椅子に座った。
足が少し震えているのに、
誰にも気づかれない。
一ヶ月、走った。
削った。
我慢した。
それでも、
“もう少し”の位置に立たされている。
スマホを見ると、
【元気〜?】
両親からの、いつものメッセージ。
涼ちゃんは画面を伏せ、
小さく息を吐いた。
「……明日から、撮影だってさ」
誰に向けた言葉でもない。
でもその声は、少しだけかすれていた。
コメント
2件
ほんと天才すぎます!!✨